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【救貧法】
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マッチ工:毒煙を浴び続けるイギリス版「女工哀史」
きつさ:★★★★★
汚さ:★★★☆☆
危険度:★★★★★
昔のマッチは有害物質の「黄リン」を用いることがありました。
黄リンマッチは発火点が低いため容易に点火できるメリットがあるものの、そのため事故が発生しやすく危険だったのです。
ゆえに他国では禁止されながら、イギリスでは商業の発展を損なうおそれがあるとして、しばらくの間、認可されていました。
黄リンを燃やすと有害な煙が発生します。
マッチで煙草に火をつけるくらいならば問題はないかもしれませんが、長時間黄リンが燃える煙にあたり続けるマッチ工にとっては別です。
煙にあたり続けると中毒症状を起こし、下あごの骨が壊死。
週に5日、最低でも10時間、最大14時間、安い給料で工場労働者は酷使され、毒煙を浴び続けました。しかも遅刻ならまだしも、私語が発覚するだけで罰金を取られます。
こうしたマッチ工の多くは若い女性を雇っていました。
彼女らはつらい職場でもそれなりにおしゃれを楽しみ、カラフルな服装で働いていました。
そんな彼女らが、労働の副作用として下あごの骨を壊死させていたのかと思うとぞっとせずにはいられません。
では、最後に「救貧院」も見ておきましょう。
救貧院での強制労働:監獄とどちらが酷いのか
きつさ:★★★★★
汚さ:★★★★★
危険度:★★★☆☆
前述の通り、イギリスの歴史には【救貧法】が存在しました。
そして1834年、救貧法が改正され、救貧院が出来ます。
これを作るとき為政者はこう考えました。
「救貧院を快適にしたら、怠惰な連中が押し寄せてしまう。なるべく酷い環境にしよう!」
この理念通り、救貧院は最低最悪の境遇でした。
不潔で、不衛生で、働いても最低賃金以下に設定された肉体労働ばかり。
「救貧院」といっても救うというよりは、「貧しい人は怠惰なのだから、罰を与えるべきだ」という発想の施設だったのです。
福祉というよりも刑務所に近い発想ですね。ですから、境遇も近くなるわけです。
「救貧院に入るくらいなら死んだ方がマシ!」と当時の人は恐れ、ゴミ拾いやドブさらいのような仕事についたりしました。
人を酷使するのが英国人ならば、告発するのも英国人
ここまで読んで「劣悪な労働環境を放置し、しかも子供まで酷使するなんてイギリス人は酷い!」と思った方も多いことでしょう。
しかし、利益を追及して人を酷使するのがイギリス人であるならば、それを告発し改善しようとするのもまた、イギリス人です。
ディケンズに代表される作家たちが、貧民街の過酷な労働と生活を描き、社会にこれでよいのかと問いかけました。
1862年から翌年にかけて連載されたチャールズ・キングレーの風刺小説『水の子どもたち』には、煙突掃除の少年が味わう苦悩が描かれ、この小説を読んだ読者たちは残酷な境遇に関心を寄せるようになりました。
社会はもはや「見て見ぬ振り」ができず、少年に煙突掃除をさせることに対して罰金が課されるようになりました。
マッチ工場では社会派ジャーナリストに指導された女工たちがストライキを起こし境遇改善を実現。
救世軍は人体に害が少ない赤リンを使い、賃金も他の工場より二倍支払うマッチ工場を運営するようになります。
このように、自分の筆の力や才能を用いて立ち上がるのもイギリス人らしさかもしれません。
食事がまずいとか、紅茶ばかり飲んでいるとか、そういうところだけがイギリス人らしさではありません。
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世界中で大ヒットしたシリーズ『ハリー・ポッター』に登場するハーマイオニーは、しもべ妖精の労働環境に義憤を感じて「屋敷しもべ妖精福祉振興協会(S・P・E・W)」なんて団体を立ち上げます。
児童文学の世界でいきなりこの子は何をやっているんだ、と面食らった読者もいることでしょう。あれは実にイギリス人らしい態度ともいえます。
そんな彼女を茶化すロンもまたある意味イギリス人らしい態度ですが、そのハーマイオニーを当たり役とした女優のエマ・ワトソンも社会活動に目覚めて活躍しています。
これもまた自分の才知で社会をよりよくしたいという、これまたイギリス人らしい行動です。
世界史を学ぶと、必ず嫌いになると一部では言われ、二枚舌外交だの中東の混乱を作った元凶だの言われがちなイギリス。
労働環境も劣悪なものがたくさんありました。
大英帝国発展の影で、植民地のみならず国民をも使い捨てにしてきました。
しかしそれだけがイギリスではありません。
ブラックな労働問題に立ち上がり、才知で世界をよりよくしたいと思う人々もいるということを覚えておいてもよいと思います。
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文・小檜山青
【参考】
トニー・ロビンソン/日暮雅通/林啓恵『図説「最悪」の仕事の歴史』(→amazon)