皆さん、大丈夫ですか。武者震之助です。
政次ロスがニュースにもなった先週。私はその衝撃を、小野政次追悼サウンドトラック『鶴のうた』で紛らわしつつ、今日を迎えております。
先週の展開には絶賛とともに、冷静な批判もあるようです。
確かに小野政次には逃げる機会がいくらでもありましたし、槍を突き刺しながらの芝居には何の意味があるのかという指摘もあったようです。
政次だけではなく、近藤らの行動にも突っ込みどころはあります。
しかしそれを突っ込むのは、さすがに野暮ってもんでしょう。
『ロミオとジュリエット』の感想に、
「主人公たちは安易に死んだものだ。もっと理性的、合理的にふるまったら結婚できていたかもしれない」
「若さゆえに死ぬなんてしないで、別の相手と生きる道を選んでもよいはずだった」
と言うようなものだと思います。
ロミオも政次も愚かなのです。
愛情が絡むと駄目な男になってしまうのです。
冷静なようでいて彼がそういう人間だということは、33回の間に書かれてきました。ついでに言うと近藤も合理的な行動を取るタイプではありません。
そもそも大河ドラマは歴史再現ドラマではなく、フィクションです。
フィクションである以上、見る者の感情をより強く揺さぶったら勝ちなのです。
あの処刑場面のせいで不眠、体調不良になったという感想すら聞かれました。熱を出して寝込むスタッフもいたそうです。
本サイトの編集人も脚本家の腕・才能に呆然としてしまったようで、さすがに発熱まではなかったものの翌日は気だるい一日だったと言います。
大成功……でありましょう。
数年後、この作品のあの場面が衝撃的だった!と思い出す人は少なくないはず。
しかし、そこに至るプロットに粗があったことは、おそらく忘れ去られているはずです。
フィクションにおいては、理性より感情が残す印象の方が大きいのです。
「政次ロス」という感情の大波を残した本作は、大成功をおさめたのです。
◆「おんな城主 直虎」第三十三話で“政次ロス”にかかる人が続出 「引きずってるわ」「軽く寝込んでた」(→link)
本作は「生ハムメロンを思い出す」と今年の初めに書いた記憶があります。
どちらかというと、平野レミさんの料理ショーのようなものかもしれません。
高級食材をふんだんに使うわけではないけれども、ともかくインパクトがある。感情をゆさぶり驚かすという点において、本作は高いポテンシャルを発揮しています。
では、遅くなりましたが本題へ。
上機嫌な近藤 政次の死は無駄ではなかったが
今週の始まりです。
衝撃の処刑で時が止まったかのような井伊谷。支配者は近藤康用に替わり、息詰まるような日々の中で、それぞれが政次の死を受け止めています。
政次ロスに一番効くのはドラマの続きを見ることでしょう。
そこには視聴者と同じく、政次の死に涙する人々が生きて日々を送っています。
「いやあ、まさか次郎様自ら手を下すとは」

井伊谷を罠にはめ、憎い小野政次を始末した近藤康用は得意げな顔をしています。
仕置きは、小野政次の首で勘弁してやると南渓に告げる近藤。見ていて腹は立つものの、やはり政次の死は無駄ではありませんでした。
龍潭寺では直虎が一人、碁盤に向かっています。
取り乱さず、一心不乱に碁盤に向き合う直虎は、誰を待つというのでしょうか。
一方、川名の隠し里では、政次の死の顛末を聞いて井伊谷の人々が哀しみに沈んでいます。
現実を受け止めきれない亥之助。
「殿の手にかかったらならば本望」と、こんな時まで政次の心情を理解するなつ。
「私よりあの女を選んだのね」と思わないところが、彼女の善良さでしょう。短い間でも、なつと政次が心を通い合わせることができてよかったと思います。
政次は死んでない? と思い込みたい直虎の奇行
祐椿尼は政次を手に掛けた娘・直虎を思い、隠し里に引き取りたいと昊天に頼みます。
しかし直虎は、南渓と昊天から隠し里に行かないかと言われても断ります。
「但馬が今夜来ます。今後どうするか話し合わねば……」
直虎の中では、依然として時が政次の死の前、徳川到着前で止まっています。
直虎はまだ間に合うと思い、政次と二人で力を合わせて井伊を守りたいと願っているのです。
徳川勢は掛川城に籠もる今川氏真を攻めようとしているのですが、どうにもうまくいきません。
やはり全盛期の武田信玄と現時点での徳川家康では、力が違い過ぎるのでしょうか。
武田にあっという間に攻められて弱体化しているようですが、そこは「大今川」最後の意地なのでしょうか。強大な力とはなかなかあっさりと倒せないもののようです。
そんな徳川の陣に、瀬戸方久が武器と兵糧を売りにやって来ました。
これからは徳川の時代だとあっさり寝返った方久。
さて、銭の臭いに尾を振るこの決断は、吉と出るか、凶と出るか?
直虎の頭巾に、赤い点が一つ、ポツン……
直虎は、徳川襲来前、しかも近藤の企みを事前に察知していた世界に、まだ留まっています。
政次は生きていると信じている直虎の頭巾に、赤い点が一つ、ポツン……。
その点は、政次最期の血のひとしずくです。
直虎の目にこの点は入らないのに、周囲の人には見えるわけです。
この小さな赤い点が政次の死をあらわしているようで、強烈な演出です。
直虎の様子を見に来た龍雲丸に、南渓はここまで直虎を追い詰めてしまったと、心のうちを語ります。
龍雲丸は、本人はあれで結構幸せかもね、とひょうひょうとしています。
この龍雲丸の佇まいが今週の癒しかもしれません。
しかし南渓が警告した通り、龍雲党の本拠地・気賀にも戦が迫っていました。
まだ活気のある気賀 何かイヤな予感
今川勢は船を持たない徳川勢に対して有利に展開し、頑強に抵抗を続けています。
気賀に中村屋はいち早く徳川につくと決めたものの、その決断が正しいかどうかは、まだわかりません。龍雲丸はいざという時は逃げられるよう、準備を整えます。
この時点で騒然としてはいるものの、まだ気賀が活気のある街で人々が行き交っていることに、何か嫌な予感を覚えるのですが……。
直虎はまだ現実から逃避し、周囲の言葉に耳も貸さずに碁盤に向かっています。
政次の魂だけでもそのあたりにいるような、直虎を手招きしているような、一人で旅立つことを拒んでいるような。
そんな切なさと不気味さが漂います。
南渓はともに迷うことで導いているのかもしれない、と昊天に語る傑山。皆が直虎を心配しています。猫の鳴き声すら気を遣っているように聞こえます。
引間城の家康は、浜名湖方面と掛川方面両方に展開しなければならず、苦戦を強いられています。
今川の忠臣・大沢基胤はついに気賀の堀川城を落としました。今川勢は領民を城に捕らえ連行し、戦いに動員しようとします。
たまたま堀川城にいた龍雲党のゴクウらもとらわれの身となってしまいます。
最大の政次ロスを抱えているのは言うまでもなく直虎であり
直虎がうろうろと政次を捜し回っていると、鈴木重時が政次の辞世を持って来ます。
牢番が「そんなものは捨ててしまえ」と言っていたものですが、捨てるにしのびなく保存した者がいたようです。直虎は、最悪のタイミングで直虎は処刑について思い出してしまうのでした。
しかし考えようによっては、ある意味探し回っていたところへ「政次」が、形見としてやって来たとも言えるかもしれません。ちなみに辞世は、政次役の高橋一生さん本人が書いたものです。
白黒をつけむと君をひとり待つ 天つたふ日ぞ楽しからずや
政次の声で辞世の朗読と処刑の回想シーンも入ります。
本日二度目の処刑回想……直虎だけではなく視聴者も苦しめにかかります。
直虎は全てを思い出しました。自らの手で政次を殺したことまで、全て思い出しました。
泣き崩れる直虎。そうです、彼女が最も「政次ロス」を抱えているわけです。
逃げられない民を気遣っているごクウは……
鈴木重時は、政次処刑の事情を南渓から聞き後悔のあまりむせび泣きます。
己の情けなさ、不甲斐なさを詫び、「お役に立てることがあればお申し付けくださいませ!」とまで言います。
彼はいい人なのですね。彼は井伊家とは姻戚関係にもあたるため、その境遇に昔から同情を感じていました。
「但馬を生きて返す術を……」
そう容赦なく返す南渓。
私なら「近藤の首を取ってくれ」と言ったかもしれませんが、さすがに出家の身ですね。
鈴木重時はそう言われ一瞬言葉に詰まり、再度詫びながら退出します。
堀川城ではゴクウはじめ領民が集められています。大沢の部下・尾藤らは、鉄砲で威嚇射撃しながら叫びます。
「城主はお前らを捨てた!」
「相手は鬼のような連中だ。掠奪されて人買いに売られるぞ!」
「腹をくくれぇい!」
非情な宣言をするもんです。
と、そこへ龍雲丸がこっそり顔を出します。
「巻き込まれてどうすんだよ」
龍雲丸は夜になると、今川の兵を眠らせて仲間の救出をやすやすとやってのけます。どんな場所でもあっさりと潜り込む龍雲丸は無敵のように思えます。
しかし、ゴクウは逃げられない民を気遣っているのでした。
龍潭寺で政次の辞世を偲ぶ南渓・傑山・昊天ら
引間城の家康の元に、堀川城から脱出した瀬戸方久、中村屋がやって来ていました。
掘川城の弱点を知る方久。
船を持つ中村屋。
徳川方にとってまさしくこれは救いの神でしょう。
家康は城の裏手に船をつけ領民を救出し、大沢の家臣をとらえ、その者と引き替えに大沢に降伏を促す、という策を立てます。
しかし酒井忠次はどこか不穏な表情をしており……。
龍潭寺では、政次の辞世を前に南渓、傑山、昊天らが「鶴」を偲んでいます。
「鶴らしい優しい歌じゃ」
幼いころから見守って来た優しい思いが、政次に寄せられています。彼らの優しさが政次ロスに優しい特効薬となりますね。
「嫌われ政次」なんかじゃないぞ!
ゴクウが射たれた!
一方、その頃、直虎は一人寝床で泣きじゃくっていました。
龍雲丸は武装した今川の兵士たちを水に突き落とし、その隙に民を救う作戦を立てます。
神出鬼没の龍雲党はあっという間に敵を圧倒。
「侍は侍同士、てめえらだけで戦えや! 人の褌で相撲とってんじゃねえよ、ばぁ~~~~~~か!」
爽快痛快な活躍を見せる龍雲丸。いやあ、すっきり、スカッ! まさに快男児です。
龍雲党の船は民をできる限り船に乗せ、雄壮な音楽を背景に海に漕ぎ出します。
希望の光のように、向こうから何者かが近づいて来ます。
「おぉ~い!」
中村屋の船が接近してきたと喜び手を振るゴクウ。その胸に、矢が突き刺さります。
味方であったはずの徳川勢が襲って来たのです。
嵐を沈める人身御供であったゴクウは、嵐を知らせる先触れのようにあっさりと息絶えました。
そのゴクウの屍を抱き、力也は「てめえら!」と激怒します。
井伊谷に現れた徳川勢が一番の悪魔だった
その頃、攻め手の酒井忠次は手向かいをした堀川城を見せしめにすることを決めていました。
なるべく残酷に処断し、相手の降伏を促すわけです。
井伊の件は近藤。そして今回は、酒井忠次。
今川から井伊を救うために現れたような徳川勢ではありますが、現時点では新たな悪魔のようです。
小野政次の死のきっかけとなり、直虎が新たな希望のように築いた堀川城を攻め落とし、直虎と気脈を通じた気賀の人々を屠る。
それがこれまで徳川が為してきたことです。
それでも小野政次については近藤康用、今回の件は酒井忠次の暴走ということにして、家康本人が手を汚したわけではないと視聴者には印象づけているのですが。それでも連絡ちゃんと取り合おうよ、とは思います。
忠次は彼なりの忠義を尽くしています。
殿を血塗れの策から守りたいという思いは、それこそ小野政次と通じるものもあるでしょう。
「たかが夢じゃ。朝が来れば、終わる」
夜明けの白い光が、地獄と化した堀川城を照らします。
兵も、民も、龍雲党のモグラも、区別なく無残にも斃れていました。
もはやここは見せしめの城、処刑場なのです。
「モグさん……」
仲間の屍を見て呆然とそう呟く龍雲丸。幼い頃味わった落城の恐怖の中に、彼は突き落とされています。
龍雲丸は敵兵に襲われるカジを間一髪のところで救い、肩を貸して歩き始めます。その時、槍の一閃が龍雲丸を貫きます。
龍雲丸が振り返ると、そこには槍を構えた直虎の姿が……何故ここに直虎が?
「ああああああ~~~っ!」
直虎がうなり声をあげて、がばっと起き上がります!
人を殺す悪夢を見たと叫び泣く直虎。
「たかが夢じゃ。朝が来れば、終わる」
南渓はそう慰めますが、視聴者にはこれがただの夢には思えないわけです。
どこまでが夢なのか、現実なのか?
できれば全てが夢であって欲しい。
しかし、そうではないのです。
そこへ方久が転がり込み、気賀が徳川方に襲われていると告げます。
直虎は悪夢と交差する現実に気づき、走り出すのでした。
MVP:龍雲党
目に光が宿らない狂気、そしてそこから正気に戻り童女のように泣き叫ぶ直虎が演技面では一番かもしれませんが、今回は龍雲党がストーリーの軸でした。
どんな牢でも城でも、易々と入り込み活躍する龍雲党。
あまりの強さに何でも楽にこなしてしまいそうな存在です。
痛快さを重視し、先週の重さを和らげるのであれば、堀川城の惨劇から危機一髪で龍雲党だけでも抜け出せばよかったのです。
ところが、為す術もなく、いや、抵抗はしたものの、あっさりと虫けらのように彼らは踏みにじられました。
雄壮なBGMが流れた次の瞬間絶命したゴクウなんて、鬼のような演出です。
乱世を出し抜き、痛快な生き方をするなんてことは出来ないのだと突きつけられたようです。
これは龍雲党の生き方を全否定しているわけでもあります。
頭の龍雲丸は、かつて落ちゆく城から抜けだしました。
そして武士としての身分を捨て、二度とあんな目に遭わないように飄然と生きてきたわけです。
そうして築き上げたものが、仲間が、あっさりと踏みにじられてしまいました。
龍雲党の死に方に比べたら、先週の小野政次はまだしも恵まれていたと言えるわけです。
誰が彼らの最期の声を聞いたのでしょう?
誰が彼らを弔うというのでしょう?
他の多数の屍と一緒くたにまとめられて、見せしめにされます。井伊の村人と笑いあっていた彼らは、名も無き者として、そんなふうに死んでいったのです。
総評
先週に続き容赦も何もあったものではない展開です。
直虎は狂気と正気の淵を彷徨っている。
そしてその直虎の仲間たちがいる気賀に、堀川城に、直虎が味方すると誓った徳川勢が迫っているのです。
それでも龍雲丸らはしたたかに危難を乗り越えると見せかけておいて、あとは怒濤の退場ラッシュです。二週連続で直虎の大切なひと、今まで築き上げたものをズタズタに破壊します。
こうなってくると、どうして直虎が徳川を信じるようになるのかまったく理解できません。
史実を知っていても展開が予想できない。これはすごいことですね。
今週は「乱世の戦」をうまく表現した回でもあります。
派手なCGやロケ、騎馬武者や大勢のエキストラを使わずとも、緊迫感は表現できます。
戦が始まる前の気賀でも戦の気配と緊迫感がありました。堀川城の場面は胃が痛くなるような緊張感の連続でした。
はじめは得意げであった瀬戸方久が這々の体で逃げ出す様子。
右往左往していた龍雲党。
巻き込まれ死んでゆく人々。
巨大な力に巻き込まれ、踏みつぶされてゆく人々の生き死にが、これが戦だと容赦なく突きつけられます。
本作は小さな国衆に過ぎない井伊家の苦悩を描いています。
今週はそんな国衆よりももっと無力な人々が無残にも巻き込まれる姿を描くことで、戦国乱世の惨さを表現していました。
直虎と政次、瀬戸方久、中村屋、龍雲党……皆知恵を絞り、この荒波をくぐりぬけようと思っていました。
皆それぞれ、才覚やここかで生きてきた自信をもって試練に挑みました。
直虎と政次は、やっと今川からの支配が終わると希望を胸に抱いていました。
方久はさらなるビジネスチャンスだと小躍りしていました。
それがこの結果です。
しかも彼らの徳川につくという選択は、決して間違ってはいません。
直虎と政次について言うならば、彼らは最善の選択をしていました。
先週、逃げられる状況でもそうしなかった政次がじれったくもあったのですが、今週の展開を見ると正解であったとわかります。
城代である政次の首ひとつで井伊谷を守り抜いたのですから。ひとつでも何かをあやまっていれば、生け贄に捧げられたのは堀川城ではなく、井伊谷であったかもしれないのです。
何を信じて生きればよいのか。
どの道をたどれば死なずに済むのか。
一歩踏み間違えたら真っ逆さまに落ちる、そんな細い道を歩み続ける残酷さが本作にはあります。
材木騒動やら猪鍋やらで笑っていた頃から、思えば遠くに来たものです。次に心の底から笑えるのはいつになるのでしょうか。
政次ロスを癒すどころか、顔面にさらなる拳を見舞うような、残酷で見事な回でした。
しかも、来週はここに武田信玄も来るんですよ! 覚悟しておきましょう。
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絵:霜月けい
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【参考】
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)





















