白蛇伝

世界史

白娘子と許宣の恋『白蛇伝』定番ストーリーを解説 水都百景録 杭州府

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法海に引き裂かれる夫婦の契り

かくして白娘子と別れた許宣。

そんなある日、姉夫妻の家へ立ち寄ると、義兄がこう言ってきました。

「義弟よ、お前の妻とやらがきている。なんでも寺の参拝に行ったきりで戻らないらしいな。いつの間に結婚したんだ? 侍女と二日も待っているぞ」

あわわわ……そう許宣が怯えていると、白娘子がいるではないですか!

許宣は命乞いをします。

「どうかお許しください、命ばかりは、命ばかりは……」

「何を言うの? 私たちは夫婦でしょ。ずっとそばにいようと誓ったのになぜ? 私の言うことを聞いて。さもなけば大波に巻き込まれるかもしれなくてよ……」

「ごめんなさい! 許して!」

小青も付け加えてきます。

「奥様はあなたがとても素敵って思っているし、お似合いなのに。愛情深いとわかっているのに。どうして疑うのですか?」

「助けてぇー!」

こうして叫んでも夫婦喧嘩と思われてしまい、蛇取り名人に頼んでもうまくいかず、最後の望みはあの法海のみ。

浄慈寺に向かうものの法海はおらず、いっそ入水しようとする許宣を、やってきて法海が止めたのでした。

「和尚様、あの妖怪から守ってください!」

法海はそれを聞くと、鉢を渡してこう告げました。

「これを妖怪にかぶせて押さえつけるのだ」

許宣は家に戻ると、そっと白娘子に近づき、鉢をかぶせます。

すると鉢の下で女の姿は消え、声が聞こえてきます。

「どうして、どうしてなの! 私たちは夫婦でしょ、助けて!」

しかし家に乗り込んできた法海が何かを唱えると、白娘子は蛇の姿になってしまいます。

「妖怪め、何の業でこんなことをした!」

「和尚様、私は、西湖で暮らす蛇。小青と暮らしていたところ、思いがけず許宣様に出会い恋をして……気持ちをおさえられなくて! でも私は何も殺していません! どうかご慈悲を!」

「黙れ妖怪め。小青はなんだ?」

「あれは千年生きて力を得た魚です。私の仲間だけど、あの子は何も楽しいことなんてなかった。許してあげて、あの子だけでも許して!」

「ええい魚の化け物めが!」

法海は容赦せず、風を吹かせるとポトリと青魚が落ちてきました。

法海は蛇と魚を鉢に閉じ込め、雷峰寺に七層の塔を築き、封印したのでした。

よいかみなさん、美女に惑わされてはならんぞ。色香に迷うことなかれ――そう後世への戒めとしたのです。

許宣は法海和尚のもとで出家し、迷いを絶ったのでした。

ー完ー

◆小青の正体

小青は作品により、青魚か、青蛇か、設定に違いがあります。

『水都百景録』の紹介では泳いでいることしかわからず、どちらとも解釈できます。

ただ、髪飾りは蛇の形をしています。

 


白娘子に皆が惚れた

前述の通り、白蛇美女との恋愛ものは定番でした。

それを馮夢龍がいくつかの変更したことよって、読者の読後感はハッキリとしてきました。

「白娘子最高! こんな白娘子を捨てる許宣は最低!」

「法海はろくでもない、まったく恋の邪魔をするんじゃないよ!」

「白娘子が復活するなら、いっそ雷峰塔が崩れてもいいのになぁ〜」

そうヒロインに萌えるようになったのです。

白娘子は決して悪意ありきで許宣に近づいたわけでもない。切々と恋心と夫婦愛を訴えるだけ。おまけにキャラクターとしても秀逸で魅力がある。

道士を宙吊りにしたり。白蛇の姿に戻ってスケベオヤジを撃退したりするところは爽快じゃないか!

そうして大勢が白娘子に惚れ込んだのです。

その熱狂を受け、作家たちが、ありとあらゆるメディアミックス展開をしてゆきます。

当時ならば演劇です。

脚本化される過程で、さまざまな設定が付け加えられたり変更されました。

・名前は「白素貞」となる

・白娘子は悪意どころか恩返しのために許宣と出会った設定となる

・許宣はとても善良で、白娘子にふさわしい顔以外も美しい青年になってゆく。薬問屋の番頭から、優秀な医者設定が定番に

・小青は主人思いの活発な侍女となる。白娘子を「姉さま」と慕う妹度があがる

・小青は魚よりも青蛇設定が定番化する

・人外ストーカー退治をした法海は、恋を邪魔する無粋な悪役に……

・やはり妖術合戦で盛り上げたい! 白娘子vs法海バトルは定番化してゆく

・夫婦愛最高、もうハッピーエンドでいいよね!

『水都百景録』の設定は、こうした伝説化された物語が反映されています。

ただ、あまりに発展しすぎたせいか。

ターニングポイントである『白娘子、永えに雷峰塔に鎮められること』原典が中国では失われてしまうことに。なんと1920年代になってから、日本で再発見されたのでした。

 


日本人もずっと白娘子が好きだった

馮夢龍の著作は日本でも大人気。

だからこそ残っていたのです。

「うーん、この唐の国の蛇の話はいい、すごくいいねえ!」

江戸時代後期、上田秋成は『白娘子、永えに雷峰塔に鎮められること』を元にして、『雨月物語』中の『蛇性の淫』を書きました。

日本にも安珍清姫伝説のような蛇の美女伝説があります。馴染みもあるし、斬新な設定であるからこそ、翻案されたのです。

かくして日本人が「中国の恋愛もの作りたいなあ」となると、定番になったのか、白娘子は映像の歴史においても大きな存在感を見せています。

1956年、香港のショウ・ブラザーズと共同制作した映画『白夫人の妖恋』があります。

そして1958年、最も重要な作品が作られます。日本初のフルカラーアニメ映画『白蛇伝』です。

若き日の宮崎駿氏は、この映画の白娘子を見て恋に落ちたとか。

日本アニメの草創期を代表する作品ですあり、2018年の朝ドラ『なつぞら』では、この作品をモデルとした『白蛇姫』の制作過程が劇中で描かれました。

あるいは『鬼滅の刃』の蛇柱・伊黒小芭内(いぐろおばない)の純愛に感動した方も多いことでしょう。

伊黒小芭内(鬼滅の刃・蛇柱)
伊黒小芭内が突きつける「蛇の純愛」が物語に深みを与えていた 鬼滅の刃蛇柱

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蛇の純愛は東洋の伝統です。

香港映画や華流ドラマでも定番の題材であり、中国の伝説では知名度が高いお話です。

ただ面白いだけではなく、日本でもゆかりの深いこの伝説。

『水都百景録』を楽しみ、ファンアートやコスプレを楽しむことで、また意義深い日中交流が生まれることでしょう。

2020年代のゲームで昔から伝統ある日中文化交流を楽しむ。そんな粋な楽しみ方をしてゆきましょう。

 


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
井波律子『中国奇想小説集』(→amazon
井波律子『中国のグロテスク・リアリズム』(→amazon
竹田晃『中国小説史入門』(→amazon

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