『テルマエ・ロマエ』はヤマザキマリ氏によるコメディタイムスリップモノの漫画で、現地イタリア紙では
「ついにローマ帝国、日本の漫画を征服」
と報じられたことでも有名だ。
古代ローマと現代日本の入浴設備という絶対に相いれない環境が、主人公ルシウスの繰り返しタイムスリップで見事に融合していく。
実写映画化に至ってはパート2が出るほどの人気で、古代ローマ人を日本人の阿部寛が演じるという無茶な設定でありながら、なぜか非常にしっくりと来て思わず笑いを誘われる。
魅力的なのは、やはり古代ローマ人の生活が事細かに描かれた作風であろう。
有り得ないとは分かっていても、なぜだか現実味を感じさせてしまうあの世界観。
一体どこまでが史実でどこからが創作なのか?
お好きな項目に飛べる目次
お好きな項目に飛べる目次
古代ローマのテルマエ習慣
作者・ヤマザキ氏は
「古代ローマにはお風呂の遺跡が沢山あるのに現代のローマ人は入浴の習慣が無いのがもどかしい」
と語っている。
その通り、古代ローマ遺跡にはお風呂の遺跡も数多く存在する。
1巻にもある通り、タイトルにもある「テルマエ」とは公衆浴場を指す言葉で、古代ローマ人と入浴習慣は密接につながっていた。
しかし、私達がイメージする「入浴」とはかけ離れた意味合い、かつ目的を持っていたのがローマ帝国のテルマエである。
まず入浴時間。
日本人が入る銭湯は、せいぜい30分~1時間程度であろう。古代ローマでは一日の内、実に数時間をテルマエで過ごすという習慣が根付いていた。
古代ローマ人の富裕層は「平たい顔族」ならぬ「奴隷」を連れ、テルマエへ向かった。奴隷には脱衣の手伝いや飲み物の運搬といった役割が与えられていたのである。
そんなに長い時間、お湯に浸かっていたらふやけるだろう、と思うかも知れないが古代ローマのテルマエは浴場というより「公共の社交場」。
現代のサウナに近い設備や、低温の冷水プールなど、日本で言う健康ランドのような設備が考古学の発掘などから分かっている。
場所によっては、ジムのようなものが併設された設備もあり、ローマ帝国がいかに進んだ考えや技術を持っていたか……。
皇帝は民衆の支持率を上げるためテルマエ建設には意欲的で、一つ一つの都市に少なくも一つのテルマエを設置した。
テルマエには政治的利用価値もあったのだ。
さらに、地元の権力者たちはテルマエを貸切にし、民衆に無料開放し支持率を集めた。
賄賂的目的まであったとはただならぬ存在――それがテルマエである。
ルシウスは実在の人物なのか?
本作でも、テルマエ建設にあたって、ルシウスが現代日本から持ち込んだ技術が瞬く間に流行したり、皇帝との揉め事になったりといったシーンが登場する。
気になるのは、あのリアルに描かれたルシウスが、実在の人物なのかどうか。
単刀直入に言ってしまうと「創作」の人物である。
しかし、五賢帝の一人ハドリアヌス帝(西暦76-138年)など実在の人物も多く登場しており、古代ローマの歴史に興味がある人なら聞いたことのある名前がいくどとなく登場してくるだろう。
にしても、なぜここまでリアルに描けたのか?
それは作者の旦那様が古代ローマオタクという、かなり強力なパートナーがいたからこそ、底知れないリアルさが増しているのだろう。
今となってはルシウス=実在の人として読んでしまうコミックス。
「こんな人、居たんだろうな」と思わずにはいられない。
紀元前1世紀から始まったテルマエ建設
古代ローマ側の事情を知ることができるだけでなく、平たい顔族(我々日本人)と着々と交流を深めるルシウスの日本での行動も魅力の一つだ。
3巻ではついに両替に成功し、ラーメン屋を開いた挙句、現代日本人技師と交流を深めて金閣寺の発想から月見風呂を建築してしまう。
気になるのはローマの温泉事情である。
ラーメン屋があればラーメンの発祥地が変わってしまうし、日本人の心とも言うべき露天風呂も発祥が変わってしまう。
有り得ない話だが、現代のイタリアなどヨーロッパの温泉事情を見てみよう。
驚くのは古代ローマでの公衆浴場の多さである。
紀元前1世紀から始まったと言われているテルマエ建設。4世紀ごろには400のテルマエがあったと言うから驚きだ。
紀元前1世紀といえば日本人は、バリバリ弥生時代の頃じゃないですか。一生懸命に土器を作って生活し、ようやく米が作れたと喜んでいる頃です。
風呂も無ければほぼ文字も無い。それと比較してしまうと古代ローマの技術、思考は恐るべしでありましょう。
※続きは【次のページへ】をclick!