こちらは2ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【浮世絵の作り方】
をクリックお願いします。
空摺・極出:高級品のみのステップ
板が彫られ紙も用意されればいざ印刷――そう思いきや、高級浮世絵ともなればもう一手間入ることがありました。
【空摺】(からずり)や【極出】(きわめだし)です。
絵の具をつける前に、紙に凹凸をつける手法であり、現代の技術でエンボス加工と呼ばれるもの。
着物の模様や積もった雪の丸みなど、繊細な凹凸が楽しめるのは、現物ならではの贅沢でしょう。
大河ドラマのおかげで現在は特別展なども開催されておりますので、ぜひとも実物を見て、その美しさを味わってみることを強くオススメしたいです。
校合摺:色をつける前に最終チェック
まずモノクロで線画を印刷し、修正点がないか確認し、色を指定する――この過程を【校合摺】と呼びます。
この段階の絵はほとんど残されておらず、大変珍しいものです。
変更箇所や、彫っていて破損した箇所は【入れ木】をして修正します。
摺師:さぁ印刷だ
こうした過程を経て、いよいよフルカラー印刷へと進みます。
まず【礬水(どうさ)引き】という作業があります。
膠水(にかわすい)と明礬(みょうばん)を混ぜた液体の礬水(どうさ)液を、刷毛を用いて均等に塗りつけるのです。
さらに【しとり】、紙を湿らせる作業を行います。

三代歌川豊国『今様見立士農工商 職人』/wikipediaより引用
【見当】を確認しながら試し刷りをして、色をあわせてゆき、馬連(ばれん)を用いて、摺師たちが浮世絵を擦り上げてゆく。
江戸時代後期ともなれば、常に忙しく猛スピードで、摺師たちは馬連を動かしていました。
【ぼかし】も、摺師の腕の見せ所です。板に水を十分に与え、絵の具を刷毛ではき、ぼかしを生み出すのです。
背景を塗る【地潰し】はシンプルなようで、何度も摺り、深みのある単色を出す。
江戸のラメ加工ともいえる【雲母摺】は、雲母のカケラを刷り込んだ豪華仕様です。これも劇中で蔦重がアイデアを出し、「よく思いつくな」と歌麿を唸らせていましたね。

『ポッピンを吹く娘』喜多川歌麿/wikipediaより引用
さらに浮世絵には【初摺】と【後摺】があります。初版と再販と考えればわかりやすいでしょうか。
売れ行きが好調であると、同じ板木を再利用して印刷を増やしたのです。
ただし、木版画であるため、初摺が最もシャープな線になります。
絵師の指定を忠実に生かしているのも初摺であることが多いため、価値は高くなりがち。
とはいえ、例外はあります。ミスに気づかなかったり、絵師の意向にそぐわなかった初摺を、後摺で修正している場合もあります。
絵草紙屋:江戸っ子は果たして買うのか?
こうして完成した浮世絵は、版元を経て、絵双紙屋の店頭に並びました。
束ねた作品を店頭に並べ、飾り付ける。
作品名を描いた紙が貼り付けられる。
そこへ客がやってきて「いいねェ」と買ってゆくのです。

三代歌川豊国『今様見立士農工商 商人』/国立国会図書館蔵
浮世絵は高くなり過ぎぬよう、幕府から通達はあるものの、そこまで厳密に守られていなかったようで。
一応「蕎麦一杯の値段」が基準とされながら、実際の定価はまちまちでした。
それだけに当初の価格で売れないとなると、途中で値引きもされる。
逆に、空摺や雲母摺の超絶技巧が施されていると、他の作品よりも価格は高くなる。
そんな柔軟な価格で、江戸っ子に届いていました。
こうした顧客こそが浮世絵の命運を決めた。著名な絵師が出せばなんでもかんでも売れるというわけではなく、その後は様々な悲哀もあったのです。
一体どういうことか?
※続きは【次のページへ】をclick!
