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【徳川綱吉】
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光圀と綱吉
徳川綱吉の同時代人に、水戸光圀がいます。
フィクションでも人気者であり、若い頃は辻斬りをするような「武」の人。綱吉と対照的な評価をされています。
偽善的な綱吉の鼻っ面をひっぱたくような逸話が、光圀に残されています。
「生類憐れみの令」が出された際に、犬の毛皮をわざわざ贈ったというものです。
この逸話が真実であるかどうかは、判然としません。
ただ、この逸話が痛快なカウンターパンチとしてもてはやされたことは、当時の人々の心理を示していると言えます。
光圀を褒める一方、綱吉を貶す。
フィクションで大人気の光圀が同時代人として存在することも、綱吉評価にとってはマイナスでしょう。
皆さんご存知の通り、フィクションの『水戸黄門』が大人気であり、名君とされています。
ただし実際のところは、高い税率を課す等、庶民に対しては厳しい主君でした。
誤解された名君
柔弱で迷信深く、マザコン気味の暗君と評価させる徳川綱吉。
彼の名は、今でも嘲笑とともに口にされることが未だに多いようです。
当時、綱吉に接したドイツ人医師エンゲルベルト・ケンペルの綱吉評を見てみましょう。
「現在統治している将軍綱吉は……偉大で優れた君主である。
父親の美徳を受け継ぎ、法を厳格に遵守すると同時に臣下には慈悲深い。
幼少の頃より儒教の教えを叩き込まれ、国と人々を、相応しいやり方で支配する。
彼の下ではすべての人が完璧に仲良く暮らし、神々を敬い、法に服し、上に立つ者には従い、対等の者には丁重さと好意をもって接している」
ケンペルは、武士道や先入観とは無縁です。母親が八百屋の娘である綱吉を「劣り腹」とは思いませんでした。
『忠臣蔵』や水戸光圀が主役の物語や、後世おもしろおかしく脚色された綱吉の伝説とも、無縁。偏見のない同時代人として、綱吉を評価しております。
このケンペルの綱吉評を、軽視することはできないでしょう。
★
生命倫理を重視した江戸の将軍として、綱吉は再評価されるべき存在です。
彼が統治する以前、日本人は旅人が病気に倒れると、家の外に放り出すことが当たり前でした。
道には動物の死体も、人間の死体も、ゴロゴロと転がっていました。
そんな日本の光景を変え、日本人の心から戦国以来の殺伐とした部分をとりのぞいたのは、徳川綱吉です。
この一事をもっても、綱吉は慈悲深い名君と言えるのではないでしょうか。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
国史大辞典
ベアトリス・M・ボダルド=ベイリー『犬将軍―綱吉は名君か暴君か』(→amazon)