白蛇伝

世界史

白娘子と許宣の恋『白蛇伝』定番ストーリーを解説 水都百景録 杭州府

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蘇州で再会、夫婦の契りを交わす

労役の流刑先は蘇州でした。

許宣は理不尽な思いに釈然としないものの、王主人という人の元に下宿し、半年が経過しました。

すると許宣の住む王氏の家に、小青がやってきました。

「ここに臨安からきた許宣さまが住んでいると聞いて訪ねました」

許宣が驚いて出ていくと、そこにはあの白娘子が輿(こし)に座っているではありませんか。

「おい、お前が大金を盗んだせいでこんなことになったんだぞ!」

「私を責めないで。あなたに説明したいの……まずはあなたのお家で話しましょう」

許宣は「妖怪め、入るな!」と王主人の家に入るのを止めようとするものの、白娘子はこう返します。

「私のどこが妖怪なの? ちゃんと服に縫い目もあるし、日にあたれば影もあるし。夫に先立たれているから世間から馬鹿にされてばかり。どうしてわかってくれないの?」

するとここで、下宿先の王主人が「まあまあ、あがって話しなさいよ」と言ってきます。

彼は親切でした。そして家の中で、許宣がこれまでの不思議なことを糾明しても、白娘子はハキハキと応じる。

そして堂々と、釈明してわかってもらえないなら前世の縁がないからこれまでと語るのでした。

王主人はすっかり彼女に同情的。こんなに長旅までしてきたのだから泊まっていくよう勧めてきます。

しかし白娘子は誤解を解くためだけに来たと堂々と返すのです。

これじゃかえって許宣が聞き分けがないようでして。

白娘子は賢いのです。王主人の妻と数日間ですっかりなかよくなり、許宣のはしごを外しにかかります。

王主人の妻は言いました。

「もう二人とも結婚しなさい。ともに白髪になるまで添い遂げたらいいじゃないの。素敵なことよ」

こうして許宣は、運命に引きずられるように白娘子と結婚しました。

そして披露宴がお開きになると、いよいよ夫婦の時間へ。

白娘子は絶世の美女で、とびきり艶かしくて、まるで仙女のようでした。

「嗚呼……もっと彼女と早く出会っていたらよかった」

許宣がそう幸せを噛み締めていると、鶏の鳴き声がして、東の空が明るくなり始めたのでした。

二人はそれはもう仲睦まじく、ぴったりとくっついて離れず、お似合いの夫妻として甘い日々を過ごしたのでした。

◆夫婦の契り

なんだよ、許宣、色仕掛けに参ったんか!

そう突っ込みたくなりますが、それはさておき。

白娘子はただひたすら、許宣の愛が目的と証明されたけですね。

もしも白娘子の目的が精気吸収あたりならば、枕を交わした時点で許宣は衰弱し、最悪の場合は腹上死を遂げています。

ラブラブで元気な以上、そういう人外美女定番の動機ではありません。

この前に何があろうと、この後どうなろうと、この愛しあった歳月は伝説です。

 


許宣、またも事件に巻き込まれる

しかし、愛し合う二人だけで世界は回っていません。

やがて春がきて、人々は寺参りをする季節となりまして。

許宣が寺参りをすると、通りすがりの道士に「何か取り憑かれていますぞ、このお札を使ってみなさい」と言われてしまいました。

白娘子は「なんですって!」と激怒。その道士の元へ向かってゆき「私のどこが妖怪なのか!」と問い詰めます。

野次馬もこうだ。

「おいおい、こんな綺麗なお姉さんが妖怪のわけねえだろ!」

「ふてぇインチキ道士がよ!」

喝采を浴びた白娘子は、ここで手品を見せるといいます。なんとそのまま不思議な力で道士を宙吊りにしてしまうのです。

「嘘をついた罰よ」

「お助けてくだされーっ!」

「なんならこのまま一年ぐらい宙吊りにしておきたいけど、まあこのへんにしておくか」

道士はあわてるばかり。やっと地面におろされた道士は、ただただ逃げ出すばかりでした。

白娘子の手品のことを誰しもこの時は怪しく思わなかったのですが……。

◆道士

道教の修行者のこと。

『水都百景録』では羅素月が道姑(古典では女性道士はこう呼ばれることが多い)です。

道教はシャーマニズムに強く、妖怪退治はお手のもの。日本でもキョンシー退治でおなじみですね。

最近人気急上昇中の「仙侠」ものは道士のような術を使う人物が主人公となります。

日本で近い存在は陰陽師、神主、巫女です。

 


全身盗品でコーディネートしていた許宣

そして時は4月8日、お釈迦様の誕生日。甘茶をかける人々をみて、許宣は寺に参拝することとします。

白娘子は乗り気でないものの、許宣のために身支度をしてあげます。とびきりおしゃれな服とアクセサリーで飾って、扇子を持って、許宣は出かけて行きました。

「いい男だなあ!」

「すごいイケメンだよ」

道ゆく人がそう噂する中、歩いてゆく許宣。

するとそこで噂が耳に入ります。

「おい、聞いたか。昨日泥棒がでて、周さまの家に入ってさ。金だの装飾品が消えちまったってよ。犯人は誰かわからないらしいぜ」

許宣は聞き流し、焼香を済ませ戻ろうとすると、突如、捕手がやってきます。

「おいそこのお前、その装飾品はどこで手に入れた?」

なんと、許宣の身につけていた品は盗品だったのです。

びっくりして言われるがままに扇子を渡すと、ストラップの特徴が盗品と一致しました。

「おい貴様、よくも周さまのものを盗んだな!」

「ち、ちがいます、私は無実です!」

許宣はあわてて訴えるも、捕手はそんなことは信じません。

「はいはい、言い分は役所で聞きましょうか。盗んだもので全身コーディネートしておいて何を言っているんだ!」

許宣は事態を飲み込み、おとなしく捕まりました。そしてそれ以外の盗品は知らない、妻が手配したと白状します。

かくして白娘子逮捕となりますが、またも彼女は家におりません。

なんでも留守をしていた王主人がいうには、小青と夫の許宣を寺に探しに行ったきりだとか。

許宣は逮捕されたものの、親切な王主人が保釈金を支払い、出獄しました。

しかもなんと、盗まれた現金と宝石類は、盗まれた周家に戻っていたというのです。

白娘子は消えたまま、許宣は妖怪を見逃した罰を受けてしまいます。こうして許宣は杭州に戻ることになったのでした。

姉夫妻の家ではなく下宿を見つけ、そこで暮らすことになりました。

◆扇子

「笏」(しゃく・本来はこつ)という道具があります。

『水都百景録』でも上奏イベントで集めるアイテムとして登場。

中国の官僚が手にした細長い板状のもので、イベントの手順を書いたカンニングペーパーを貼り付ける用途がありました。

これが日本に伝わった際に、板を複数貼り付けて折りたたむ形式にすることが発明されます。

「扇子」です。

「へえ〜、これで仰いだら日本の風がくるかも!」

北宋の時代あたりから輸入され、持て囃され始めると、主に男性のファッションアイテムとしても定番になりました。

イケてる男子ならマストアイテム! そんな位置づけです。

男女ともに持つとはいえ、女性は団扇、男性は扇子という傾向はあります。

『水都百景録』でも団扇を持つ若い女性がいます。おしゃれ男子代表の唐伯虎も扇子がポイントです。呉黎が手にしている扇子には、何か思い出があるようですよ。

 

白娘子の正体は?

そしてある日、飲み会帰りの許宣が歩いていると、火熨斗(ひのし・衣服の皺をとる道具・いわばアイロンのこと)の灰が頭に振ってきます。

「おい! 何をする」

「すみません、うっかりしていました」

そう怒鳴ると、一人の女が慌てておりてきました。

そこにいたのはなんと白娘子! 酒の酔いも吹っ飛び、許宣は怒ります。

「お前はどのツラさげて! お前のせいで二度も裁判沙汰に巻き込まれたんだぞ!」

そうして白娘子を捕まえると、彼女はにっこり笑います。

「一夜の夫婦でも、百夜の恩。おねがい、私の言うことを聞いて。あの服は亡き夫のもの。恩を仇でかえしてごめんなさい。こんなことでいがみ合うなんて」

そのあと許宣があの事件のことを問い詰めても、白娘子はキッパリと説明し、謝るばかり。

そして夫婦の契りをこんこんと言い聞かせてきます。

許宣はだんだんと気を許してしまい、結局その晩は白娘子の家の二階に泊まってしまったのです。

そしてなんだかんだで元の鞘に戻り、許宣の下宿先に白娘子と小青は引っ越してきたのでした。

「こちらが蘇州で娶った妻です」

「はじめまして、よろしくお願いします」

「まあ素敵! お似合いね」

ご近所さんにも挨拶完了。

さて、そうして暮らす夫婦ですが。あるとき生薬を売りの許宣の上司が、白娘子によからぬことを考えました。

「あんな小僧には勿体無い、色気のあるええ女子やのぉ〜。ウヒヒ」

そう夜這いをかけたものの、寝室にいたのは真っ白な大蛇! チロチロと真っ赤な舌を出す姿に腰を抜かします。

そんな事件はあるものの、穏やかな日々が過ぎていきます。

そして7月7日――許宣は龍王の誕生日だからと、近所の人に誘われ、金山寺に参拝したのでした。

白娘子は暗い顔をしていました。そして条件をつけてきます。

「参拝してもいいけど、方丈(住職の部屋)には入らないで。和尚とも話してはダメよ」

「わかったよ、行ってきます」

気づかず寺に向かう許宣です。金山寺には法海という和尚がいました。

法海は許宣をみると、こう言います。

「あの若者をここへ早く連れて来い!」

すると突然風と雨が強くなり、許宣は見えなくなりました。

参拝客も舟で帰れず難儀しているところへ、ものすごい速さで一艘の舟がやってきて、許宣を呼ぶ声がします。

「あなた、早く帰ってきて!」

そこには白娘子と小青がいたのです。

「むむっ、おのれ不埒な妖怪めが!」

法海が目をいからせ怒鳴ると、舟はひっくり返り、白娘子と小青は水に飛び込みます。その様子を見ていた許宣は怯え、法海にすがりつきます。

「やっぱり妻は妖怪なのか……和尚様、どうかこの命をお救いください!」

許宣の説明を聞いた法海は、西湖の南にある浄慈寺(じんずじ)に来るよう告げたのでした。

◆和尚

道士が妖怪退治の定番ではあるものの、仏僧もできます。このあたりは日本と同じです。

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