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【僧兵】
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変わりゆく僧兵
時代は中世、荘園制度が崩れて、各地で民衆が力を持ち、その中から国衆と呼ばれる在地武士団が台頭し始めました。
こうした動きと反比例するように僧兵は衰退します。
なぜか?
南北朝末期となると、強訴に代わり、民衆による一揆が起こるようにもなりました。
一向宗による一向一揆と、僧兵による強訴は似ているようで異なります。
強訴:寺社勢力の権威と宗教性を背景に、自集団の権威を守るべく武装し訴える
一向一揆:宗教の教えのもとに集い、民衆の生活向上(徳政や年貢減免)を目的として武装し訴える
権威を守るためではなく、そもそも民の暮らしを守ることが仏法ではなかったか? そんな意識の変化があり、僧兵はむしろ権威とみなされるようになったのです。
寺社の勢力下にあった武装集団から大名となった、大和国・筒井氏(筒井順慶など)のような例もあります。
権威とみなされたからには、時代の改革を掲げる下剋上サイドからすれば、腐敗の温床にも映りました。
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僧兵の終焉へ
戦国時代も末期へ向かうころ、織田信長が台頭しました。
信長は領土を広げる過程で、近江と美濃にあった延暦寺領を没収。
延暦寺は、信長と敵対する大名の浅井・朝倉と手を組み、対抗に出ました。
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もはや僧兵集団は、信長にとっては討つべき敵でしかありません。
織田軍に敗れた勢力の残党が比叡山に逃げ込む事態も起こりました。
かくして元亀2年(1571年)、比叡山は信長の命を受けた明智光秀により焼かれたのでした。
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光秀ら家臣が諌めても、信長は止めません。
もはやただの宗教を笠にきた腐敗した権威ではないか!
信長の目から見ればそうなり、比叡山のみならず、石山本願寺の一向宗にも厳しい態度で臨みました。
ここで強調したいのは、信長の残虐性ではありません。
権力争いの中に、僧兵を擁した寺社も参加したからには、避けようがなかったという時代の流れです。
信長が本能寺の変で斃れたあと、その権力は豊臣秀吉が受け継ぎました。
秀吉の天下統一の過程において、天正13年(1585年)、根来寺が殲滅され、日本史から僧兵勢力は消え去りました。
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しかし彼らが提供するものはあくまで学識であり、武力ではありません。
かくして僧兵の歴史は江戸時代には終わったのです。
そして武装した僧侶を指す「僧兵」という呼び方も、江戸時代に生まれたのでした。
ミステリアスで実に日本らしい集団
殺生を禁じることが仏の教えなのに、なぜ僧侶が武装し、一大勢力となったのか?
僧兵は自衛手段として発生し、力を持ち、歴史を動かすようになりました。
聖職者が武装集団となった例はなかなか珍しく、日本史ならではの集団といえます。
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中国には功夫を使いこなすことで名高い少林寺があります。
あれも隋末の乱世に武装したことが起源とされています。
といっても特殊だからこそ名高いのであり、中国各地に武装集団がいる寺があったわけではありません。
なかなかミステリアスで実に日本らしい集団、それが僧兵です。
その代表例である武蔵坊弁慶は国民的な人気人物となりました。
現代にも僧兵をモチーフとしたキャラクターとして、『鬼滅の刃』の岩柱・悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)がいます。
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新しいようで、実は、フィクションでおなじみの存在だったんですね。
僧兵には、個性的な脇役キャラとして、今後も歴史作品を盛り上げ続けて欲しいものです。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
渡辺守順『僧兵盛衰記』(→amazon)
五味文彦『殺生と信仰――武士を探る』(→amazon)
他