お好きな項目に飛べる目次
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せっかくの活躍も色眼鏡で見られてしまう
身を挺して刺客を倒した万千代は、そのおかげで一万石の知行を得ることになりました。
将来のことを考えればまだまだ出世ルートの途中。しかし、もはや彼は立派な若きエリートです。
しかし、他の家臣たちは……嫉妬しているようで。
「寝所で手柄だってよ!」
「槍で立てたって~」
「凄い槍じゃね~の~」
と、セクハラ全開の噂話をしています。
色小姓は辛いよ!(本当は違うけど)
もう我慢ならねえ、元服して小姓卒業だ、と息巻く万千代。
しかしそうなると、おとわに家督を譲ってもらわねばなりません。
「あのクソババアに弱み握られるとかムカつくし!」
万福が取りなしても、万千代の苛立ちはおさまりません。
井伊谷では、「長春」という荊棘(いばら)の一種を植えていました。
薔薇というと西洋の花というイメージがありますが、アジア原産の「荊棘(いばら)」が日本にもありました。
そこへ「万千代が一万石に加増されましたよ」というニュースがなつから届き、驚くおとわと祐椿尼。
自らの最期を悟った祐椿尼は、南渓に万千代宛の書状を託します。
近藤康用は、万千代が一万石加増されたなら井伊は再興されたようなもの、井伊万千代に井伊谷を安堵されるのではないか、とおとわ相手に気を揉んでいます。
うーん、その不安はもっとも。
いつ万千代が井伊谷を取り戻してもおかしくありません。おとわは否定するのですが、安心はできないでしょうね。
おとわが近藤のもとから物憂げな顔で戻って来ると、そこには万千代がいました。
井伊谷での万千代は、もとの虎松の面影が濃くなるようです。
おとわと万千代は二人きりになりました。
「戦いから降りたくせに戦いに口を出すなよ!」
万千代はおばばさまが呼んだから来た、お前のためじゃない、と牽制。
おとわは話があると井伊の井戸の前へと万千代を連れて行きます。
一万石ともなれば家来がいるのでは、とおとわに言われた万千代。
松下家にいた小野の家臣を使うと返答します。よかった、小野家臣団元気そうで。
おとわからさらに進路設計を聞かれると、万千代は「もしかして再興された井伊の殿に戻りたいの?」と言い出します。
おとわは「井伊谷を取り戻したい気じゃないだろうな? 余計なことをして波風を立てるなよ。今、近藤殿のもとでうまくやってるんだから」とジャブ。
と、ここで万千代が激怒となって議論が熱くなります。
「政次を殺してここをかすめとった近藤をなんで許すの? 馬鹿じゃないの? 誇りはないの? 取り戻して何が悪いんだよ?」
「お前はただ取り戻して褒められたいだけだろう。くだらない」
「アァ? 武家はそういうもんだろ」
万千代は、武家の戦いから降りて、超然としているおとわにますます激怒。
「できぬことから逃げ出しただけだろ! 戦いから降りたくせに戦いに口を出すなよ! 負け犬が戯言をほざくなぁ!」
これはなかなかの決め台詞です。
「左様なことなら家督は譲らぬぞ!」
「のぞむところです。ならば力づくで引き剥がすまで!」
「できるものなら、やってみるがいい」
完全に決裂……です……。
おんな城主ゆえに見えたことも多々あった
万千代のあの剣幕に一歩も退かないおとわ、すごいと思います。
そして彼女の中には、政次と龍雲丸の魂が生きていますねえ。
喧嘩腰でクールにいなすところは政次。
武家なんかくだらねえと言ってしまうところが龍雲丸。
おとわが最近政次に似てきました。
万千代を呼び出してくれた礼をおとわから言われた祐椿尼は、自分は役立たずだった、と振り返ります。
井伊家当主に嫁ぎながら女児一人しか産めなかった頃から抱いていた思いだったのでしょう。
自分が男児さえ産めば、こんな人生を娘に送らせなかった、そうずっと自分の娘の苦労に胸を痛めてきたのでしょう。
しかし、おとわはそれを否定します。
すべて望んだ道、今となってはこの立場だからこそ知れたことが山のようにあったと。
もし、兄弟がいてどこかの奥方になっていたら、知らないことがたくさんあったはず。
百姓達はただ米を運んでくるもの。
ならず者は世を見出す悪党。
商人は銭ばかり追い求める卑しきもの。
乗っ取りを企む家老は敵。
きっとそう思っていたに違いない。でも、女城主だったからこそ、そうではなかったのだ、と。
「己で頭をぶつけたからこそ、得られる喜びも多うございました。私は幸せですよ。母上のたった一人の娘に産まれて」
これほどの果報者はそうそういない、母上が一人娘に生んでくださって、この人生を与えてくれて、本当に嬉しいと語るおとわでした。
自分の人生を心から肯定することで、母への感謝を伝えます。
ずっと、そんな娘を案じていたい、万千代を助けてやって欲しい——祐椿尼は最愛の娘にそう告げ、亡くなります。
最期には、皆に手紙を託して。
赤鬼の家臣団デビューが始まった
手紙を読みながら大泣きする奥村六左衛門と、その背中をさする中野直之がいいコンビです。
井伊谷で、長春が赤い花を咲かせました。
人の死は寂しいだけではありません。
先週、甚兵衛の死後は緑の松が伸び、祐椿尼の死後は赤いばらが花開きます。
そこには寂しさだけではない生命の営みがあります。花を見る傑山の慈愛の微笑みが尊いですね。
そして万千代は、ついに家臣団の末席に加えられることに。
「エー、マジ家臣の末席に?」
「寝所の活躍で出世が許されるのは小姓までだよね~」
「キモーイ」
譜代の家臣団がニヤニヤヒソヒソする中、ここで万千代が驚きの自己紹介をします。
片肌を脱ぎ、寝所で負った傷を見せ、家臣団相手にポーズを決めるのです。
まるで遠山の金さん。
賛否両論でそうなシーンですが、『何やってんの???』と思わず見入しまった時点で菅田将暉さんの勝ちではないでしょうか。
赤鬼の家臣団デビューは、こうして始まります。
康政はやはり万千代の才能に脅威を感じている顔です。
一方、家康を襲った武助は処刑、一族も成敗されることに。信康と瀬名の元に不穏な雰囲気が迫ります。
万千代出世の糸口となった、武助の成敗。
それは、信康と瀬名には悲劇をもたらすことになるのです。
MVP:祐椿尼とおとわ
今週は番宣で「文句があるなら井伊谷にいらっしゃい!」と言っていたので、そちらかと思っていた『ベルサイユのばら』パロディ。
実はそこではなく、母娘の会話の元ネタが『ベルばら』。
オスカルが自分を男として育てた父に語る言葉が、オマージュ元でした。
なんと幸せで満ち足りた時間であったことか。
真っ赤な花がよく似合う場面でした。
総評
後半の本作はおとわと万千代が両輪となって進むので、どちらのパートも大事なのだと思いました。
ゆったりとした時が流れ、夕暮れの穏やかさに満ちた井伊谷。
生き急いでいるかのような、ギラギラした時が流れる万千代の周辺。
このふたつの道が交錯するところが今週のみどころようで、実はタイトルにもあった「井伊谷のばら」が大事な場面でした。
母に対して、女でありながら別の道を生きたからこそ、幸せだったと語るおとわ。
『ベルばら』オマージュとしてだけではなく、このドラマの主役が何故彼女なのかという問いへの答えも用意しています。
地に足を付け、男でありながら小さな家の当主となった井伊直虎が主役だからこそ、彼女の目を通して戦国の世を見ることができたのです。
逃散して抵抗を見せ、荒れ果てた山野に緑を取り戻した百姓たち。
戦国の片隅で自由に生きて、その結果堀川城で散った龍雲党の者たち。
金儲けのために知恵を見せる商人たち。
そして、悪名を背負い歴史の中に消えようとしていた小野政次。
今までの私たちの見方は、おとわの語った「もしも私が武家の夫人だったら」と同じものであったと思うのです。
為政者、支配者目線の、上からの見方だけであったと。
それがいかに浅いか、思い知らされました。
本作の魅力は、戦国時代の見方を変えてしまうところです。
城めぐりをしたら、石垣を積む人の姿を想像し、墓や古い慰霊碑を見れば家族を失い悲嘆に暮れる人々の姿が浮かび上がってきます。
そういう歴史の狭間に消えてしまうような、そんな姿を見せてくれたのです。
そのことを、母娘の会話を通して総括してくれました。
毎年秋ともなると、物語が閉じ始めた大河に寂しさを覚えます。
今年はむしろなんだか幸せな気分になるのは、得るものが大きかったからなのだと今週は感じました。
それともうひとつ。万千代の機転と出世がある人々を窮地に追いやるという、皮肉。
しんみりさせたあとで不幸にたたき落とす森下さんの脚本、流石だと思います。
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)