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【ミネルヴァ日本評伝選・西郷】
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人間関係の軋轢
本作は西郷周辺の人間関係についてもよくわかります。
主君である島津久光と西郷の関係は悪いことは指摘されてきたことですが、彼らの関係性も丁寧に描いています。
小康状態を保ったときもあるとはいえ、彼らの関係はすれ違いの多い不幸なものでした。
筆者は必ずしも西郷側の立場に立たず、久光の心情にも理解を示しています。
西郷の敵とされる島津久光はむしろ名君~薩摩を操舵した生涯71年
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一方だけが悪いのではなく、相性の悪さとすれ違いが彼らの対立を決定的なものにしたと、本書からはわかります。
こうした不幸な人間関係も、西郷のストレスを増やすものでした。
明治になってからの西郷の精神的な苦しみは、人間関係に悩む人々にとって共感をおぼえるものではないでしょうか。
西郷が誰からも愛し愛される大河ドラマではおそらく描かれないであろう、複雑な人間関係がそこにはあります。
恰幅のいいハムレット
本書を読んで生まれた西郷のイメージは、
【恰幅のいいハムレットのような男】
でした。
神経質で、目的を遂げるためならばどんな手でも使って成し遂げようとするものの、その過程で傷つき最後は倒れてしまう――シェークスピア悲劇に登場する王子です。
「生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ」
このハムレットの独白が、明治以降の西郷にはぴったりとあてはまります。
目的のためならばどんな手を使っても構わないし、うまい汁や権力にありつきたいならばそうすればいいのに、それができずに滅びてしまう。
従来の西郷像像とは違い、かなり複雑な一人の人間が浮かび上がってきます。
西郷はハムレットと同じく、死の影に取り憑かれているようにも思えます。特に明治の世になると、その長い暗い影が彼の心を蝕んでいるように見えてなりません。
彼の破滅にもつながった行動は「死」。
しかも戦場での死に取り憑かれていたのではないかとさえ思えます。
それを小説やドラマではなく、あくまで伝記で説得力のある裏付けをしていることに、本書の持つ強い力を感じます。
シェークスピアの悲劇のような、沈鬱な読み応えがある伝記です。
前半は複雑な政治劇。
後半は謎の多い悲劇。
前半後半を通してつきまとう、心身が傷つけられた西郷の姿。
本書を読み終えて浮かび上がってくる西郷の像は、決して明るい英雄像ではありません。
だからこそ読む価値があるとも言えます。
謎めいて陰影に富んだ、彼の人生をたどる一冊として、本書は現時点で最も価値のある西郷伝記といえるでしょう。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
家近良樹『西郷隆盛:人を相手にせず、天を相手にせよ (ミネルヴァ日本評伝選) 』(→amazon)