ぼたん鍋

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日本史の「食肉事情」に迫る~牛・鶏・鹿からアザラシ・オットセイまで

明治五年(1872年)1月24日は、明治天皇が初めて牛肉を試食された日です。

例によって西洋の習慣を取り入れるため、そして国民に模範を示すため、明治天皇がまずお試しになったのでした。

ということで本稿では【日本史の食肉事情】に迫ってみましょう。

 


縄文時代にはアザラシやオットセイを食べた跡も

おそらくほとんどの方は、授業で「日本では肉食が禁じられていた」と習ったのではないかと思います。

実は同じ肉でも明治以前から食べられていたものもあります。
というか、西洋のように家畜を食べていなかっただけの話です。つまり、家畜ではなく狩猟で獲るものはおkだったということですね。

はるか昔の縄文時代のご先祖様方は、日本にいるありとあらゆる動物を食べていたようです。
アザラシやオットセイを食べた形跡もあるそうで、今とは随分気候や環境が違ったことがよくわかります。

まだ道徳とか「知能がある動物を食べるのはかわいそう!」なんて概念はありませんし、いつ食べ物が手に入るかわからないのですから、当たり前といえば当たり前ですね。

その後仏教によって「肉は食べちゃダメ」ということになったのですが、それはお偉いさん達の話であって、庶民はいろいろ食べていたようです。

山間部や平家の落人伝説があるようなところだと、串焼きにしたりするスズメなんかも、その名残かもしれません。

 


鳥は家畜というより鑑賞用だったので・・・

しかし、「家畜は農耕で使うからダメ、山にいるのはおk」というのは全国的な共通認識でした。

戦国~江戸時代の大名の記録を見ると、「鷹狩りで鶴を獲って食べたよ!」とか「獲物を将軍に献上したよ!」なんて記述が度々出てきますので、特に武士の間で野鳥の肉を食べるのは珍しいことではなかったようです。

そういえばこの方が江戸城で鴨獲ってましたね↓。

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大々的に家畜を食べても良いことになったのはやはり明治時代からで、焼き鳥に至っては大正時代から流行り始めたとか。
これは鶏が長い間観賞用の鳥とみなされていたからだそうです。今で言えばインコとかオウムとか九官鳥みたいな扱いだったってことですね。

ただし、九州地方は宣教師などがよく出入りしたことから、もう少し早く肉食が普及したようです。

そもそも薩摩だと、豚肉が庶民の味だったりしますしね。

もしくは、魚を新鮮なまま運べないような地域は自然とその辺にいるものを食べるようになり、その結果「家畜じゃないからおk」という理屈が後からついたのかもしれません。
江戸のようにちょっと海に近寄ればすぐ魚が手に入るところはともかく、国土の7割が山である日本ではそんな地域のほうが珍しいくらいですから。

 


知っていると、ちょっとカッコイイ お肉の呼び方

ところで、日本語で各種の肉を指すときに植物の名前で呼ぶことがよくありますよね。
ついでにまとめてみました。

鶏肉の異称として有名な「かしわ」は、当初黄~茶色い鶏の肉を指していたそうです。この意味になったのは江戸時代の後半頃で、現在は鶏肉全般・主に西日本で使われる単語ですね。

ぼたん肉=猪肉は、肉の名前というより「ぼたん鍋」からきているとか。
鍋に入れる前に材料を一度お皿に盛りつけるとき、猪肉をぼたんのような形にするのが慣わしだったので、いつしか肉そのもののことをぼたんというようになったのだそうです。

ぼたん鍋

他にも「鍋に入れたときに肉が縮んでぼたんの花びらのように見えるから」という説もあります。
「百花の王」であるぼたんに野性味溢れる猪は何となくミスマッチな気もしますが、大振りで堂々としている感じは似ているかもしれませんね。

ついでにいうと、「獅子にぼたん」という言い回しはお互い堂々としていて遜色がないことの例えだそうで。へぇへぇへぇ。

 

イノシシ牡丹 シカ紅葉 ウマはなぜだか桜と呼ばれ

紅葉肉といった場合は鹿肉のことを指します。花札で鹿と紅葉の描かれたものがあることからきているという説が有力です。

百人一首の五番にも「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき」という歌がありますし、日光あたりでありそうな風景ですね。多分この歌は奈良のことを詠んだのでしょうけども、現在の奈良の鹿を知っていると踏み分けるどころか軒並み踏み潰していそうで情景が台無しになるヨカーン。

意外に由来がはっきりしないのが、馬の肉を”桜肉”と呼ぶ理由です。
ワタクシも何度か馬刺しをいただいたことがありますが、桜色とは程遠いですし、桜の季節に旬を迎えるというわけでもないですよね。

あまりに謎なので、「他の三つに合わせて、誰でも知っている花の名前を当てたのでは?」という説があるようです。それはそれで納得できますが、今後何か資料が見つかることを期待したいですね。

最近は生レバー問題などで家畜以外の肉を食べようという人もやや減ってきたかもしれませんが、旅館などで新鮮なものを食べるとそれはそれでおいしいので、機会があればぜひお試しください。
地域によっては害獣対策に獲った猪の有効利用として、積極的に商品化していることもあるようです。

お命を頂戴したら体をおいしくいただく、というのはまさに日本文化ですねえ。

長月 七紀・記

【参考】
日本の獣肉食の歴史/Wikipedia
今日のことあれこれと


 



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