白蛇伝

世界史

白娘子と許宣の恋『白蛇伝』定番ストーリーを解説 水都百景録 杭州府

中国明代の街づくりゲーム『水都百景録』。

待望の杭州府が実装されました。

中国でも有数の名勝である西湖はじめ、絶景、美味しいお茶が楽しめる風光明媚な街です。

 

そんな杭州には、伝説のラブストーリーが残されています。

人間の美青年と、恋に落ちる美女――しかし彼女の正体はなんと白蛇!

日本の安珍清姫伝説にせよ、ギリシア神話のラミアにせよ、蛇の女性といえば禍々しいはず。

それが中国杭州では、とびきり純情なヒロインとして愛されています。

実は日本とも縁が深いそんな伝説を見てまいりましょう。

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人外美女との恋物語

荒唐無稽な神話にも、実は教訓があるもの。

中国では古くから、人外美女との恋愛ものが一ジャンルとして成立していました。

 

幽霊、狐、花の精、そして蛇。

彼女たちはとびきり艶かしく魅力的であるものの、所詮は人間ではありません。恋に落ちたら災い……あるいは儚い別れを迎えるか。

人外美女と恋をして子を授かると、特異な能力を持つこともあります。

日本の安倍晴明伝説も、母が狐です。

蛇と女性の組み合わせは、くねくねとした動きから、強い性的欲求や執着心と結び付けられる傾向がありました。日本の安珍清姫伝説も、東洋の蛇との恋物語の範疇に入るのでしょう。

中国では唐代伝奇に始まるこの伝説は、時代が降るにつれ、パターンが定まってゆきます。

ラストは杭州西湖畔の雷峰塔に閉じ込められること。名勝とマッチして、お約束とされてゆくのです。

時代がくだり、明代は商業が発達。

どんどん本が印刷され、純粋な娯楽としてのベストセラーが流通するようになります。

明代には「白話小説」が本格化しました。

文語文ではなく、より話し言葉に近い白話で書かれた小説を指します。

ちなみに日本で用いられる漢文の読み方は文語文の解読であり、白話小説を読みこなすことはできません。

より生きた言葉で書かれた白話小説に、読者は引き込まれました。

『水都百景録』では馮夢龍の新刊が出て寝不足になる……そう話す住民たちが登場します。

馮夢龍は時代を代表するベストセラー作家だったのですね。

そんな彼の代表作が『警世通言』に収録された『白娘子永鎮雷峰塔』(白娘子永(とこし)えに雷峰塔に鎮められること)になります。

そのダイジェスト版を追ってみましょう。合間に解説も加えて参ります。

 


許宣と白娘子が出会った

ときは南宋の時代、ところは麗しの杭州――。

西湖のあるこの土地は風光明媚なことで知られていました。

その杭州に許宣という22歳の青年がいました。彼は両親を早くに亡くし、薬屋を営む姉夫妻のもとで暮らしています。

ある日、店を訪れた僧侶から参拝を勧められ、許宣は寺へ向かいます。

参拝を済ませて帰ろうとしたところ、雨が降ってきました。

舟を見つけて帰ろうにもなかなかおらず、困っているところでやっと捕まえることができました。その舟が進んでいくと、雨の中で舟を待っている女性たちの姿が見えます。

許宣は見過ごせず、止めて乗せるように船頭に頼みました。

すると一人の婦人とその侍女が乗り込んできたのです。

彼女は服喪中で、白い服に白い髪飾りをつけています。

侍女は青い服を着て髪を丫頭(二つに分けたお団子ヘア、子供や侍女の定番)にし、赤い紐をつけています。

婦人は夫を亡くしていて、晴明節の墓掃除の帰りだったと語りました。彼女は白家の生まれです。ここからは“白娘子”(はくじょうし、白のご婦人)と呼びましょう。

「あなたが舟を止めてくださらなかったら難儀しましたわ。それにうっかり船賃を忘れてしまって」

「いいですよ、私が払いましょう」

許宣はそう返します。

白娘子は喜びました。

「まあうれしい。おいやでなければ私のうちにいらして、お茶でも召し上がっていきませんか? 船賃を返しますから」

そう去り際にいい、舟を降りて白娘子と侍女は去りました。

そのあと傘をさした家へ許宣が向かっていると、白娘子が声をかけてきます。

なんでも雨がひどくなったので侍女の小青に傘を取りに行かせたものの、あまりにひどいので傘に入れて欲しいとか。

そして二人で歩いていき、許宣は別れ際、白娘子に傘を渡しました。

「奥様、あなたが傘を持たれた方がよいでしょう。傘は明日、取りに行きます」

「ありがとうございます」

そして住所を告げて別れた二人。

許宣は白娘子が忘れようにも忘れられず、眠ることもできなくなってしまったのでした。

◆白娘子と小青の服装

『水都百景録』のこの二人は原点に忠実な格好をしていることがわかります。

白娘子の頭上で大きく髪を束ねたスタイルは珍しく、かつ近年はあまり人気がないのか、採用する作品は減っています。それをこの作品ではかなり忠実に再現しています。

目の色が二人とも普通の人とは異なることも、原点準拠です。

なお、白娘子は未亡人設定であることを変更された作品もあり、そうした作品では喪服ではないこともあります。

東洋では喪服は白。日本もかつてはそうであったため、幽霊は白装束が定番です。

◆女主人と侍女

中国古典では女主人と侍女のペアはおなじみです。

侍女は女主人に忠義を尽くし、恋の橋渡しをします。

『牡丹灯籠』は明代の『剪灯新話』を翻案しているため、女主人と侍女のペアが登場します。

 


傘の下で結ばれた運命

翌日、許宣が傘を返しに行くと、小青を見つけました。

彼女の案内で白娘子の家に向かうと、彼女はお茶と酒でもてなそうとしてくれます。

傘を返していただければよいと許宣は断ろうとするものの、もう支度ができていると白娘子。そして熱いまなざしでこう語りかけてきました。

「もうあなたに嘘はつけません。私は夫を亡くし、あなたに出会いました。これもきっと何かの縁でしょう。あなたもその気があり、私もある。これはもう仲人をみつけ、夫婦になりましょう。百年の夫婦になればこれほど素敵なことはないわ」

許宣は内心喜びました。その通りだ、こんな素敵な女性を妻にできたら言うことがない! 生まれてきてよかった!

でも姉夫妻の店で番頭をしている私ごときが妻なんて。

そう思い、返事もできず黙り込んでしまいます。

「どうして黙っているの?」

「お気持ちは嬉しいのですが、あの、実は、手元に結婚できるだけの持ち合わせがなくて……」

「あら、そんなこと。お金なら私が用意します」

そう白娘子は言い、白い包みを小青に持たせてきました。

許宣が開けると、なんと50両もある銀です!

驚きながらも、ありがたく銀一両を受け取り、家に戻りました。

◆傘

『水都百景録』では許宣が傘を持ち、しばしば白娘子とひとつの傘で出歩いています。

それは原典準拠ということです。

この傘はなかなかの高級品という設定。だからこそ貸し借りが生じています。

◆銀

中国文学あるある時代考証ミス。南宋時代に大量の銀は流通していません。

明代以降の作家は、自分たちが当時使っていた銀を、流通していない時代にまで出してしまいます。

滝沢馬琴が『八犬伝』に鉄砲を出すようなものとお考えください。

銀は柔らかいため、刻印が簡単です。こういう足がつく設定ですと、ともかく便利。そのため使ってしまうのです。

日本でも江戸時代の関西は、実質的に銀本位制でした。

 

許宣、冤罪事件に巻き込まれる

そしてそのあと、気が大きくなったのか、許宣は義兄・李仁と姉に酒と食事を奢りました。

姉夫妻は手元に金がない弟がどうしてこんなことができるのかと不思議に思っています。

「義兄さん、姉さん、実は私、結婚します! 今までお世話になりました」

唐突な展開に唖然とする姉夫妻。

許宣は結婚を認めてもらえず、姉に相談します。実は義兄は、結婚準備金をたかられるのではないかと警戒しておりまして。

そこで許宣は、今まで独立のためにへそくりを貯めていたと姉を説得し、安心させたのでした。

ところが……李仁があわてて帰宅するとこう宣言したのです。

「まずいことになったぞ、このままじゃ一家皆殺しだ!」

なんでも有力者の家から銀50両が忽然と消えたとか。

一体どういうことかと大騒ぎで捜索する中、その銀に刻まれた符号の布告が出ているのです。

その銀の符号と、この前許宣が出してきた銀は一致! かくして李仁が密告し、許宣は逮捕されてしまいました。

引っ立てられていった許宣は、お役人に弁明します。

「おい貴様、どうしてあんなに厳重にしまってあった銀を盗めたんだ、白状しろ! 貴様は妖術使いか何かか?」

「ち、ち、ちがいます! 私はその、白娘子に渡された銀を使ったまでで……」

「誰だ、その白娘子というのは?」

許宣が住所を言うと、そこへ捕手たちが向かっていきす。

しかし聞き込みをしても、近所のものはそんな女は知らないと言うばかり。

そんな中一人の住民がこう言います。

「さてねえ、白娘子なんて女は知りませんが。そういや、そこに一家全員が流行病で亡くなった家があって、幽霊屋敷と評判でね。誰も住もうとしていないんですよ」

「うむぅ、怪しい話よ」

捕手たちは封印を破り、その幽霊屋敷に踏み込みます。

すると生臭い風が吹いてきます。埃まみれで人が到底住んでいるとは思えない中、寝台の上に白い服を着た美女がいるではありませんか。

しかし捕手たちはどうしても進めません。

中でも勇敢な王という者がこう言いました。

「俺に酒を持って来い、犠牲になるのは俺だけでいいんだ! いざっ!」

酒を持って来させグイッと煽ると、王は立ち向かってゆき、空っぽの酒瓶を投げつけました。

「これでも喰らえ!」

すると雷鳴が鳴り響き、女は消え、あとには49両の銀がありました。

捕手たちはこれを持ち帰ると、妖怪騒動ということでおさまりました。

許宣は、刺青は免れたものの、鞭打ちおよび労役を課されました。義兄の李仁は許宣を密告したことに後ろめたさを覚え、旅費を許宣に渡しました。

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