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【徳川家宣】
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勘定奉行の重秀を罷免
貨幣の改鋳は、江戸幕府の財政と直結する問題です。
そもそも武士は金勘定が苦手(というか軽蔑)。
ゆえに綱吉時代は、勘定奉行の荻原重秀に任せて、貨幣の改鋳を行っていました。金貨1枚に含ませる金の含有量を減らし、幕府からの貨幣流通量を増やしたのです。
こんなことをすればどうなるか?
もちろん通貨の信用と共に価値が下がり、経済的混乱は避けられません。
幕府にとって望ましいのは発行した最初の段階のみで、あとは自分たちを苦しめるだけです。
そこで徳川家宣と新井白石は「貨幣の改鋳」をストップさせ、経費を削減する方向で改革を進めました。
前述の朝鮮通信使コストカットもその一環ですし、他の儀式についても簡略化を導入させたのです。
理想主義者の白石は、荻原重秀そのものの更迭を望んでおり、家宣へもたびたび提言します。
荻原重秀は、貨幣改鋳に伴って商人から賄賂を受け取っていたとされるのですが、他に任せられる人材がいないという苦し紛れの続投となっていました。
しかし、白石も諦めません。
二度目の嘆願も断られ、懲りずに三度目には「このままでは幕府が滅びる」とまで言って、重秀の排除を求めます。
と、そこでようやく重秀の罷免を認めたのですが……家宣はすでにこのとき死の病の床にあり、程なくして亡くなってしまうのです。
享年51。将軍就任から三年後、1712年のことでした。
もっと長生きしていれば、教科書でも【◯◯の改革】といった扱いを受けることになったかもしれません。
三年では制度の変更はできても、実質的な効果が出るにはあまりに時間が足りませんもんね。
家宣は、白石と同様、理想を追い求めるようなところがあり、それだけに家臣からの追従・ゴマスリを嫌っていて、公平でクレバーな将軍だっただけに本当に残念です。
男系男子の不在に備えて
徳川家宣の短すぎる治世。
その中で一つ現代にも通じている改革があります。
皇室に新しく【閑院宮家(かんいんのみやけ)】を作ったことです。
宮家というのは簡単に言えば皇室の分家のようなもので、当代の天皇に男系男子がなかった場合、皇位継承者を確保するためにいくつか創設されてきました。
現在では、昭和天皇のご兄弟である常陸宮家・三笠宮家、三笠宮家から独立した桂宮家・高円宮家、皇太子殿下のご兄弟である秋篠宮家がありますね。
現代でも皇位継承者候補の人数が少なすぎるということで問題になっていますが、江戸時代にも同様の危機が迫っていたのです。
当時は伏見宮家・京極宮家・有栖川宮家という三つの宮家があったものの、これらのいずれかを継がない皇族は全て出家しなければならないというわけのわからんルールがありました。
危ぶんだ新井白石が「何があるかわかりませんから、もう一つくらい宮家があったほうが良いのでは?」と建言。
家宣と朝廷の間でも合意が得られたため、幕府から資金が捻出されて、新しく宮家が作られたのでした。
もし閑院宮家の創設がなかったら…
白石の予感は、後世、見事に当たります。
約60年後に直系の皇位継承者が絶えかけた際、閑院宮家から光格天皇が即位したのです。
御所千度参り・天明の大飢饉のときの天皇ですね。詳しくは過去記事をご覧いただければ幸いです。
光格天皇は知られざる名帝か 幕府にも引かない「尊号一件」と「御所千度参り」
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天明の大飢饉は浅間山とヨーロッパ火山のダブル噴火が原因だった
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幕末の天皇としてちょくちょくお名前が出てくる孝明天皇。
怒涛の西欧化に対応していった明治天皇。
つまりは今上陛下もご子孫にあたりますので、もしも閑院宮家の創設がなかったら、今頃、皇室が存在していなかった可能性もあるということです。大変どころの話じゃありません。
大げさな話「家宣と白石が日本の将来を築いた」とも言えますかね。
影が薄いからといって、取り組んだことが無意味とは限らない――そんな好例といえそうです。
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長月 七紀・記
【参考】
国史大辞典
歴史読本編集部『歴史読本2014年12月号電子特別版「徳川15代 歴代将軍と幕閣」』(→amazon)
徳川家宣/wikipedia