映画『るろうに剣心』京都大火編/amazonより引用

この歴史漫画が熱い! 幕末・維新

『るろうに剣心』ファンの心を揺さぶるSNK問題~オマージュとパクリの境界線

アニメだけでなく実写版映画やミュージカルにもなった、ジャンプの人気漫画『るろうに剣心』。

映画では、佐藤健さんが演じる緋村剣心の剣さばきに目を奪われた方も少なくないでしょう。

その激しい動きは、言ってみれば格闘ゲームの人気キャラ。

人によっては『戦国無双』や『ストⅡ』を思い出された方もいたかもしれませんが、実はこの『るろうに剣心』、とあるゲーム会社の作品と絶妙にフシギな関係を保っているのをご存知でしょうか。

『餓狼伝説』や『サムライスピリッツ(以下、サムスピ)』で知られる「SNK」です。

『るろうに剣心』とSNK作品には、非常によく似たオマージュキャラ(見方によってはパクリ)が多数あり、ファンの間ではいわゆる「SNK問題」として知られています。

幕末を舞台とした超人気漫画がどうしてこうなった?

本稿ではその経緯を振り返ってみましょう。

『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―カラー版』(→amazon

 

志々雄真実=牙神幻十郎

『るろうに剣心』の作者・和月先生はSNKの格ゲー、特に『サムスピ』の大ファンであることを広言しています。

ゆえにデザインそのまんまのサムスピキャラが漫画『るろうに剣心』に反映されることは、熱心な読者にとって周知の事実でした。

例えば、火傷を負う前の『るろ剣』志々雄真実(ししおまこと)が、まんま『サムスピ』牙神幻十郎(きばがみげんじゅうろう)であることは有名です。

 

あるいは『るろ剣』巻町操(まきまちみさお)が、『サムスピ』ナコルルであることもよく知られています。

というか和月先生自体が単行本でハッキリと仰られています。

こうした、今ならTwitter炎上も不思議ではない和月先生のオマージュに対し、SNKはどう対応したのか?

そこには何ともフシギで麗しい共生関係がありました。

SNKは1995年に『サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣』を発表(るろ剣は1994年~1999年に連載)し、緋雨閑丸(ひさめしずまる)という赤毛の美少年を登場させています。

いわば『るろ剣』主人公の緋村剣心です。

 

あれ? 『サムライスピリッツ』ってゴツいおっさんまみれの剣豪ゲームじゃなかったっけ?

ゲームの発売当初、そう感じたサムスピファンがいたばかりでなく、和月先生も「ひょっとして剣心のオマージュかな?」と思ったようです。

ただしこの頃は『幽☆遊☆白書』の蔵馬というキャラもいて(アニメ版のみ赤毛)、こちらのオマージュの可能性も指摘されています。

要は、赤毛で中性的なヒーローが流行していたんですね。

 

こうした酷似キャラを登場させても、お互い怒らない、細かいことは言いっこなし! 『るろ剣』と『サムスピ』には、そんな絶妙な距離感がありました。

それから2年後の1997年、SNKは『月華の剣士』という幕末を舞台にした武器格闘ゲームをリリースし、どう見ても『るろ剣』そっくりなキャラクターを複数名登場させています。

時代設定が幕末であれば、似るのも仕方ないのでは?

そんな見方もできるかもしれませんが、そもそも何かと面倒な幕末を格闘ゲームにすること自体が異例でした。

つまりは『るろうに剣心』あってこそ……。

人気にあやかろうとしている……?

当時のファンがそう思うのも無理はないレベルだったのです。

なんせ、デザインどころか、技名、決め台詞まで共通するものがあり、もはやSNKと『るろ剣』のオマージュ関係なんて、指摘するだけ野暮だ――そんな空気すらありました。

 

裁判沙汰にはならなかったのはなぜ?

オマージュというか、場合によってはパクリと指摘されても仕方のないこの状況。

当時はなぜ炎上しなかったのか?

そう思われるかもしれませんが、実際は抗議が来て大変だったそうで、単行本の余白を見れば、和月先生がいろいろ戦っていたことがわかります。

それなら、なぜ、世間に知られるほど燃えなかったのか?

裁判沙汰にはならなかったの?

実は、SNK側も「人のこと言えた義理やないやろ」と突っ込まれかねない状況だったゆえに、上記のような状態が続いたのかもしれません。

例えば『サムライスピリッツ』の天草四郎は、そのまんま映画版『魔界転生』にたどり着きます。

『月華の剣士』の李烈火は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』の黄飛鴻ですし。

SNKのゲームキャラは、見覚えのある人物がとにかく多い。

『るろ剣』と『サムスピ』の間で問題を大きくすれば、両者ともに危険、下手をすれば国境を越えて飛び火しかねない状況もありました。

 

危険水域でキャラが似ているのに決して訴訟にはならない――その理由をまとめますと

【持ちつ持たれつ】
【お互い様】

という構図が見え隠れしますね。

和月先生も、SNKも、両者のファンも、みんな幸せ、ニッコリできる。

それでいいじゃない。パクリだのトレースだの言い張って、誰が幸せになれるの?

とまぁ、そういうこと。

※『真・サムライスピリッツ』

※『幕末浪漫特別編 月華の剣士 〜月に咲く華、散りゆく花〜』

キャラ酷似問題をまとめると以下の通りです。

【キャラオマージュの推移】

吉川英治『宮本武蔵』他

山田風太郎『魔界転生』

映画版『魔界転生』

SNK『サムライスピリッツ』シリーズ

和月伸宏『るろうに剣心』
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』

SNK『月華の剣士』

もう、何が何やら。

非常に混沌としており、そもそもは吉川英治の『宮本武蔵』から始まっていると言えるのですから興味深い。

 

2020年代だと回避できそうにない問題も

突っ込んでもキリがないし、かつてはそういう時代だった――。

これで終わりにしたいのですが、2020年代以降、デザインを一から見直さなければ危ういキャラクターが『るろうに剣心』にいます。

巻町操(まきまちみさお)です。

るろうに剣心 明治村 コースター 巻町操(→amazon

前述の通り、単行本でハッキリと『サムライスピリッツ』のナコルルがモチーフとされており、それだけなら他のキャラと変わりはないわけですが、彼女には一つ問題がありました。

アイヌ模様の衣装」です。

ドット絵の限界もあるため、サムスピ・ナコルルのアイヌ模様はかなり簡素化されています。

和人がアイヌの模様を勝手に使う、しかも簡素化している時点で実は問題です。

なぜならアイヌの模様は、武士の家紋のようにアイデンティティと直結し、非常に大切なもの。過去には、ある和装店がアイヌ柄の浴衣を企画し、抗議されて販売中止となった事例もあります。

SNKのデザイナーやイラストレーターも、アイヌの模様にかなり苦労したようですが、後世、より的確に考証を行った『ゴールデンカムイ』では、その描写で非常に苦労をされていたようです。

そもそもナコルルのマントも、考証としてどうなのか。疑念が残るばかりか、そのマントが巻町操にも流用されてしまっている。

「いやぁ、SNKの時代考証に期待すんなってことですよ! 王虎もシャルロットもひどいもんじゃないですか〜」

確かに問題は巻町操だけではありません。

王虎の辮髪はなんなんだ?

レイピアは刺突武器なのにシャルロット斬撃の強さはおかしいだろ……。

そういうツッコミもあるのですが、彼らは祖国ではマジョリティです。

シャルロットはフランス貴族。王虎は清の漢族でした。

マジョリティの考証ミスと、アイヌのような少数民族考証のミスは本質が異なります。

要するに、ナコルルにせよ、ナコルルをモチーフにした巻町操にせよ【文化の盗用】に抵触する危険性があるんですね。

操はマントを出さない、デザインのアレンジで回避できる範囲内であると思います。

しかしナコルルは、かなり厳しいとは思います。

和人の雑なアイヌ文化盗用の一例として、教訓になるかもしれません。

しかも、ナコルルは人気があり、作品によってはかなり強いため、アイヌへの差別ニュアンスがこめられた罵倒をする格ゲーファンもいるようです。

そういう無神経かつ差別的な行為があると、ゲームそのものに大迷惑を与えかねません。

 

古くは滝沢馬琴の八犬伝など

パクリ、トレース、オマージュ――。

現在は、連載当時の1990年代と比較して、かなりコンプライアンスが厳しくなったと思えます。

古典文学にしても、民話や伝承の「パクリ」になりかねないものが多い。

例えば滝沢馬琴の『八犬伝』は『水滸伝』を換骨奪胎したものです。落語だって中国の笑い話を翻案した演目が実に多い。

これは近代以降もそうで、江戸川乱歩がエドガー・アラン・ポーからペンネームまで拝借したことは有名な話ですね。

漫画でも同じことが言えます。

一例として、横山光輝版『三国志』。

劉備が母のためにお茶を買う場面から始まりますが、これは吉川英治の創作であり『三国志演義』には存在しない場面です。

それ以外にも、貂蟬の自害など、吉川版をふまえた展開をする『三国志』作品は実に多い。

それほどまでに吉川版が有名であったということですね。

吉川英治といえば、彼が創作した『宮本武蔵』のヒロイン・お通は、山田風太郎『魔界転生』に登場します。

姪という設定ではありますが、吉川英治なくしてあのお通はありえない設定です。

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1990年代に連載が開始された『るろうに剣心』も、そうした時代の空気を踏まえたものでした。

ゲームやアニメのキャラクターデザインそっくり!

読んでいる側がそう思っても、当時は問題になりませんでした。

むしろ単行本でネタばらしをされて「やっぱり!」と盛り上がっていたもの。

和月伸宏先生が自らネタばらしをしているのですから、どうしたって気になるところですが、先生や作品、SNKに対して何か悪く言う気は毛頭ありません。

今後も面白いマンガ・ゲームを世に送り出していただけることを願う――ファンとしてそう申し上げたいのであります。

なお、最後に『サムライスピリッツ』へ歴史ツッコミを入れ、了とさせていただきます。

よろしければ併せて御覧ください。

 

歴史格ゲー『サムライスピリッツ』とは?

今ではすっかりおなじみの対戦格闘ゲームが、日本中で大流行したのは『ストリートファイターII』からでしょう。

名前でわかる通り、2作目です。

1作目はそこそこ流行していたものが、2作目で本格的にブレイクしたのです。

 

その2年後、『餓狼伝説』シリーズや『龍虎の拳』といった格闘ゲームが人気を博していたSNKが、武器格闘ゲームを生み出します。

『サムライスピリッツ』です。

このゲームは、キャラクターが武器を所持しており、血しぶきが飛び上がる残虐さが話題となりました。

日本人は、なんといっても真剣勝負をする武士が大好物です。

武士が滅びた明治時代になっても、剣豪がバタバタと悪党を倒すフィクションは大人気でした。

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そうした武士道と日本人の精神性の結びつきを警戒したGHQは、戦後間もなく禁止します。

それでも、日本人の剣術ロマンへの渇望は募り続けました。

小説でも剣豪が暴れる。漫画でも忍者が暴れる。映画館で博徒が立ち回りをする。テレビでは将軍様が成敗する。美男が悪党を成敗し、美女が剣客を慕う。そんな世界観が受け継がれてゆきます。

映画、テレビ、そして格闘ゲームへ――。

『サムライスピリッツ』は、そんなエンタメに剣客を入れ込みたい日本人のニーズにマッチしたものでした。

 

ツッコミどころ満載のキャラてんこ盛り

そんな『サムライスピリッツ』について、歴史的にざっと突っ込んでおきますと……。

主人公の覇王丸は宝暦13年(1763年)生まれ。

小林一茶、ジョゼフィーヌ(ナポレオン皇后)と同い年ですね。

イメージモデルは宮本武蔵、デザインモデルは手塚治虫『どろろ』の百鬼丸とされています。

いい歳こいてどうして「丸」と名乗っているのか? しかも「覇王」って。

そういうツッコミは野暮です。

 

その他、こんなキャラクターたちもおりましたので、ツッコミつつ見ておきましょう。

二刀の剣豪・柳生十兵衛

二刀流ってむしろ宮本武蔵では?

忍ばない忍者だなっ!

ガルフォード!

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シャルロット!

『ベルサイユのばら』ですよね? なんで甲冑を身につけていますか? 刺突武器のレイピアなのに斬ってくるのはえげつないと思います。

王虎!

どういう弁髪なんだろう。少林寺? なんで普通に棍棒ではないのでしょう?

千両狂四郎!

歌舞伎役者なら、歌舞伎をしようよ……。

天草四郎!

どこかで見た記憶が……。

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チャムチャム!

南米出身なのに、オーストラリア先住民の武器であるブーメランを使っているのはマズいのでは……。

「南に住む原住民」という存在を、ゆる〜く敬意も考証もせずにゲームに出してしまった。そういう時代ならではの無神経さを感じてしまう。

ナコルル!

前述の通りアイヌ模様の衣装が……。

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文:小檜山青

【参考】
コミック『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―カラー版』(→amazon
映画『るろうに剣心』(→amazonプライム
映画『るろうに剣心 京都大火編』(→amazonプライム

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