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デメリットも受け入れて身分移動しなさい
罰せられるぐらいだったら、なぜ身分移動の手続きをしなかったのか。
なぜ、簡単なことを済ませておかないのか?
そんな疑問が湧いてくるかもしれません。
実は身分移動にはデメリットもありました。
例えば、百姓から武士としての身分を買うとする。
そうなると、百姓として所有していた土地の所有権を手放さなければいけなくなるケースも当然あるわけです。
新身分で生きていきたい、けれども踏ん切りがつかない。こうしてグズグズとした結果、罰則を受けてしまう。
「YouTuberとして食べていけそうなんだけれども、一本だけでやっていけるか……。会社員としての安定は欲しいんだ」
その手の悩みは、江戸時代人でも現代人でも同じでした。
ちょっと待て! その浪人、悪徳金融業者では?
浪人と言いますと、うらぶれていて貧乏だというイメージがあります。
時代劇には欠かせないシーンですね。
傘張りの内職をしていて、用心棒で小銭を稼ぐ。住まいは長屋。こんなところでしょうか。
※月影兵庫とか
ところが、江戸時代にはこんな野次が飛んでいたと言います。
「よっ、金貸し浪人さんじゃねえか!」
浪人が金を貸す?
借りるではなく、貸す? どういうことだ?
こんなのはレアケースでしょ?
と、思いきや、次のような流れで頻繁に実施されます。
【売買される旗本名】
貧乏浪人、切羽詰まって名義を売る
↓
悪どい金融業者、旗本名義ならば箔がつくとこれを買う
↓
金貸し浪人、誕生!
いくらなんでも、将軍様お目見えの旗本ならば、悪どい金貸しはしねぇえだろう――そう思い込んだ相手が痛い目を見る、極悪非道な手口がそこにはあります。
これも、現代で通じそうな話でもありますよね。皇族を騙ったりする詐欺師などもその一例でしょう。
むろん、あまりに悪質な金貸しに対しては、奉行が出てきて取り締まります。
が、「金貸し浪人がまたいたぞ!」と苦々しく思う江戸っ子がいたということは、それだけ同様の浪人がいたという証左でもあります。
上記のようなケースは、
・手続き上の不備
・悪質なルール違反がある
・被害者がいる
といった、本当に悪いケースのみ罰せられているところがポイント。仮に悪いことをするための二重身分が確認されたとしても、よほど悪質でなければ見逃されているのです。
江戸時代の当時ですら、この認識です。となれば、文献から歴史を学ぼうとする現代人が混乱しても当たり前なのです。
むしろ、先入観を崩すことが大切かもしれません。
武士とはそもそも何だろう?
そもそも武士って何なのか?
幕末史を調べていて、漠然とそんな思いに囚われたことがあります。
例えば新選組。
あの団体は身分混成が特徴の一つです。
武士である永倉新八が、そうではない土方歳三を差別しているかどうか? というと、そういうことはありません。
永倉新八こそが新選組最強か?最後は近藤と割れた77年の生涯まとめ
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性格的な相違はあっても、
「あいつは百姓のせがれじゃねえか」
と蔑視なんてしない。
そもそも永倉新八にせよ、武士とはいえ、そこまで由緒正しい血統ではないとされています。
永倉家に伝わる由来によれば、ご先祖は江戸の小町娘。
彼女の美貌が松前藩の殿様の目に留まり、寵愛を受け、子を生んだ――そんなシンデレラストーリーの子孫が永倉新八だったんですね。
土方歳三にしたってそうです。
土方歳三35年の生涯まとめ~幕末を生き急いだ多摩のバラガキが五稜郭に散る
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豪農の子息。彼らが武士の技能である剣術に通じていたのはなぜか?
治安悪化という背景はあるにせよ、幕府が「武士以外の戦闘技術鍛錬」を禁止していたわけではなく、天然理心流を習ったからですね。
幕末最強の剣術は新選組の天然理心流か 荒れ狂う関東で育った殺人剣 その真髄
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それどころか、福澤諭吉が皮肉っぽく振り返ったように、江戸期も中期となれば武士ですら真剣を抜いたことがない場合がほとんどでした。
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