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【捕鯨船エセックス号】
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悪夢の漂流
このときボートに乗ってエセックス号から離れていた乗組員たちは、戻ってきて愕然としました。
本来、船がいるはずの海に、何も見えないのです。
まもなく彼らは、8人の仲間たちを乗せたボートに遭遇します。
「一体何があったんだ」
「鯨にやられて……転覆しました」
船長以下乗組員は、転覆したエセックス号を見て愕然としました。
残されたのは、僅かな食料。
三艘の手こぎボート。
そして20名の乗組員。
ポラード船長は、現在地が南米大陸の西、3700キロであると推定します。
「64日間ほど辛抱すれば、きっと陸地にたどり着けるだろう」
逆算すると、一日の食料はひとかけらほどのパンとビスケット、そして飲み物はコップ一杯ほどの水のみ。
それでも耐え抜けると、ポラード船長は信じるしかありませんでした。
しかし、これはあくまで順調に風に乗り、航海できたら、の話。
一ヶ月もすると、食糧配給は半減してしまいます。
途中で運良く捕まえた亀を食べることもあったとはいえ、そう幸運が続くわけもありませんでした。
飢餓の極限
極度の飢えと渇き、襲い来る嵐やスコールの中、彼らは苦しみ抜きました。
ナトリウムにより皮膚は腫れ上がり、下痢が続きます。
幻覚を見て狂気に陥る者もいました。
互いに食料を盗み合うのではないかという疑心暗鬼が、心を蝕みます。
1821年1月10日、二等航海士のジョイが死亡。それから6名が立て続けに死亡しました。
彼らの死骸はボートから投げ落とされました。水葬です。
1月28日、激しいスコールの中、ボートは離ればなれになってしまいます。
そのうち一艘の驚愕の運命は、のちに明らかになりました。
1825年、英国海軍の船長があることに気がつきます。
彼は4体の骸骨を乗せ、崩れそうなボートを見かけたことを思い出しました。
『あれはもしかして、エセックス号の乗組員のなれの果てではないだろうか……』
四人の乗組員を乗せたボートは彷徨った挙げ句、食料が尽きて全員が死亡し、漂流していたと思われます。
全員が死亡したこのボート上で何があったのか、それは不明です……。
悲痛な決断
残りの一艘は、はぐれた時点で一等航海士チェイスらが乗り込んでいました。
幸運なことに、漂流中に無人島へ立ち寄り、水と食料を補給。
この島に残ることを選び、消息を絶った乗組員も3名います。
無人島を離れたとき、乗組員は5名にまで減っていました。
そして1月18日に一人死亡。このときは遺体を水葬します。
しかし2月8日に、もう一人が錯乱の末に亡くなった際、生存者たちは食料がないことに気づきます。
彼らは話し合いを重ね、ついにチェイスは極限の決断を下しました。
「遺体を保存し、食べるしかないと思う。生存者同士を殺すよりはましだろう」
誰も反対しませんでした。
彼らは遺体を解体し、一部は海に流し、別の一部は干し肉にしました。
錯乱し、苦しみ抜きながら、それでも漂流していた3名。
2月18日、エセックス号沈没から89日目、彼らは信じがたいものを目にしました。
「帆だ……帆が見えるぞ!」
3名は持てる限りの力をふりしぼり、イギリス船籍の商船に追いつきました。ボートから引き揚げられた彼らに、相手が尋ねます。
「一体きみたちは何者なんだ?」
チェイスはやっと答えました。
「エセックス号……捕鯨船……ナンタケット」
長い地獄が、やっと終わりました。
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