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【何晏と竹林の七賢たち】
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「仕官したら負けだと思っている」竹林の七賢たち
動乱の時代、下手に政治に関わると非常に危険でした。
前述の何晏も、あの司馬懿との政治闘争に負けて処刑されてしまいます。
こうなると「宮仕えした挙げ句殺されるとか、やってらんねえ」と悟って、現実逃避する人々も出てきます。
なんせ単なる秀才レベルではとても出世を望めず、国内でトップクラスの実力者にならなければ、いつ政争に巻き込まれて粛清されてしまうかもわかりません。
ならばそんな一生懸命に働くことも、頭脳をめぐらせることもやらない方がいい! と、老荘思想に耽り、宮仕えを一切拒否して引きこもる連中が現れ始めました。
「竹林の七賢」です。
働かないでフラフラするとかありえんだろ、と思うかもしれませんが、隠者という生き方は中国ではひとつの理想でした。
世俗の塵から遠ざかった生き方は素晴らしい、憧れるというわけですね。
こうして気ままに生きた人々七人を「竹林の七賢」と呼んだのです。
彼らをモチーフとした美術作品では七人揃って竹林にいるため、実際にそうしていかのように思えます。
しかしそれはあくまでイメージ。七人が一堂に会したことはありませんし、竹林で生活していたわけでもありません。
実のところ何をしていたかというと、酒を飲んで酔っ払ってフラフラと生きた挙げ句、天寿を全うするとか。そんなユル~い生き方です。
「いや、それって、単なる引きこもりやん」
そうツッコミたくなりますが、これぞ乱世における究極の賢者かもしれません。
真面目に生きた挙げ句、罪を着せられて処刑されるよりも、就職せずに引きこもり楽器をかき鳴らし趣味に生きたほうがマシ。
昼間から酒を飲みまくってベロベロになるもんだから「アイツは賢いけど、酒飲みすぎるから仕事させないほうがいいよね」と思われてしまう。
彼らはまさに「仕官したら負けだと思っている」を地でいく人々でした。
奇行を面白がりながら記録に残していた
飲んだくれて下着一丁でふらふらしていたとか。
服喪すべき時に酒を飲んで肉を食っていたとか。
彼らについては、冷静に考えればしょうもない逸話が数多く残されています。
当時から人々は、最高にロックな生き方をする彼らを「あれが究極の勝ち組だなぁ」と羨望のまなざしで見て、その奇行を面白がりながら記録に残していたのです。
むろん、彼らを苦々しく思う人もいました。
「やればできるのに、なんでお前は遊んで生きているの? 世の中ナメてんの?」
そんな理由で処刑された七賢もいます。
しかしそんな時代だからこそ、働かずに逃げ切って天寿を全うした人は、余計にエクストリーム乱世を勝ち抜いた者として賞賛されたのですね。
もう、あまりに無茶苦茶。
されど、楽しそうな彼らの生き方は、現代から見ても、乱世における真の勝者ではないかと思えてくるから不思議です。
志半ばで散って、統一を見ることなく無念の死を遂げた三国志の英雄たちは無数におりました。
一方で働かずのうのうと趣味に走り、生き延びた七賢たちもいたのです。我々日本人にはあまり知られないだけで。
いったい本当の勝者はどちらなんですかね。
★
三国時代が終わったあとも、中国大陸は何度も乱世に遭遇しました。
そのたびに奇矯な行動で生きた証を残す文人たちが出ています。
ロックな生き方もまた面白き哉。
文:小檜山青
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【参考文献】
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