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【昭武と栄一の遣欧使節団】
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水戸侍 海を超えてもやらかす
幕末は各藩で暴力傾向を強めましたが、中でも際立っていたのが水戸藩士です。
尊王攘夷に浸り切った水戸藩士をフランスに連れていく時点で嫌な予感しかしませんが、案の定やらかしました。
パリに到着しようが、髷に刀で玄関先で警備にあたる。
昼間はおとなしいのに夜になると元気になり、腕まくりして歩き回る。
ロンドンのホテルでは、部屋から椅子やテーブルを撤去し、床の上で座って悠然としていたそうです。
誰もが西洋風紳士の振る舞いができたわけでもありません。むしろホームシックを手紙に綴っています。誰もが渋沢のように切り替えはできないのですね。
やたらと多いし、無駄に滞在費はかかるし、外聞も悪い。
ぞろぞろとついてきた水戸藩士を、昭武につける人数制限をしようという案が出ます。
帰国させるのではく、名目は「皆様はフランスで学びましょう」とつけられました。
しかし、水戸藩士は怒る。
全員が揃わねば昭武を外に出さぬと言い張ります。
ここで駆り出されたのが渋沢です。
交替で3名までが警護するところまで、折衷案を出してなんとかしたのでした。それでもまだ話し合いでなんとかなったのですから、日本国内での闘争に比べれば甚だおとなしいと言うべきでしょうか。
なお、この使節に同行した水戸藩士は帰国後もさしたる記録も残らず、わずかながら地元水戸において活躍したことがわかる程度です。
天狗党と諸生党の抗争の中では、仕方なかったのでしょう。
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滞在費がない
幕府の杜撰な旅行計画に、なんとなく不安になってきませんか?
案の定、滞在費が心もとなくなります。
今回の遣欧使節団は、フランスに借款を申し込む予定でした。
日本での軍備や内政に使うためですが、一部は彼らの旅費に充てることもできるでしょう。
その交渉のためにも幕府きってのフランス通である栗本鋤雲が途中から呼ばれます。
ドラマ『青天を衝け』では、もしかすると渋沢がテキパキと金銭問題に取り組むように描かれるかもしれませんが、史実では栗本が中心となっています。
日本の産物で目を引いたのは?
幕府は貿易目的だと理解しており、産物の輸出を視野に入れていました。
これは明治以降も続くこととなり、実際、パリ万博(パリ万国博覧会)では何を出品したのか。
以下にざっとリストを挙げてみますと……。
・象牙細工
・七宝焼
・青銅器
・陶磁器
・玉(貴石)
・蒔絵
・煙管
・根付
・浮世絵
・漆器
なかでも「ブラボー!」と目を引いたのが、細やかな細工品と漆器です。
漆器を”Japan”、磁器を”China”と呼ぶことからも、その人気とインパクトが窺えます。
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さらには、茶店には江戸柳橋松葉茶屋から来た芸者のすみ、かね、さとがいました。
日本髪、振袖、丸帯で、江戸娘そのままのしぐさで日本茶やみりん酒(焼酎を甘く醸造したもの)を振舞います。この3名に来場者の目は釘付けになります。
拡大鏡で観察する客。
「どうかその服を譲って!」と頼み込むお嬢様まで出たほどでした。
マダム貞奴の先輩ですね。1980年大河ドラマ『獅子の時代』のヒロイン・もんは、こうした芸者という設定でした。
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そうした公式参加者以外にも、耳目を集め、金を稼いだ日本人はおります。
日本人曲芸師 パリで話題となる
当時、日本人でも尊王攘夷思想にハマっていたのは、水戸学をおさめた国粋主義者くらい。
庶民は「海外で何か儲けられないか?」と考えていました。
実はそんな野心を秘め、コマ廻しの松井源水一座が幕府の免状を得て、巡業に出ていました。
日本の大道芸は、サムライソードを用いたものもあり、パリっ子からすれば未知のもの。
欧米の興行師も目をつけており、アメリカ経由で浜碇定吉一座もやってきます。
この浜碇一座に、昭武が報奨金を与えました。
すると『フィガロ』ら大手新聞が記事にして、また盛り上がる。
高野広八率いる一座も乗り込み、これまた大好評!
幕府とフランス、それに政府が出てくるよりも前に、国際的な興行師と芸人は手を組んでいました。
マスコミも儲かるからニュースにし、金が回るサイクルが形成されています。
パーっと稼ぎ、パーっと使う。
芸人たちは渋沢栄一もぞっこんになったパリの美女とも楽しみ、日記に記録を残したのでした。
そこには痛快な日本人の姿があります。
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