こんな会話があったと想像してみてください――。
もしも22世紀の未来人たちが、こんな会話をしていたら?
彼等が、日本でも屈指の福利厚生を誇る大手企業――つまり一部分だけを掬い上げた情報(歴史)に注目していたら?
22世紀から見れば100年前という歴史の舞台になる、現在の私達。
それが全員、きわめて豊かで平和で不安もなく充実していて、それが平均的な日本人像だとされたら、いささか背筋の凍る話ではありませんか。
怖いのは、これが決して他人事ではないことです。
現にあなたが今、そんな未来人と同じ思考になっていてもおかしくはありません。
おおよそ百年前。
この日本には、ほとんど注目されることのない貧しい生活を送る人々もおりました。
それは一体どんなものだったか?
歴史ドラマや教科書では、あまり取り上げられることのない日本近現代史の暗部にスポットをあててみました。
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近代の都市とは過酷な場所であった
日本へ入る前に、まずはイギリスを見てみましょう。
大英帝国の首都ロンドン――。
霧の街をシャーロック・ホームズが馬車で駆け抜けていく。
ヴィクトリア朝の大都市と言えば、そんな厳かなイメージを抱くかもしれません。
フィクションで見るぶんには面白いですが、あなたはそこに住みたいと思いますか?
※以下は大英帝国の暗部を記した関連記事となります
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ホームズは「ベイカー街遊撃隊」という浮浪少年たちを情報収集に使いました。
それが可能だったのは、当時の福祉が劣悪で、二束三文を払えば危険なことをする子供が溢れていたという証左でもあります。
「そっかぁ、大英帝国って酷かったんですね。日本とは違うんだな」なんて考えを抱いてしまう可能性もありましょう。
『あゝ野麦峠』だのなんだのいうけれども、富岡製糸場は労働条件がしっかりしていたんだしね……と認識してはいませんか?
日英の違いは、実はそこにあるわけではない。
イギリスの邪悪さを取り上げて、日本だけじゃないと溜飲を下げている場合ではありません。
残念なことに、歴史の教科書や授業でも、近代日本の貧困を赤裸々に取り上げることはほとんど皆無。
そしてここからが日英の違いではありますが、イギリスでは、自国の暗黒部分も映像化することが多いものです。
英国の上流階級を舞台にした人気ドラマ『ダウントン・アビー』でも、救貧院の劣悪さ、使用人の抱える困難は描かれています。
『ヴィクトリア』でも、アルバートがヴィクトリアに下層階級の困窮ぶりを語ることはある。
シャーロック・ホームズなり、切り裂きジャックを映像化するのであれば、むしろそこは欠かせない。
それでは日本ではどうでしょうか。
近代史ドラマが得意な、朝の連続テレビ小説(朝ドラ)を例にとってみましょう。
戦前舞台の朝ドラがクランクインすると、
【主演女優が羽織袴の女学生衣装を着て微笑むニュース】
が流れます。
朝ドラだけを見ていると、当時の女性はああいうものかと思えてくるかもしれません。
しかし、それは事実とは言い難いものです。
女学校に進学できた女性はごく一握り。
明治時代の「衣食住」に注目!江戸時代から何が変わり何が流行った?
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女学生よりもはるかに人数が多い層が社会に存在しており、朝ドラには出てこない人々が大勢います。
そこにいたはずなのに、消えてしまう人々です。
外国ルーツの人々。
女工。
女郎。
俥夫馬丁。
ゴミ拾い。
当時のドラマと言えば、結核で亡くなる人物――特に美男美女はお約束になっております。
けれども、結核菌が蔓延していて、そこに引っ越したがために全滅する一家はなかなか出てこない。
それを承知で次の一家を入居させ、幽霊騒動だと誤魔化す大家も出てこない。
コレラで全滅する一家も。
些細なことで殴り合いになる労働者たちも。
そんな人物たちは決してドラマに出てこない。
けれども歴史の中には確実にいたのです。
「貧民街」
明治時代は、近代化を遂げると言いながら、地域によりその進展速度は異なりました。
戊辰戦争で敗れた東北地方や開拓で苦しむ北海道とは違う、帝都・東京の賑わい。
教科書にも掲載される【ガス灯が輝く錦絵】は有名です。
では、東京や大阪に住む人々は、みんな豊かだったのか?
そんなはずはありません。
当時の貧民街に潜入し、渾身のレポートを残した記者たちが、以下のような記録をしています。
・最低ランクの「木賃宿」は8割が無灯火なので、日が沈むと真っ暗闇
・老若男女、皮膚病や感染症に苦しみ、顔は無表情で生気がない
・「残飯屋」に群がる人々は、軍の宿舎から出た焦げた飯、野菜の切れ端、腐りかけた食品……そうしたものを煮詰めた残飯を食事としている
・性的暴行が横行していた。施錠できない女性の住民は当然のように被害に遭うばかりか近親での関係も横行。日常茶飯事と化していた
・コレラや結核といったパンデミックの発生。結核で一家全滅した例もある。消毒もしないまま「幽霊屋敷だから住民が死んだ」と騙して次の家族を入居させ、また同様の被害が……
おそるべき人命軽視の現実がそこにありました。
こうした貧民街が、近代日本にも存在していたのです。
政治は彼等を救わなかったのか?
誰もそうしなかったのか?
これは気になるところではあります。
キリスト教圏ですと、教会が貧民救済の担い手となるものです。
しかし、日本では施しをすると厳罰が待ち受けていたことすらありました。
【通俗道徳】が社会の根底にあった明治以降の時代――福祉や援助は、かえって甘えにつながり、独立の気風を削ぐという【通俗道徳】論理が通用していたのです。
「お前が貧乏なのはお前の努力が足りんから!」明治時代の通俗道徳はあまりに過酷
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救いの手をさしのべず、自滅すればかえって好都合とでも言うような措置。
これは日本に限った話ではなく、近代とはそうした突き放し道徳観念の時代でもありました。
当時を思わせるノスタルジー豊かなアルコールとして「デンキブラン(→link)」というものがあります。
電気のようにしびれるブランデーという由来があり、独特の風味を残すお酒ですね。
浅草のバーなどで見かけますが、現在ならば、もちろん飲んでも危険はありません。
しかし、流通当初はそうではない。
貧民街の住民たちが、憂さ晴らしとして飲む目的があったため、アルコール度数が強烈かつ危険な代物でした。
イギリスの下層階級労働者は、ジンで飲んだくれておりました。
あれは彼らだけのことではなく、日本でも似たような状況があったのです。
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かつてはデンキブラン。
現代はストロングゼロ。
歴史は繰り返す――そう言えるのではないでしょうか。
「貰い子殺人」
近年、児童虐待の件数が増えているとされます。
被害の可視化により報道が増えているだけ――というご意見もあるかもしれません。
そこは注意せねばなりませんが、あらためて考えてみたい。
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その一方で西洋人たちが記録してきた日本の悪習に「嬰児殺し」があります。
生まれたばかりの赤ちゃんを殺めるのです。
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