鳥文斎栄之

鳥文斎栄之作『青楼美人六花仙 』「扇屋花扇画」/wikipediaより引用

江戸時代 べらぼう

鳥文斎栄之~歌麿のライバルは将軍お気に入りの元旗本絵師~狩野派から浮世絵へ

こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
鳥文斎栄之
をクリックお願いします。

 


肉筆画に専念した、悠々たる晩年

庶民派路線で、何かと挑発的だった歌麿と蔦屋のコンビ。

寛政の改革】以降は厳しくなった禁令をすり抜ける工夫が必要とされました。

寛政の改革
寛政の改革は質素倹約をやり過ぎて失速 一体どんな政策が実施されたのか?

続きを見る

鳥文斎栄之にも、そんな事情があったのか。寛政10年(1798年)頃には画業から遠ざかったとされます。

それでも享和(1801年 - 1804年)・文化(1804年 - 1818年)年間には画壇に復帰。

浮世絵ではなく、あくまで肉筆による美人風俗画に乗り出しました。

庶民の友である浮世絵に対し、肉筆画は格上とされました。

旗本であり、狩野派で学び、将軍の側にいた栄之ですから、こちらが本来の姿といえるのかもしれません。

浮世絵師を出したため、狩野派から破門されたともされる栄之。

そんな彼に最高の栄誉が訪れます。

寛政12年(1800年)、11代将軍・徳川家斉が、栄之に隅田川の図を描かせたのです。

風景画も得意とする栄之の絵は、江戸に下向していた妙法院宮真仁法親王により京都に持ち帰られ、後桜町院をことのほか喜ばせました。

これを名誉とした栄之は「天覧」を刻んだ印章を作らせるほど。

栄之が栄光の日々を送る一方、ライバルであった歌麿は苦しんでいました。

幕府の禁令と奮闘を続け、江戸っ子を驚かせるような斬新な作品ができず、鬱々としていたのです。

しかも文化元年(1804年)には幕府により【手鎖】50日の刑を受け、大打撃を受けました。

二年後の1806年(文化3年)、享年54で没しています。

歌麿や栄之のライバルといえる鳥居清長は、売上において歌麿に負けた寛政年間頃からは【美人画】以外を手がけ、流派のために尽くす堅実な絵師となりました。

歌麿よりほぼ十年後の文化12年(1815年)、享年64で没しています。

その後も栄之は、絵筆を執り続けました。

売上にこだわらず、革新的な画風も模索しなかったためか。

大勢の弟子に囲まれる充実した晩年を過ごし、弟子たちは師匠の清楚な【美人画】を受け継いでゆきます。

文政12年(1829年)、74歳で亡くなるまで、栄之は大勢の弟子とともに肉筆画を残し続けました。

足掛け45年にも及ぶ絵師として過ごした期間――ライバルたちと比較すると、悠々たる晩年といえます。

 


版元の販売戦略が、知名度を分けた

明治時代になると、来日した外国人は【美人画】に魅了されました。

知名度が抜群の歌麿は、すぐに彼らの記憶に残ります。

「歌麿がよろしい! 歌麿ばかり、売ってください!」

そう指名されて集中的に買われ、もともと流通数が多いこともあってか、ウィリアムとジョンのスポルディング兄弟による「スポルディングコレクション」など、まとまった蒐集が保管されました。

ライバルである鳥文斎栄之も人気がありました。

「これもよろしい!」として売れてゆきますが、そもそもが高級路線であるため、流通数が少ない。

肉筆画となるとそれこそ極めて稀です。その稀な作品が海外に流出した結果、日本では忘れられてしまったのです。

ともかく数を売り捌く蔦屋と歌麿。

高級路線で流通を制限した西村屋と栄之。

販売戦略が後世の知名度にまで影響を及ぼしてしまう。

そんな両者ですが、力量としての差があるわけではなく、両者とも魅力があるからこそ、海外に流出したともいえる。高い金を出してでも買いたい顧客がいたといえる。

実力に文句のつけようはありません。

旗本であり、家治の寵愛をうけ、狩野派を学びながら、浮世絵も手がける。

そんなキャリアも含めて、実に興味深い絵師である栄之は『べらぼう』でどう描かれるのか。

知る人ぞ知る絵師から、誰もが知る絵師となり、再び彼の展覧会が開催されることを願ってやみません。


あわせて読みたい関連記事

「美南見十二候 六月 品川の夏(座敷の遊興)」
鳥居清長は歌麿のライバル~美人画で一世を風靡した絵師は今まさに注目を浴びる時

続きを見る

葛飾北斎
葛飾北斎は何がすごいのか? 規格外の絵師 その尋常ならざる事績を比較考察する

続きを見る

歌川国芳
歌川国芳はチャキチャキの江戸っ子浮世絵師!庶民に愛された反骨気質

続きを見る

コメントはFacebookへ

恋川春町
恋川春町の始めた黄表紙が日本人の教養を高める~武士から町人への出版革命

続きを見る

杉田玄白
人体の腑分けに驚いた杉田玄白~如何にして『解体新書』の翻訳出版に至ったのか

続きを見る

文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから(→link

【参考文献】
近藤史人『歌麿 抵抗の美人画』(→amazon
田辺昌子『もっと知りたい 喜多川歌麿』(→amazon
小林忠『浮世絵師列伝』(→amazon

TOPページへ


 



-江戸時代, べらぼう
-

×