イギリス海軍の歴史

トラファルガーの海戦/wikipediaより引用

イギリス

海賊行為で世界を制覇した イギリス海軍の歴史があまりにも暴君だ

2025/03/07

世界中のどんな国にも、

【コレこそが我が国なり!】

と誇りたくなる特徴や歴史があります。

イギリスの場合は何か?

そう尋ねればこんな答えが返って来ることでしょう。

「イギリスこそ、海洋国家である」

ナルホド。

島国で海を制覇したイギリスゆえの誇り――イギリス海軍の歴史をたどれば多くの方が賛同できるかもしれません。

現在もイギリスでよく歌われる『ルール・ブリタニア』の歌詞はこうです。

ブリタニアよ(イギリスの象徴である女神)、統治せよ!

ブリタニアよ、海を支配せよ!

ブリトン人は決して奴隷にはならぬ!

イギリス人は海を支配してこそだ。ハッハー!

そんな誇りを感じますよね。

といっても、これは狙ってそうなったものではなく、哀しいかな、当初は必要に迫られてのことでした。

 


海を支配せよ!さもなくば奴隷になる

イギリスは、四方を海に囲まれています。この点は、日本と同じです。

幕末になり、西洋列強の脅威を受けたとき、日本の人々はこう焦燥したものです。

「四方が海に囲まれているのだから、敵を防ぎようがない」

しかし、これはイギリスも同じこと。かつてのイギリスは、海からやって来た敵に踏みにじられる辺境の島国でした。

ブーディカ像

元をたどれば、イングラント人の祖先であるアングロサクソン人も、海を越えてやって来ております。

世界史を専攻されてない方は驚くとも多いのですが、現イギリス王室の祖先だってフランスからやって人たちです。

世界を制するようでいて、実は制された国・イギリス。

海を越えてやってくる相手には屈するしかないのか?

「NO!」

そんな風に答えを突きつけた人物がアルフレッド大王です。

アルフレッド大王像

先のYoutube動画『ルール・ブリタニア』も、アルフレッド大王を讃える劇中歌でした。

 


強い海軍さえあれば、イギリスは支配されない!

我々は屈しない!

そのことを知らしめたアルフレッド大王が、愛国心の象徴となったのも無理のないところ。

イギリス史上に燦然と煌めく人物は、強い海軍力を伴っておりました。

離婚騒動や、その他多くの問題から「何なんだ、あの人は」という扱いを受けるヘンリー8世。

実は彼は、ロイヤルネイビー(英国海軍)創始者であります。

ヘンリー8世/wikipediaより引用

『TUDORS』でもあの王様は酷いもんでした。

 

「アルマダの海戦」で、当時の大国スペインを打ち破ったエリザベス1世は、英国史でも最も人気の高い君主かもしれません。

※『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』ではマーゴット・ロビーがエリザベス女王に扮します!

そして、ナポレオンの艦隊を二度も完膚無きまでに打ち破った、ネルソン提督

何かと絵になる御方です。

ネルソン提督/wikipediaより引用

このように

「うぇ~い、海洋国家バンザーイ!」

と言いたくなるのもイギリスであれば無理はなく、しかし他国からすれば、

「海軍使えるからってホイホイ侵略してくるんじゃねーよ! 大迷惑だわ、この海賊国家が!」

というツッコミが湧いてくるわけですね。

 

海賊行為でメイクマネー

海賊国家としてのイギリス。

当初、その矛先は隣国フランスに向かいました。

「気軽に人の領土だの、王位だの、要求してんじゃねーよ! しかもシェイクスピア劇にまでしおって! 迷惑かつ厚かましいんだよ!!」

そう言いたくなってもよいところ。

百年戦争で敗北して以来、やっと、この迷惑行為もおさまります。

しかし、海の上では別の話です。

フランスやスペインの船を襲い、荷物を掠奪することは、イギリス人にとっては気軽な経済行為でした。これはイギリスだけではなく、他国ですらそうです。

戦争状態になれば「報復行為だ!」という言い訳もできる。

これを当時の王が取り締まったかというと、むしろラッキーだとすら考えていたフシがあるのです。

国家予算とは別枠で、敵国にダメージを与えられる。

金は天下の回りもの。

海賊行為で経済が活性化するならそれはよいこと。

ヨーロッパの戦争において、君主が頭を悩ませたことはお金の問題なのです。

戦争のために集めた貴族は、所定期間が過ぎ去れば

「時間切れです。領地まで戻りますね。ホラ、治めないといけないでしょ?」

と勝手に戻ってしまう。そうなると、金を払って傭兵を雇う羽目になります。

チューダー朝は、こうした経済問題がネックでした。

名君とされるエリザベス1世は、宗教問題でも頭痛がしているのに、戦争まで金がかかるとなれば、もうパンクしそうなところです。

※海賊で一儲け、それはこの名君も考えたコトです

そこで思い出してみるのが海賊です。

ヘンリー7世の頃からこうした海賊に目を付け、国家のライセンスさえあれば見逃す、そのかわり見返りをよこしましょうね、と持ちかけていたわけです。

ジェームズ・ボンドでおなじみの「殺しのライセンス」ならぬ「海賊のライセンス」ですね。

 


ジャック・スパロウの時代へ

時代がくだるにつれ、イギリスはじめ各国で海賊への考え方が変わり始めます。

【流石にこれ以上ヨーロッパ近海を荒らすのはいかがなものか】

どうせやるなら、目の届かないところでやれよ、ただし分け前はこっそり寄越せよという方向に……。

【海軍の発展】

エリザベス1世の時代頃までは、海軍の整備が進まず、民間船が戦うほかありません。

ところが17世紀後半ともなると、世界最強とうたわれる英国海軍が整えられてゆきます

「英国海軍の父」とされる人物が、サミュエル・ピープスです。

サミュエル・ピープス/wikipediaより引用

偉大な人物ではあるのですが、エロ本を買いあさっただの、エッチなことをしただの、そういうことを書き留めた日記が有名になってしまったのでした。

そのため「ピープス? ああ、あの恥ずかしい日記の人ね!」なんてことに。

しかも本人は、恥ずかしいと自覚していたのか、暗号を使っていたというのが切ない話です。

バッチリ解読されましたけどね……。

いや、まぁ、ロンドン大火の記述もありますし、史料価値は高い日記なんですよ。

黒歴史的記述があるだけで。

邦訳もありますので、ご興味があれば是非にでも。

【航海技術向上】

航海技術が発展し、地球の裏側であるアメリカ大陸まで向かうことができるようになりました。

しかもアメリカにはおいしいものがある!

【新大陸は儲かるぜえーッ!】

海の向こうには、ヨーロッパ人にとって利益の大きなものがたんまりありました。

アフリカから黒人奴隷を売り払えばウッハー!

新大陸から銀を掘り出したスペイン船を襲えばヒャッハー!

そこにビジネスチャンスがあったのです。

こりゃもう地球の裏側までレッツ海賊しようぜ♪ というわけで、海賊のグローバル化。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』時代の到来というわけです。

ジャック・スパロウがどうして海賊をしているかって?

そりゃあ、儲かるからですよ!

 

ああいう映画では、ファンタジックな財宝が出てきますよね。

大物海賊が金銀宝石をたんまり隠している――そんなストーリーですよね。

しかし、史実はそうじゃありません。

海賊が目を光らせて狙ったお宝は、自国以外の商船が運んでいる銀や黒人奴隷なのです。

銀を満載した沈没船があろうものならば、今こそ稼ぎ時だとばかりに、海賊船が集まりだしました。

では、こうした海賊になるのはどんな人たちなのか、ご想像つきます?

冒険心ゆえ?

海賊王になりたい?

ヒャッハーしたいワルだから?

そういう理由もあるでしょう。

しかし、最大の目的は生活手段。いわば出稼ぎ感覚です。

海賊は危険極まりないもの。船が沈むかもしれませんし、戦闘だってマジの殺し合いです。さらに当時は壊血病という深刻な問題もありました。

壊血病
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それでも、陸の上でジッと貧しさに堪えるだけでは何の展望もない。

『ならいっちょ、海賊戦で一攫千金を狙ってみるか!】

要するに、海賊はロマンに溢れる荒くれ男というよりも、金がなくてどうしようもない男たちだった……そんな切ない事情があったわけです。

 

女海賊だっていた!

ちなみにこうした海賊には、黒人やムラートも含まれていました。

白人男性だけが海賊だと思うのは、大間違い。

女性だっておりましたよ!

女性海賊は、後世想像力を刺激しました。

中でも有名なメアリ・リードを主役とした小説を、フランス人作家のミレイユ・カルメル氏が手がけております。

※邦訳もあります

このシリーズにもう一人登場する女性海賊が、アン・ボニーです。

この二人こそ、女性海賊として最も知名度が高いと言えます。

『大航海時代V』、『Fate/Grand Order』、『アサシン クリード IV ブラック フラッグ』、『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』といったゲームでもおなじみ。

『ONE PIECE』のジュエリー・ボニーは、アン・ボニーをモデルの一人としているという推察もあるほどです。

メアリ・ハーリー、メアリ・クリケットという女性海賊も、史料に名が残っています。

メアリー・リード/wikipediaより引用

さて、リードとボニーですが、その人生は対称的です。

二人とも裁判にかけられ、投獄され、死刑宣告をされたところまでは同じです。

しかし、妊娠中で刑は執行されませんでした。

リードは1721年に獄中死、ジャマイカで埋葬されています。

ボニーは消息不明とされてきましたが、近年、彼女らしき足跡が明らかになりました。救い出されて出産。後に別の男性と結婚し、実に8児の母となったのです。

サウス・カロライナに残る彼女の死亡記録は1782年。

なんと84歳という、当時としては驚異的な長寿を全うしたことになります。

アン・ボニー/wikipediaより引用

彼女たちは、記録に残ったためその存在を確認できます。

『女海賊大全』という、彼女らについてまとめた本もお薦めです。

危険な海賊船や戦艦に乗りこんだのは2人だけじゃない――近年、そんな見方が出てきております。

海軍や陸軍にも、男装して入り込んだ女性がいたのです。

しかも、洗濯や食事の用意をしていただけではなく、戦闘においても参加したことが判明して来ております(BBC)。

戦った勇敢な女性たちの歴史は、今後ますます明らかにされていくことでしょう。

陸軍にも、男装した女性軍人がおりました。

ナポレオン戦争時、ロシア軍騎兵将校として活躍したナジェージタ・アンドレエヴナ・ドゥーロワ。

ドゥーロワ/wikipediaより引用

彼女は『女騎兵の手記』を刊行しております。これも邦訳が出ています。

シェイクスピア史から無視されがちだった女性を追った好著はこちらのレビューで。

そこにいた女性たちは、歴史から消去されがちな存在であるのです。

 

英国海軍は最強、そして最悪だ!

資源に限りある島国でありながら、地球の裏側まで掠奪を行い、懐を潤してきたイギリス。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでは、ちょっとマヌケな英国海軍ですが、海賊の活躍が翳りを見せ始めると同時にメキメキと力をつけてゆきます。

海賊が海軍に変わったのであれば、掠奪は下火になったのか?

いえいえ、そんなことはありません。

彼らは、自国民すら脅したりするのですから恐ろしいものがあります。

19世紀初頭に廃止されるまで、イギリス人男性は海辺にいる時は警戒しあったものです。

それはなぜか?

「イヤッハー、海軍だぜぇ! オラオラ、戦艦に乗れぇーッ!」

そう脅しながら、善良な市民を戦艦にまで連行する危険極まりない奴らがいたからなんです。

海軍?

海賊じゃなくて?

海軍です……。

正確に言うと「強制徴募隊」と言い、英語だと“Press-gang”(プレス・ギャング=無理矢理連れて行く悪党ども)という呼ばれ方ですね。

自国民からギャング呼ばわりされる英国海軍とは一体……。

彼らは基本的に志願者から水兵を募ってはおりましたが、どうしても不足するわけです。

そこで用いた手段が、

・海沿いから人をかっさらうこと

・アメリカ船からかっさらうこと

でした。

プレス・ギャングを描いた一枚/wikipediaより引用

しかも、対象者は大人だけではありません。

6歳以下の子供は「海軍少年水兵火薬運搬係(パウダーモンキー)」と称して、戦艦に乗せられました。

「路上で物乞いになるよりも、寝場所と食べ物があるだけマシだろう」

そんな考えのもと、少年福祉扱いですらあったのですから、恐ろしいものがあります。

あるいは戦艦上の女性たちも、パウダーモンキーや看護士扱いされることがありました。

戦艦の勤務は、大人でも子供でも辛いものでした。

1789年のバウンティ号のように、反乱が起こったことも少なくありません。

バウンティ号/wikipediaより引用

子供がいたのは、なにも水兵だけではありません。

士官学校ができる以前、陸海軍ともに中学生くらいから士官として軍務に就くことがありました。

イギリスの場合、陸軍の階級は金銭で取引することが主流です。

そのため、陸軍士官は比較的裕福なアッパークラスの二男以下が多いものでした。

ウェリントン公ことアーサー・ウェルズリーも、そうした典型例です。

初代ウェリントン公爵/wikipediaより引用

一方で海軍は、階級を金銭では取引しません。

そのため、アッパーミドルクラスの二男以下が多くなりました。

12歳で士官候補生として戦艦に乗り込んだホレーショ・ネルソンも、実はその一人です。

ネルソン時代の英国海軍を描いた『マスター・アンド・コマンダー』の日本版。

その宣伝で、幼い士官候補生の受難をことさら強調したため、

「ちゃんと歴史を調べて! そのくらい当時はよくあることでしょ!」

と、ブーイングを浴びました。

そうなのです、気の毒とはいえ、そういうものでした。

 

英国海軍が築く「大英帝国」への道のり

労働条件は悪いのは合点した。

しかし、海軍だから海賊ほど略奪しないのではないか?

うーん。これが残念ながら、そんなことはなくて。

海軍士官および水兵の収入は、それはもちろん給与です。

それではボーナスは?

賞金です。

半年ごとにもらえるわけではなく、海戦に勝利するか、船を拿捕して得られるわけです。艦長以下、水夫までこうして得た賞金を山分けするのです。

他の船を撃破すれば一攫千金! という状況は、海賊も海軍も同じことでした。

他国からすれば、国がバックについた海賊よりも危険な海軍がウロウロしているとなれば、そりゃもう洒落になりません。

アメリカも、スペインも、そしてフランスも。どの国もみな『英国海軍ヤバイ……あいつら本当に一体なんなんだよ……』と恐れ慄いていたものです。

こうした国の中で、最も英国海軍を恐れていたのがフランスです。

ルイ16世は暗君呼ばわりされがちですが、実際にはかなり聡明な人物です。

ルイ16世/wikipediaより引用

英国海軍に対抗できるように海軍改革を行い、アメリカ独立戦争でその成果をあげております。

しかし、こうした改革もフランス革命で台無しに……。

フランス海軍士官は貴族出身者が多かったため、革命で身の危険を案じた彼らは辞職し、海外亡命する者も相次ぎました。

革命後に台頭したフランス史の誇る大英雄といえばナポレオンです。

陸軍に関しては優れていたものの、海軍に関しては知識が不足。

それなのに性格はワンマン思考であり、海軍にも口出しをしてしまい事態を悪化させることになります。

そんなナポレオンの艦隊を、二度壊滅させたのがネルソン提督です。

「ナイルの海戦」にせよ。

ナイルの海戦

「トラファルガーの海戦」にせよ。

トラファルガーの戦い/wikipediaより引用

見つけたと思ったら即座に攻撃開始!という殲滅っぷりであります。

それでも『陸で勝てばいい』とばかりに戦争を続行するナポレオンでしたが、どうしたって無理がある。

イギリスは、海での利があるぶん、ナポレオン戦争でも有利だったのです。

オーストリア、プロイセン、ロシアといったフランスと地続きの国が疲弊する中、ほぼ無傷のまま戦争のなりゆきを見守っていました。

そしてナポレオンの無敵ぶりに翳りが見えて来た、半島戦争。

そのとき!

「待ってたぜェ!! この瞬間(とき)をよぉ!」とばかりに、イギリス陸軍がついに参戦を果たします。

アーサー・ウェルズリー率いる英国陸軍は、史上初の狙撃部隊の活躍もあり、ナポレオンを追い詰めてゆきました。

ナポレオン/wikipediaより引用

そして【ワーテルローの戦い】で、完全に相手の息の根を止めたのです。

ナポレオン戦争において、他国よりはるかに少ない犠牲で勝利したイギリス。大英帝国大躍進の基礎は、この時代に築かれたようなものです。

それもこれも、海軍がナポレオンを上陸させなかったから。

海を制圧したことで、イギリスは植民地獲得で他国をリードしました。

「日の沈まない大英帝国」は、まさに海軍あってのものであったわけです。

かつて存在したイギリス連邦/wikipediaより引用

 

英国海軍は危険!江戸幕府も認識していた

ナポレオン戦争――薄っすらと耳にはしながら、日本からは遠い国で起こったことであり我々には関係ない。

そう思われますよね。

いえいえ。江戸期の日本にも影響を与えています。

北に目をやりますと、樺太や蝦夷地へ南下しつつあったロシアが、ナポレオン戦争の影響でそうした動きを停止しています。

松前藩にとっては、ありがたやナポレオン様、といったところでしょう。

そして南に目を転じますと、英国海軍が日本をも襲っていたことがわかるのです。

【フェートン号事件】です。

1808年(文化5年)、ナポレオン戦争真っ最中のころ、英国海軍フリートウッド・ペリュー艦長は考えをめぐらせます。

ヨーロッパ大陸では、ナポレオンの傀儡国家が増えております。オランダもその一つでした。

「極東のジャパンには、あのナポレオンに膝を屈したオランダが出入りする場所があるらしいな。そこを襲撃して食料をゲットだぜーッ!」

このように、英国海軍としてはフツーのことですが、江戸幕府からすれば全く意味がわからない。

しかもこのフェートン号は、オランダ国旗で偽装していたのだからたちが悪いのです。

まっ、英国海軍ではよくあることです。

ついに長崎へ入港してきたフェートン号は、出迎えたオランダ商館員を誘拐!

フェートン号/wikipediaより引用

長崎奉行所が人質返還を依頼しても、相手は聞く耳を持ちません。

「水と食料をよこせ! あ、できればうまい肉がいいなあ〜。言うこと聞かないと長崎の船を焼き払うもんね!」

そんなわけで、長崎奉行は大ピンチに陥ったのです。責任者は結局、切腹にまで追い込まれているのですから酷いトバッチリでありますね。

オランダ商館も焦りました。

それというのも、ナポレオン戦争の結果国王が亡命し、ナポレオンの弟が王となり、実質的に別の国になっていたからです。

そんなこと、江戸幕府に知られたら一大事ですよね。

何か隠していないか? と、追及する江戸幕府。そしてシラを切りたいオランダ商館。

江戸幕府はロシアや他国ルートを通して、ヨーロッパ情勢を探ります。

江戸幕府、そして南の海に面した薩摩藩は、イギリスの脅威を感じていました。

薩摩藩はイギリス人船員が領内に上陸した【宝島事件】でも、痛い目にあっています。

【アヘン戦争】にも警戒感を強めておりました。

アヘン戦争/Wikipediaより引用

何かあるとすれば……国外から危険な奴らがやって来るとすれば、それはきっとイギリスだ!

そう警戒し、英語の通訳養成にも取り組んでいたわけです。

そう思っていたら、結果的にやって来たのはペリーでした。

このあたり、アメリカ側も意識していたようです。

「いやあ、日本の皆さんはラッキーなんですよ。私たちがもし、あの極悪海賊集団イギリスだったら、もっと酷いことになっていたでしょうねえ」

アメリカからやって来たハリスは、そんなスピーチをしたほどです。

タウンゼント・ハリス/wikipediaより引用

要するに、江戸幕府と薩摩藩も英国海軍被害者の一員に数えてもよいわけですね。

はい、地球の裏側までボコボコにする英国海軍ヤバイっす。

ついでに言えば、そんなイギリスに喧嘩を売ってしまった薩摩藩もヤバイ。

生麦事件のイメージ/国立国会図書館蔵

イギリス側は薩摩や長州に手を貸し、日本を有利に運べばいいという判断をしたわけですが、これが明治以降も影響を与えます。

樺太問題では、イギリスが干渉。

日露戦争に至る経緯にも、イギリスの影がちらついておりました。

 

海賊が違法行為となった時代

突如襲いかかって、荷物や人をぶんどっていく海賊行為――現代人からすれば、言うまでもなく悪の極みです。

しかし、実はこの海賊行為が悪だと認識されたのは、19世紀後半になってからのこと。

英国海軍黄金期とされており、フィクションでも人気があるのは、ネルソン時代の18世紀後半から19世紀初頭にあたります。船艦の見た目も麗しい木造帆船最後の時代でした。

これ以降となると、海軍や海賊のあり方も変貌して来ます。

人権の観点から見た私掠船の野蛮さ。

伸びゆくアメリカ合衆国の脅威。

ロシアへの警戒心。

英国海軍さえあれば何とかなる時代は、過去のものとなりつつありました。

1856年の【パリ宣言】により、私掠船は違法とみなされたのです。

【トラファルガーの海戦】からほぼ一世紀後に起こった第一次世界大戦は、英国海軍がもはや世界最強とは言えないことを知らしめるものでもありました。

1915年の【ドッガー・バンク海戦】では、イギリスがドイツに勝利をおさめたと言えます。

ドッガー・バンク海戦/wikipediaより引用

1916年、ユトランド沖海戦。

イギリス艦隊は戦略的勝利をおさめたとはいえ、大損害を受けました。

戦術面でのミスも目立っております。

ユトランド沖海戦/wikipediaより引用

こうした戦闘の経過や結果以外にも、問題点は山積みです。

ナポレオン戦争時代のような海軍の作戦を遂行することは、もはや危険極まりなく、時代遅れとされました。

アメリカ独立戦争のころからは、潜水艦が本格的に利用できるようにもなっています。

このような科学技術により戦艦が変わりゆく中、イギリスは宿命的なトンデモ戦艦を開発し、のちに国王であるジョージ6世の命すら奪いかけております。

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人権意識の変化や、活発化した国際交流も背景にあります。

ドイツはアメリカ人乗客が乗り込んでいるイギリス民間船を沈没させ、アメリカの激しい怒り買い、第一次世界大戦への参戦すら招いてしまいました。

金銭事情も変化します。

英国海軍は賞金の分配法を変更しました。賞金を艦長以下分配するのではなく、一旦海軍側が預かることにするのです。

これにより、船を拿捕する金銭的メリットが海軍人や水兵にとっては低下したのです。

第一次世界大戦は、それまでの海賊と英国海軍を変えてしまったのでした。

その後、第二次世界大戦を経て、英国連邦はその役割を終えます。

海洋国家イギリスは、海賊と英国海軍の衰退により、斜陽に入ったとも言えます。

これも海洋国家の皮肉な結末と言えるのかもしれません。


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【参考文献】
薩摩真介『〈海賊〉の大英帝国 掠奪と交易の四百年史 (講談社選書メチエ)』(→amazon
ニーアル・ファーガソン『大英帝国の歴史 上下』(→amazon
ロバート・サウジー『ネルソン提督伝 上下』(→amazon
ロイ・アドキンズ『トラファルガル海戦物語 上下』(→amazon

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小檜山青

東洋史専攻。歴史系のドラマ、映画は昔から好きで鑑賞本数が多い方と自認。最近は華流ドラマが気になっており、武侠ものが特に好き。 コーエーテクモゲース『信長の野望 大志』カレンダー、『三国志14』アートブック、2024年度版『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『覆流年』紹介記事執筆等。

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