2017年11月27日。
英国ハリー王子がアメリカ人女優のメーガン・マークルさんと婚約しました。おめでとうございます。
このカップルには、人種や国籍の問題だけでなく、彼女が初婚でないことなど、幾多の話題も絡んでいて、世界中が注目しています。
エドワード8世の「王冠を賭けた恋」以来の激震となるのでは? などという意見もチラホラ。
とまぁ、ワイドショー的なニュースもいろいろありますが、ここは歴史サイトですから、称号に関する面倒なしきたりについて、ちょっと考えてみたいと思います。
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「プリンス」は王子で「プリンセス」は王女なのか問題
さて。白馬の王子様と身分低き娘のウェディングといえば、まず考えるのがコレ。
「王子と結婚したらプリンセスってことなの??? (*ノェノ)キャー」
そんなワクワクした疑問に対し、本家BBCでキッパリ否定されています。
◆BBCニュース - なぜ英王子の妻は「プリンセス・メガン」にならないのか
上記から重要なところを引用させていただきますね。
英王室のハリー王子と来年5月に結婚することが発表された米女優メガン・マークルさんは、「プリンセス・メガン」(Princess Meghan、メガン王女)にはならない。
情け容赦のない事実だけを言うなら、英王室の典礼に従うと、マークルさんには「王族の血」が流れていない。
愛称「ケイト」ことキャサリン・ミドルトンさんとウィリアム王子が2011年に夫婦となった時、キャサリンさんは自動的に「ウィリアム・オブ・ウェールズ王子妃殿下」(Her Royal Highness, Princess William of Wales)になった。「Princess Catherine」ではない。
このため、メガン・マークルさんの正式な称号はかなりの確率で、「ハリー・オブ・ウェールズ王子妃殿下」になるのだろう。(BBCより引用)
上記のとおり血が流れていない以上、「プリンセス」にはなれない。
単純な話ですね。
この称号問題を日本語で考察しますと、とにかく飜訳から面倒臭くなってきます。
そもそもプリンス(prince)は日本語で「王子」で、プリンセス(princess)は「王女」でよいのか?
そんな問題が出てきます。
プリンスの定義は「男性の支配者、あるいは君主の家庭における男子」です。
日本語に訳す場合、前者は「大公」、後者は「王子」になります。
プリンスを「大公」で使用する例は、プリンス・オブ・モナコことアルベール2世(画像はコチラ)がおります。
(しかし「大公」は「大公爵”Grand Duke“」の場合もあるから要注意。ややこしいちゅーねん!)
あるいは「ルクセンブルク大公」のグランド・ヂューク・オブ・ルクセンブルク・アンリ(画像はコチラ)もそうですね。
先のBBC記事にありましたように、単に英国王子と結婚してもダメ。生まれついて君主の家に生まれなければ「プリンセス」を名乗ることは難しいです。
それでもなお、結婚してからの「プリンセス」に憧れるなら、モナコ大公の妃になればよい、という答えは出ます。
確実にプリンセスになりたければ「王女」ではなくて「大公妃」を狙うのです。
実際、今のモナコ大公妃は「プリンセス・オブ・モナコ」(画像はコチラ)です。
とはいえ彼女もプリンセス・シャルレーンではなく、シャルレーン・プリンセス・オブ・モナコなんですけどね……。
実にややこしくなってきました。
ちなみに「クィーン」も英語だと同じなのに、日本語だと「女王」「王妃」等に別れる厄介な単語です。
もう、プリンスやプリンセスに憧れる現代人は、いっそのこと自称してしまえばよいんじゃないですかね。
歴史上レアな「プリンセス・オブ・ウェールズ」
先ほどのBBCニュースでも言及されていたダイアナ妃の称号「プリンセス・オブ・ウェールズ」。
王太子の妻ということでしょ、と考えてしまうのですが、これは長い歴史上なかなかレアな称号です。
多くの人がこれに歯噛みしたのだが、伯爵令嬢レイディ・ダイアナ・スペンサーは正式には決して「プリンセス・ダイアナ」ではなかったのだ。その称号は「プリンセス・オブ・ウェールズ」(皇太子妃)であって、チャールズ皇太子と離婚後は、「プリンセス・オブ・ウェールズ、ダイアナ」(Diana, Princess of Wales)という称号が与えられた。
元はウェールズ大公の妃が名乗ったこの称号。ウェールズがイングランドの支配下に置かれて以降、王太子である「プリンス・オブ・ウェールズ」の妃が名乗る儀礼称号となりました。
王太子妃としてこう名乗れるのは、現在までで僅か11名しかおりません。ちなみに、現在そう名乗ることのできるカミラ妃は称号として使用しておりません。称号として名乗ったのは10名ということになります。
ノルマンコンクエスト以降の英国王室は、当然ながらもっと多くの君主がいるわけでして。なのに王太子妃の称号がやたらと少ない……とは思いませんか。
ここでは「プリンセス・オブ・ウェールズ」が生まれない状況を考えてみます。
・王位継承権第一位が女性であり、配偶者が男性である(エリザベス2世とフィリップ殿下)
・皇太子ではなく、王弟が即位した(エリザベス2世の母、ジョージ6世妃エリザベス・ボーズ=ライアン)
・皇太子に配偶者がいないまま即位した(エドワード8世)
これを逆にして、「プリンセス・オブ・ウェールズ」が生まれる状況を考えますと。
・王位継承権第一位の者が男性
・王位継承権第一位の者が王位を継ぐ前に結婚する
・王位継承権第一位の者が王弟ではなく、現国王の子である
という三条件を満たさねばならないのです。
それって当然のことのように思えますが、この条件が揃わず「プリンセス・オブ・ウェールズ」の称号空位が二世紀続くような状況も起こりました。
ここでよくある誤解が、即位前のエリザベス2世のように「王位継承権第一位の女性王族」はプリンセス・オブ・ウェールズであるというもの。
この称号はあくまで「王太子妃」のものであって、即位前のエリザベス2世はあくまで「エリザベス王女」でした。
もっとレアだよ「プリンセス・ロイヤル」
歴史上10名しかいない「プリンセス・オブ・ウェールズ」より珍しい称号が「プリンセス・ロイヤル」です。
いかにもレアな感じがしますね。
敢えて飜訳するならば「王家で最年長のプリンセス」というところでしょうか。
この称号はもともとフランスのブルボン王家「マダム・ロワイヤル」をイングランドでも真似たものです。
歴史上最も有名な「マダム・ロワイヤル」は、ルイ16世とマリー・アントワネットの忘れ形見ことマリー・テレーズでしょう。
ちなみに「マダム・ロワイヤル」は結婚と同時に称号を失いますが、「プリンセス・ロイヤル」は生涯称号であり、亡くなるまで失われません。結婚しようが、ヴィクトリア女王のように女王として即位しようが、次に継承されないのです。
そのため、「マダム・ロワイヤル」より長くなります。
現在はエリザベス2世の娘であるアン王女が名乗っています。
なお、アン王女の母であるエリザベス2世は、叔母のメアリー王女が存命していたため、一度も名乗っていません。
なお、この称号は君主の許可によって名乗るものであるため、親子関係が悪いとか、素行不良である場合、許可されないこともありました。
「ディズニープリンセス」は本当にプリンセスなのか?
ここでちょっと考えたい問題があります。
「ディズニープリンセスは本当にプリンセスなのか?」
いい加減オマエは暇かとつっこまれそうですが、野暮を承知で突き進みます(ディズニー公式サイト)。
お姫様 | 判定 | 寸評 |
---|---|---|
白雪姫 | ○ | 生まれながらのプリンセスです |
シンデレラ | × | 国王の子である王子に嫁いだからには、イングランド形式だとプリンセスになれません |
オーロラ姫 | ○ | 生まれながらのプリンセス |
アリエル | △ | 人魚としては生まれながらのプリンセスです。国王の子である王子に嫁いだからには、イングランド形式だとプリンセスになれません |
ベル | △ | 作中の描写を見ると、父親の姿がありません。彼自身が領地を統治していたと思われます。「プリンス」というのは国王の子「王子」ではなく、「大公」ということではないでしょうか。そうであれば、配偶者のベルは大公妃=プリンセスになれます。あの時代のフランスに大公っていたっけ……というのはとりあえず置いておきましょう |
ジャスミン | ○ | 生まれながらのプリンセスです |
ラプンツェル | ○ | 生まれながらのプリンセスです |
こうした野暮な突っ込みは、本国ではムーランという「お前は軍人やん!」な人物も加入していることですし、些細な問題なのではないでしょうか(参照リンク1 参照リンク2)。
プリンセスだと思えばプリンセス!っていうことでいいですかね。
https://twitter.com/frontrowjp/status/936007016010670081
文:小檜山青
【参考文献】