その旗の前に座る真田信繁。
赤とは何と刺激的な色なのでしょうか。赤備えの迫力とはこのことか。メインビジュアルからは、期待しか感じさせない、それが2016年の大河『真田丸』です。
しかし、諸手をあげて歓迎してもよいものだろうか。大傑作になるだろうか。視聴率は高くなるのか。
そう考えていくと、はっきりと「もちろんそうなりますよ!」とも言えないのが本作です。
そもそも制作側も万人受けする鉄板狙いかと言われれば、そうではないと思います。
かといって、『軍師官兵衛』のような鉄板題材にあぐらをかいた、守りに徹した作品でもない……届くところに届く、そんなヒット狙いかもしれません。
そして同時に、二年連続失敗はできないという、背水の陣にある作品でもあります。
三谷さんによる大河前作の『新選組!』は、成功作扱いではありませんでした。
当時は熱狂的なファンはついたけれども賛否両論、視聴率はやや低めという評価。
万人受けする成功作を生み出したとは言い切れなかった三谷さんの再登板は、「万人受けはせずとも、熱心なファンがつく作品にしたい」という狙いがあるのかもしれません。
本作は記録的な失敗作のあと、いわば枠が燃え尽きた状態からのスタートです。
実は『平清盛』も、同じような狙いではなかったか?と推測します。
あの作品も平均視聴率があと3%高く、二桁さえキープできていたらば、『新選組!』と同じ立ち位置、十年後に熱心なファンによって再評価、になっている気がするのですが……。
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なんだかんだで視聴率の目標値は?
と、ここで脱線しないで、具体的な目標数値をあげておきたいと思います。
久々に20%超えは期待したいところです、と言いたいところですが『軍師官兵衛』19.4%超えでも合格点かも
最低視聴率目標 10.0%を切らないこと
一度でも切るとマイナス印象がつきますので、ここはなんとしても踏ん張って欲しいところです。
しかし重要なのは数字ではありません。
きっちり数字が出る分バロメータとしては便利だけど視聴率だけで評価すると『天地人』がここ数年では名作という評価になってしまう。それはないだろう、と。
大事なのはクオリティです。
それそのものの予想ですが、これがなかなか難しいのですね。
一昨年はどこか守りに入った感じがありました。昨年に至っては、地雷ですらない爆弾が剥き出しに転がっている状態ですから、指さして「ああ、もうだめですね! 燃え上がって破滅しかない!」と見えたままの状態を指摘すれば事足りました。
大作ドラマになるのかそれとも駄作ギャラクシーなのか
今年はそうではありません。キラキラ光るものが落ちているのが見えます。
しかしそれが宝石なのか、それとも部品がよく反射する爆弾なのか? うーむ……難しい状況です。
ただし、現時点でいくつかの要素を拾い、一体どちらか考えることはできます。まず、厄介なもの、不吉な予感を感じさせるものから見ていきましょう。
キャッチコピーがおかしい:
そう言いたくなる気持ちはわかります。なまじビジュアルデザインが秀逸なだけに、あの馬鹿げたキャッチコピーに怒りすら覚えますよね。
しかし、だからといってドラマの中身まで駄作と判断するほどひどいものではないと思います。
ここで過去数作品のコピーとポスター図柄と比較してみましょう。
2016『真田丸』(赤い旗の前に座る主人公)
「今だって、愛と勇気の旗をかかげていいんだ。」
なんかそう言われたら押し切られて「あっ、はい」と言いたくなるけど、冷静になってみると意味がわかりません。
2015『花燃ゆ』(夜明けの屋根の上で山盛りのおにぎりをお盆に載せやわらかに微笑む主人公。周囲には四人の男)
「幕末男子の育て方。」
コピー詐欺。主人公最初の夫はじめ、大抵の幕末男子は育つどころか犠牲になりました。
2014『軍師官兵衛』(日射しの中、まぶしそうな目つきで歩く主人公)
「今だって、乱世だ。」
なんかそう言われたら押し切られて「あっ、はい」と言いたくなるけど、冷静になってみると意味がわかりません。
2013『八重の桜』(軍装の上にピンクに桜柄の裲襠を羽織った主人公が、険しい表情でスペンサー銃を持っている)
「この時代、咲いてみようじゃないの♥」
コピー詐欺。♥マーク、ピンク基調のポスターでスイーツ系かな、と思わせておいて、蓋を開けたら女が砲弾で吹っ飛ばされ、子どもが銃弾になぎ倒される近年随一の鬱展開。
2012『平清盛』(剣を肩に載せた主人公が空を見上げている)
「平成は、平安を見よ。」
なんかそう言われたら押し切られて「あっ、はい」と言いたくなるけど、冷静になってみると意味がわからない。
傾向として、男主人公はなんか威勢がいいけど意味がよくわからない、女主人公の場合はコピー詐欺のようです。ですから、今更失点とみなす必要もないと思います。
こうしたセンスがよいとはお世辞にも言えないキャッチコピーは、ドラマの中身を表すより視聴者の注意を惹きつける役割を担っているのでしょう。
ですから、主人公がどんな生き方をしたかより、世相に何となくマッチしたキャッチーな言葉が選ばれるのだと推測できます。
それでもこの馬鹿げたコピーに我慢ならないのであれば、NHKに厳しい意見を送りましょう。来年以降、少しはマシになるかもしれません。
危険度:★☆☆☆☆(マッチの火レベル・危険なし)
「武将」というより「軍師」っぽい主人公イメージ
主演俳優のアクションが不安:
これに関しては正直、『軍師官兵衛』の時に私が言った「官兵衛と信繁を演者トレードした方がよかったのでは」を久々に思い出しました。
が、ずっとアクションをしているわけでもないし、スタントマンだって使うという手もあるし、そこは何とかなる、と信じたいです。
危険度:★☆☆☆☆(せいぜい手持ち花火)
悪夢の土屋CPではないものの
屋敷CP(チーフプロデューサー)……どこかで聞いたような。あっ、『江 姫たちの戦国』のCPじゃないか!:
今年の大河についてこれ以上恐ろしいフレーズはありません。
私は昨年の大河最大の問題点はCPと書いたばかり。泡吹いて倒れそうになる人がいてもおかしくはありません。
この懸念に対して私は頭が痛くなるほど悩み、ひねり出したマシな答えは「彼は土屋CP(昨年)ほど自身のカラーを押し出さず、むしろ脚本家カラーが強くなる作品を作っているのではないか?」ということです。
彼は『新選組!』では制作主任、『篤姫』ではプロデューサーです。こちらに近くなると信じたいところです。
危険度:?
ギャラクシー街道路線でギャラクシー大河にならないか
三谷さんのピークは過ぎたのではないか?:
はじめに自分の好みから告白しますと、実は三谷さんのファンではありません。
三谷さんはよくも悪くも個性的ですから、万人受けはしない。NHK側もそこは見越した人選でしょう。
本作に関しては、軽やかな三谷さんテイストは抑え気味で、シリアスなところやシビアなところは思い切り陰翳をつけて欲しいと思っております。
そんな私の勝手な願いはさておき……このピークが過ぎた説、『清洲会議』あたりから浮上して『ギャラクシー街道』の記録的な大失敗で既に確定したかのように言われております。
実際のところどうなのでしょう。
脚本は物語の土台ですので、もしガタガタになったら……と、正直これが一番怖いのですが。
ただ、現時点で公式サイトや材料を見ていると、不安な部分が少ないのが救いです。序盤を見てから判断しても遅くはないでしょう。
大河は長丁場ですので、『八重の桜』のように中盤以降ガタガタになってしまう可能性もあるので、この点も油断はできません。
とはいえ、今年はクライマックスが最終盤に訪れます。
よりにもよって最後の盛り上がりが鹿鳴館ダンスという、昨年のようなことにはならないと思います。
できれば手に汗を握って、最終回を見守りたいですね。
危険度:?
ここまで書いてきて、次に願望といいますか「これが実現したら本当にうれしいな!」と思うポイントをあげてゆきます。
今やアプリでも画像加工できる時代 もっとすごいビジュアルを!
2016年の技術力によってアップデートされる戦国合戦絵巻!
実は私は、歴史ドラマではガンガンVFX(ビジュアル・エフェクツ)を使って欲しい派です。
なぜこんなことを敢えて今書くかと言いますと、なぜかVFXを使っていることを味気ないとか、だまされているようだとか、そういうネガティブなイメージを持つ人をチラホラ見かけるからです。
だからこそ声を大にして言いたい。歴史ドラマこそVFXが重要であると。
2013年の『八重の桜』では、かなり力を入れていました。
なんて言うと「えっ?『八重の桜』でVFXが凄い場面ってあったっけ?」と突っ込みたい方もいるのではないでしょうか。
よいVFXは実写と見分けがつかない。
ですから『八重の桜』のVFXがどこで使われ、どう凄かったか、実は結構わかりにくいのですね。
私もメイキングを見るまで気づきませんでした(メイキングは期間限定公開で現在は非公開/ソフトウェアの特典映像として収録)。
『八重の桜』のVFXに関しては、こちらのインタビュー記事もご覧ください。
◆NHK 大河ドラマ「八重の桜」映像マジックの舞台裏(→link)
2014年の『軍師官兵衛』は、こうしたVFX重視から実写重視になっていたようで、水攻めの場面などで使われていました(OPでは水が馬に変形するCG,プロジェクションマッピングによる映像などが使用されていました)。
と、ここまで書いたところで「そうは言っても『軍師官兵衛』みたいな実写重視の方が好きだし迫力あるよ」と言う方もいると思います。
そこで、論より証拠、歴史ものとVFXの相性の良さがわかる映像を紹介します。
『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン4 VFXメイキング
Game of Thrones, Season 4 – VFX making of reel from Mackevision on Vimeo.
『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン5 VFXメイキング
Game of Thrones, Season 5 – VFX making of reel from Mackevision on Vimeo.
『ゲーム・オブ・スローンズ』は一話あたりの予算が大河の十倍とも言われています。
撮影に莫大な費用がかかる船。
巨大な建築。
多数の兵士や馬。
そういったものを描くのであれば、やはりVFXとロケ映像を組み合わせているわけです。
確かに往年の大河ドラマや映画はCGなんて使わずに迫力ある場面を生み出していたかもしれません。
しかし、そういった傑作の思い出補正を捨てて今見直してみると、迫力のなさにがっかりすることがあるのではないでしょうか。
大画面、ハイビジョンに対応した今こそVFXを多用した大河の生きる場面でしょう。ただし、NHK側はこんな事態は百も承知といった状態のはず。
私が「VFXはいいぞ!」と言いたいのは、一部のアンチVFXの方々です。
21世紀の今、実写に頼らずとも迫力ある映像は作れます。
クライマックスの大坂の陣で、城をびっしりと取り囲む軍勢がウヨウヨと動く映像を鳥瞰で見るとか。
見渡すかぎり兵馬が散らばる関ヶ原とか。
そういうのが見たいんですよね。
もっと言いますと、役者のバストアップとエキストラがぱらぱらと散らばるだけの合戦シーンはノーモアじゃ! 迫力ある映像が『葵』の使い回しだけの関ヶ原は見たくないんじゃ……!
と、思っていたらこんなコンテンツが!
期待してよいということでしょうか?
コーエーの3Dマップといい、視覚的にも21世紀大河としてアップデートされそうで、とても楽しみです。
明治時代の講談ではなく史実の「幸村」
史実により近い信繁像
真田幸村といえば言うまでもなくトップクラスの人気を誇る戦国武将です。
昔は講談、それから漫画、そしてゲームと、様々なメディアで人気の人物として扱われてきました。
ただしそれはあくまで半ば伝説化した「幸村」であって、史実の信繁像はその影に隠れて見えないわけです。
このことに関して、三谷さんはこう語っております。
◆【真田丸】三谷幸喜氏、主人公の名前「信繁」に込めた決意(→link)
これに関してはもう全て語り尽くされているなあ、付け加えることあないなあ、という気持ちです。
他に関しても楽しみなことが多いです。時代考証ページも力が入っていますし、キャストと相関図に関しては正直なところ期待が上がるばかりなので見るのをセーブしています。
今年は信長より家康が若いし(やけに若い信長と若い頃から貫禄たっぷり最終形態の家康はもういりません!)、戦国残酷絵巻の秀次事件もちゃんとやるみたいだし、側室カットもやらないようだし、地方大名の興亡もちゃんとやるみたいだし、勝頼がただのバカ殿にされそうにもないし、いちいちそつがない!
優等生的な作り方と言いますか、抑えるべきポイントを外していない堅実さを感じます。
昨年の反動でまともな大河に対する渇望が高まり、採点が甘くなっていないかと自分でも思うところはあるのですが、現時点では今年の大河はここ数年では最も期待できる作品ではないか、と言うのが現時点での予測です。
この予想が当たりますよう、切実に願いつつ放送日を待とうと思います!
私だって、今年は期待できると予測して、それが実現されたいと思っているんですよ。そうなりますように!!
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真田丸感想