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【諸葛亮(孔明)】
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戦後から現在 諸葛亮は作品と人の数だけあっていい
さて、戦後ですが。
陳舜臣、北方謙三らをはじめ、小説における諸葛亮像は更新されました。
戦前のような、悲壮感あふれる忠臣像とは異なる、様々な描写がなされております。
先走って言及してしまった「横光三国志」の影響は大きいものがあります。
同作品では、ノリノリで藤甲兵を焼く諸葛亮像が悩んでいる等、細かいところで修正がなされております。子供たちに読ませる上で、配慮をしているのでしょう。
諸葛亮本人ではなく、司馬懿が口にするこんなセリフは、印象的な作画ともどもすっかり定着しました。
「待てあわてるなこれは孔明の罠だ」
横山光輝本人が、諸葛亮像を狡猾なだけにしたくないアレンジをしたというのに……皮肉にも「孔明の罠」が定着してしまったのです。
印象的であった日本経済新聞電子版広告、そしてLINEスタンプでも配信され、すっかり現代人にも愛されております。
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人形劇『三国志』。
あの諸葛亮の姿は、神々しいほどの美しさがありました。まさに力作でしたね。
漫画でも、『蒼天航路』ではエロかったり。
『一騎当千』や『DRAGONSISTER』では美少女だったり。
『鋼鉄三国志』では陸遜に慕われていたり。
ゲームやアニメは、もはや自由自在です。
ガンダムにされたり、はわわと言わされたり、巨大ロボを操ったり、妖怪にされたり、乙女ゲーで天気予報したり。
ビームを飛ばしたり。スーツ着たイケメンにされたり。
もうなんでもありですよ!
BL(『私説三国志 天の華・地の風』等)は、責任をもって各自お調べください。
2020年、最新の諸葛亮漫画と思われる『パリピ孔明』もおすすめです。
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時代とともに、移り変わってきた諸葛亮像。
日本国外でも、当然のことながら様々な受容がなされております。
諸葛亮の像は、あなたの中にもある
諸葛亮の姿は変貌してきました。
沸騰したファンは、時に暴走します。諸葛亮の実像をよく知っていた陳寿が、正史においてこう記したばかりに、こんな理不尽なバッシングを受けたほど。
「臨機応変の軍略はあまり得意でなかったんでしょうね」
「は? 陳寿、こいつはね、自分の父が諸葛亮に罰則くらったから、貶めているんですわ」
「陳寿って、卑劣な奴だったらしいよ。だから諸葛亮をディスるわけ」
陳寿の名誉のために断っておきますが、そんなことはありません。むしろ陳寿は諸葛亮を敬愛しているとうかがえます。
曹操あたりの記述は、
「まあ、魏の武帝ですもんね。褒めますよ、ハイハイ……」
と褒めつつも、人としては近づきたくない、そんな嫌悪感を漂わせております。
一方、諸葛亮については、こんな思いが漏れています。
「ん〜、素晴らしい、いい人です。人格高潔で、賢くて。でも! 軍略がちょっと落ちるのは残念なんだよな〜!」
むしろ、玉に瑕だと惜しむニュアンスなんですよ。
陳寿は歴史書を真面目に書く、そういう使命があるから、なかなか好悪は出せません。それでも己の家が仕えた蜀への愛惜はあるのです。
陳寿から学べることは何でしょうか?
それは、諸葛亮の人気が絶大であるだけに、どう描写しようと万人を満足させられないということです。
ましてや、異世界や現代社会にいるとなれば、もう自由自在といえます。
大掃除で真面目じゃない――そういう諸葛亮像は江戸時代からあり、もはやそういう伝統だと思えてきますよね。
大事なことは、そこまで日本人にとっても重要かつ愛すべき人物であるということでしょう。
変遷を辿りながら、自由な諸葛亮を見出してゆく。
それも『三国志』受容の伝統なのです。
今日も、明日も、これからも、諸葛亮の像は新たに生まれてゆくのでしょう。
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文:小檜山青
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【参考文献】
陳寿/裴松之『正史三国志(ちくま文庫)』(→amazon)
井波律子『三国志曼荼羅(筑摩書房)』(→amazon)
渡邉義浩『三国志 演義から正史、そして史実へ(中公新書)』(→amazon)
他
※曹操記事の参考文献欄もご覧ください