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【佐倉惣五郎】
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元ネタにした講談や歌舞伎も登場す
そしてこの一連の騒動から100年くらい経った頃、惣五郎の話を元ネタにした講談や歌舞伎などが流行り始めました。
上記の通説も、そういった作品に影響されている部分が多いといわれています。
まあ、庶民の話なんてよほどインパクトがなければ改変されて伝わるものですからね。「八百屋お七」とか。
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そうした創作の中に「ベロ出しチョンマ」という話があります。
これはもっと近年に「モチモチの木」などで有名な斎藤隆介が書いたものです。
「ベロ出しチョンマ」は、惣五郎と同じく圧政に苦しむ農民が直訴を決行し、当人だけでなく「チョンマ」(長松)とウメという幼い兄妹たちと妻も処刑される……という話です。
処刑の日、チョンマは泣き叫ぶウメのために、日頃やっていた顔芸を披露し、そのまま槍で突かれて死んだということになっています。
そして「彼らの霊を慰めるため、チョンマの変顔をモデルとした人形が今でも売られている」……という結び方です。
そもそも創作なので、チョンマの人形は存在しません。
もしかしたら、この話が発表された頃には作られたかもしれませんが、いつの時代も、ひどい話・かわいそうな話・エ◯グ◯の類は人気が出るものなんですね。
こういった経緯や派生作品があって、一庶民であるはずの惣五郎の名が今に伝えられているというわけです。
直訴は問答無用で死刑じゃない!けれど……
さて、惣五郎やチョンマの話で鍵となる「直訴」のほうにも少し注目してみましょう。
明治時代の田中正造の件で、多くの人が「直訴は問答無用で死刑」というイメージがあったりしませんか?
しかし、江戸時代の庶民が殿様やご家老に何かを訴えること自体は禁じられていませんでした。武士と庶民の間で訴訟になり、庶民側が勝訴した件も珍しくありません。
マズいのは「物理的な意味で直接訴える」こと。
つまり、庶民が安々と将軍やその他お偉いさんのそばまで行って訴えることが問題なのです。
いつの時代も「困っているように見える人」が本当に困っているとは限りません。最悪の場合、凶器を隠した曲者という可能性もあるわけです。
もしも直訴を日頃からホイホイ受け付けていたら、庶民を装った刺客にブッコロされてしまうかもしれませんよね。
だからこそ「訴えがあるならちゃんとした手続きを踏みなさい」ということになっていったのでしょう。
日本でも戦前までは、お偉いさんが講演中にいきなり刺されたり、公邸に侵入されて暗殺されたりといった事件がたびたびありました。戦後はほんの数件なので、全く印象が違いますが。
日本人が穏やかになったということであればいいのですけども、何かしらの恨みがあって殺人に発展してしまう事件が絶えていないということは、そういう話でもないのでしょう。
なんにせよ、法治国家の現代人であれば、踏むべき手段を踏んで問題解決をしないといけませんよね。
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長月 七紀・記
【参考】
国史大辞典
まいぷれ(→link)
国立歴史民俗博物館/公式サイト
静岡県人権啓発センター/公式サイト
佐倉惣五郎/wikipedia
堀田正信/wikipedia
直訴/wikipedia