『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー第34回「隠し港の龍雲丸」

皆さん、大丈夫ですか。武者震之助です。
政次ロスがニュースにもなった先週。私はその衝撃を、小野政次追悼サウンドトラック『鶴のうた』で紛らわしつつ、今日を迎えております。

先週の展開には絶賛とともに、冷静な批判もあるようです。
確かに小野政次には逃げる機会がいくらでもありましたし、槍を突き刺しながらの芝居には何の意味があるのかという指摘もあったようです。

イラスト・霜月けい

政次だけではなく、近藤らの行動にも突っ込みどころはあります。
しかしそれを突っ込むのは、さすがに野暮ってもんでしょう。

『ロミオとジュリエット』の感想に、
「主人公たちは安易に死んだものだ。もっと理性的、合理的にふるまったら結婚できていたかもしれない」
「若さゆえに死ぬなんてしないで、別の相手と生きる道を選んでもよいはずだった」
と言うようなものだと思います。

ロミオも政次も愚かなのです。
愛情が絡むと駄目な男になってしまうのです。
冷静なようでいて彼がそういう人間だということは、33回の間に書かれてきました。ついでに言うと近藤も合理的な行動を取るタイプではありません。

そもそも大河ドラマは歴史再現ドラマではなく、フィクションです。
フィクションである以上、見る者の感情をより強く揺さぶったら勝ちなのです。

あの処刑場面のせいで不眠、体調不良になったという感想すら聞かれました。熱を出して寝込むスタッフもいたそうです。本サイトの編集人も脚本家の腕・才能に呆然としてしまったようで、さすがに発熱まではなかったものの翌日は気だるい一日だったと言います。

大成功……でありましょう。
数年後、この作品のあの場面が衝撃的だった!と思い出す人は少なくないはず。

しかし、そこに至るプロットに粗があったことは、おそらく忘れ去られているはずです。
フィクションにおいては、理性より感情が残す印象の方が大きいのです。

「政次ロス」という感情の大波を残した本作は、大成功をおさめたのです。

◆「おんな城主 直虎」第三十三話で“政次ロス”にかかる人が続出 「引きずってるわ」「軽く寝込んでた」(→link

本作は「生ハムメロンを思い出す」と今年の初めに書いた記憶があります。

どちらかというと、平野レミさんの料理ショーのようなものかもしれません。
高級食材をふんだんに使うわけではないけれども、ともかくインパクトがある。感情をゆさぶり驚かすという点において、本作は高いポテンシャルを発揮しています。

では、遅くなりましたが本題へ。

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上機嫌な近藤 政次の死は無駄ではなかったが

今週の始まりです。
衝撃の処刑で時が止まったかのような井伊谷。支配者は近藤康用に替わり、息詰まるような日々の中で、それぞれが政次の死を受け止めています。

政次ロスに一番効くのはドラマの続きを見ることでしょう。
そこには視聴者と同じく、政次の死に涙する人々が生きて日々を送っています。

「いやあ、まさか次郎様自ら手を下すとは」

井伊谷を罠にはめ、憎い小野政次を始末した近藤康用は得意げな顔をしています。
仕置きは、小野政次の首で勘弁してやると南渓に告げる近藤。見ていて腹は立つものの、やはり政次の死は無駄ではありませんでした。

龍潭寺では直虎が一人、碁盤に向かっています。
取り乱さず、一心不乱に碁盤に向き合う直虎は、誰を待つというのでしょうか。

一方、川名の隠し里では、政次の死の顛末を聞いて井伊谷の人々が哀しみに沈んでいます。

現実を受け止めきれない亥之助。
「殿の手にかかったらならば本望」と、こんな時まで政次の心情を理解するなつ。
「私よりあの女を選んだのね」と思わないところが、彼女の善良さでしょう。短い間でも、なつと政次が心を通い合わせることができてよかったと思います。

 

政次は死んでない? と思い込みたい直虎の奇行

祐椿尼は政次を手に掛けた娘・直虎を思い、隠し里に引き取りたいと昊天に頼みます。
しかし直虎は、南渓と昊天から隠し里に行かないかと言われても断ります。

「但馬が今夜来ます。今後どうするか話し合わねば……」

直虎の中では、依然として時が政次の死の前、徳川到着前で止まっています。
直虎はまだ間に合うと思い、政次と二人で力を合わせて井伊を守りたいと願っているのです。

徳川勢は掛川城に籠もる今川氏真を攻めようとしているのですが、どうにもうまくいきません。

やはり全盛期の武田信玄と現時点での徳川家康では、力が違い過ぎるのでしょうか。
武田にあっという間に攻められて弱体化しているようですが、そこは「大今川」最後の意地なのでしょうか。強大な力とはなかなかあっさりと倒せないもののようです。

そんな徳川の陣に、瀬戸方久が武器と兵糧を売りにやって来ました。
これからは徳川の時代だとあっさり寝返った方久。
さて、銭の臭いに尾を振るこの決断は、吉と出るか、凶と出るか?

 

直虎の頭巾に、赤い点が一つ、ポツン……

直虎は、徳川襲来前、しかも近藤の企みを事前に察知していた世界に、まだ留まっています。

政次は生きていると信じている直虎の頭巾に、赤い点が一つ、ポツン……。
その点は、政次最期の血のひとしずくです。

直虎の目にこの点は入らないのに、周囲の人には見えるわけです。
この小さな赤い点が政次の死をあらわしているようで、強烈な演出です。

直虎の様子を見に来た龍雲丸に、南渓はここまで直虎を追い詰めてしまったと、心のうちを語ります。
龍雲丸は、本人はあれで結構幸せかもね、とひょうひょうとしています。
この龍雲丸の佇まいが今週の癒しかもしれません。

しかし南渓が警告した通り、龍雲党の本拠地・気賀にも戦が迫っていました。

 

まだ活気のある気賀 何かイヤな予感

今川勢は船を持たない徳川勢に対して有利に展開し、頑強に抵抗を続けています。

気賀に中村屋はいち早く徳川につくと決めたものの、その決断が正しいかどうかは、まだわかりません。龍雲丸はいざという時は逃げられるよう、準備を整えます。

この時点で騒然としてはいるものの、まだ気賀が活気のある街で人々が行き交っていることに、何か嫌な予感を覚えるのですが……。

直虎はまだ現実から逃避し、周囲の言葉に耳も貸さずに碁盤に向かっています。
政次の魂だけでもそのあたりにいるような、直虎を手招きしているような、一人で旅立つことを拒んでいるような。
そんな切なさと不気味さが漂います。

南渓はともに迷うことで導いているのかもしれない、と昊天に語る傑山。皆が直虎を心配しています。猫の鳴き声すら気を遣っているように聞こえます。

引間城の家康は、浜名湖方面と掛川方面両方に展開しなければならず、苦戦を強いられています。
今川の忠臣・大沢基胤はついに気賀の堀川城を落としました。今川勢は領民を城に捕らえ連行し、戦いに動員しようとします。
たまたま堀川城にいた龍雲党のゴクウらもとらわれの身となってしまいます。

 

最大の政次ロスを抱えているのは言うまでもなく直虎であり

直虎がうろうろと政次を捜し回っていると、鈴木重時が政次の辞世を持って来ます。

牢番が「そんなものは捨ててしまえ」と言っていたものですが、捨てるにしのびなく保存した者がいたようです。直虎は、最悪のタイミングで直虎は処刑について思い出してしまうのでした。

しかし考えようによっては、ある意味探し回っていたところへ「政次」が、形見としてやって来たとも言えるかもしれません。ちなみに辞世は、政次役の高橋一生さん本人が書いたものです。

白黒をつけむと君をひとり待つ 天つたふ日ぞ楽しからずや

政次の声で辞世の朗読と処刑の回想シーンも入ります。
本日二度目の処刑回想……直虎だけではなく視聴者も苦しめにかかります。

直虎は全てを思い出しました。自らの手で政次を殺したことまで、全て思い出しました。
泣き崩れる直虎。そうです、彼女が最も「政次ロス」を抱えているわけです。

 

逃げられない民を気遣っているごクウは……

鈴木重時は、政次処刑の事情を南渓から聞き後悔のあまりむせび泣きます。

己の情けなさ、不甲斐なさを詫び、「お役に立てることがあればお申し付けくださいませ!」とまで言います。
彼はいい人なのですね。彼は井伊家とは姻戚関係にもあたるため、その境遇に昔から同情を感じていました。

「但馬を生きて返す術を……」
そう容赦なく返す南渓。
私なら「近藤の首を取ってくれ」と言ったかもしれませんが、さすがに出家の身ですね。
鈴木重時はそう言われ一瞬言葉に詰まり、再度詫びながら退出します。

堀川城ではゴクウはじめ領民が集められています。大沢の部下・尾藤らは、鉄砲で威嚇射撃しながら叫びます。

「城主はお前らを捨てた!」
「相手は鬼のような連中だ。掠奪されて人買いに売られるぞ!」
「腹をくくれぇい!」

非情な宣言をするもんです。
と、そこへ龍雲丸がこっそり顔を出します。

「巻き込まれてどうすんだよ」

龍雲丸は夜になると、今川の兵を眠らせて仲間の救出をやすやすとやってのけます。どんな場所でもあっさりと潜り込む龍雲丸は無敵のように思えます。
しかし、ゴクウは逃げられない民を気遣っているのでした。

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