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【北条朝時】
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父と兄へのコンプレックスとは?
ドラマでは無作法で女癖の悪い様子が描かれ、小栗旬さん演じる父の義時から「お前は親を超えようとする気概がないのか!」と叱咤されていた北条朝時。
記録だけを見る限り、艶書事件以外は、真面目に仕事をこなす優秀な人物のようにも思えます。
しかし『鎌倉殿の13人』での捉え方は若干異なるようで、公式サイトでの朝時は、こう説明されています。
義時の次男。母は比奈。父・義時や兄・泰時に対してコンプレックスを抱いている。
キーワードとなる“コンプレックス”。
なぜ朝時はこのような人物像となったのか?
父母が別れた経緯や、優秀で清廉潔白な兄・泰時の存在を考えると、たしかに弟としてはプレッシャーのかかる状況でしょう。
明らかに能力が劣るならば、何らかの歪んだ感情が生まれたって不思議ではない。
と、ここで注目したいのが名越邸です。
朝時にとっては祖父にあたる北条時政の邸宅。
本来でしたら時政と牧の方(りく)の間に生まれた北条政範が受け継ぐはずだったのに、京都で亡くなってしまい、その後、時政と牧の方(りく)が【牧氏事件】で失脚。
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結果、この名越邸を継いだのが北条朝時でした。
父の義時と泰時が「江間」とされ、その親子間で継承があったと考えると、北条については朝時が相続したとも思える。
あくまで可能性の話ですが、義時がそう考えていなくても、周囲や朝時本人が誤解することもありえる。
そして艶書事件です。
追放処分は重かったのか、軽かったのか?
当時、この手の不祥事に対する明確な規定はなく、義時のように許された例もあれば、斬首という不幸な例もあります。
ラブレターを送っただけで首を斬られるってウソだろ!
そう思われるでしょうが、甲斐源氏一門の出である御家人・安田義資が、幕府の公式行事である永福寺薬師堂供養の最中、女房に艶書(ラブレター)を送ったことで斬首・梟首(晒し首)となりました。
ただし、このときの事件は父・安田義定も謀反の疑いで斬首されており、艶書はあくまできっかけに過ぎないとされますが、ともかく前例があるのは確かです。
あえて鎌倉から追放することで、厳しい態度をとったとみるか。
それとも一年で呼び戻したのだから、甘い態度とみるか。
いずれにせよ北条朝時本人からすれば、少なからず理不尽な気持ちは抱いたでしょう。
なんせ父・義時は母に艶書を送り続けて、その結果、自分が生まれてきたのですから。
双系制の時代
それにしてもややこしいのが中世の相続です。
誰がどういう流れで相続を継承するのか?
例えば年齢で順番を決めてしまえばいいのに、そうはならない。
なぜなら当時は、母方の血統も重視する【双系制】だったからです。
これは北条に限った話ではありませんが、義時の後継者をめぐって特に話がややこしくなるのは「泰時の母の血筋が高くない」ことが関係しているのでしょう。
正室である伊賀の方(のえ)が、自身の息子・北条政村こそ北条家を継ぐにふさわしい――そう考えることにも正当性はあるのです。
北条朝時は、母方の比企氏が滅亡して、複雑としか言いようがありません。
公式サイトに「コンプレックス」と書かれた背景には、朝時のややこしい家庭環境と日本中世史ならではの事情があります。
母系の血統は、時代がくだるにつれ薄れてゆきます。
江戸幕府の将軍は、八百屋の娘を母に持つ徳川綱吉のような例もありました。
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父の血統ばかりが尊いとする考え方は江戸時代を経てのこと。中世史においては母の血統をスルーはできません。
『鎌倉殿の13人』の時代を生きている人々の間にも、朝時にも、そうした鬱屈があったのでしょう。
比企の血を引く以上、自分が後継者になんかなれるわけがない――彼にはそんな諦念がある。
しかし、祖父・時政が暮らした名越邸に入り、兄と馬を並べて活躍していくうちに、野心がくすぶった可能性はなきにしもあらず。
そんな心の揺れは推察するしかありませんが、史実研究ではないフィクションならば心の機微を掬い取ることができます。
歴史の中に消えていったモヤモヤ感を描くことこそ、歴史劇の意義にも思えてくる。
いったい北条朝時は艷書事件を経て、その後はどう生きたのか。
三谷幸喜さんはの脚本、ならびに西本たけるさんの演技を楽しみに待ちましょう。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
山本みなみ『史伝 北条義時 ~武家政権を確立した権力者の実像~』(→amazon)
坂井孝一『承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱』(→amazon)
他