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【英国のトンデモ兵器】
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グレート・パンジャンドラム 1943年
ミシンについているボビンを巨大にしたようなもの。あるいは間に炸薬を挟み込んだ巨大なマカロン。
それを搭載したモーターでふっとばし、最大時速100キロで壁に激突させるというしろものです。
揚陸部隊が敵の防御壁を突破するための兵器です。
ためしにボビンでもマカロンでも、机の上で転がしてみてください。
何かあればすぐ横倒しになるでしょう?
デコボコがある地面ならなおさら安定しません。
パンジャンドラムにはジャイロスコープのような気の利いた、安定を保つものはついてないときています。
しかも取り付けた炸弾はすぐに落っこちます。ロケットが外れることもあります。
要するにマトモじゃないのは、動画を見るとよくわかります。
これのどこがグレートなのでしょうか。
計画段階で制御ができずに失敗しましたが、そもそも設計段階で何かひっかからなかったのかとか、突っ込みどころであふれています。
その突っ込みどころの多さ、特徴的な名称ゆえか、駄作兵器界隈のアイドルの座を射止め、何故か一部の層から愛されています。
だから、これのどこがグレートなんですか!!
HMSエクスカリバー&HMSエクスプローラー 1954年
過酸化水素。オキシドールという名前で消毒薬として使用されたり、髪のブリーチ剤に使用されたりする成分です。
少量であればともかく多量であると爆発を起こしやすく、取り扱いには注意を要します。
よりにもよってそんなものを潜水艦の動力とする実験がかつて行われていました。
接収したUボートのプロトタイプを基にして作られた、過酸化水素推進実験艦が、HMSエクスカリバーとHMSエクスプローラーです。
海の底で、密室で、過酸化水素という劇物を扱うとなると嫌な予感しかしません。
案の定、実験は失敗続きで、HMSエクスプローラー初代艦長は「もうこんな艦乗れるか!」と航行拒否をしたほど。速度はかなりのものではあったとはいえ、爆発事故をよく起こしました。
更に過酸化水素はブリーチ剤に使われるものですから、臭いわけです。
しかも有害です。臭くて有害なガスが充満するうえに爆発する。乗員にとってはたまったものではありません。
そしてエクスカリバー(アーサー王の名剣の銘)は、次第に「エクスクルシエーター(拷問者)」、エクスプローラー(探険者)は「エクスプローダー(起爆装置)」と呼ばれるハメに。乗員の苦しみがよくわかります……。
結局、実験段階で開発はとりやめになり、時代は原子力潜水艦へとうつっていったのでした。
イグ・ノーベル賞受賞常連国もイギリスだそうです
当初は世界のトンデモ兵器で記事を書こうかと思っていたのですが、途中からイギリスに絞った方がいいと思い、こうなりました。
トンデモ兵器を作り上げたのはイギリスだけではありません。
苦しい懐事情でアイデア頼りになった結果、おかしなものができあがります。
逆に資金が潤沢過ぎても、余裕があるからか変な物でも作り上げてしまいます。
企画段階では素晴らしいと思えても作ってみたら駄目だった。そういうこともあります。
イギリスがこの分野で突出しているのは「思いつく人がいるかもしれないが、思いついた時点で駄目だと気づきそうなものを作ってしまう」という点だと思います。
粘着爆弾にせよ、パンジャンドラムにせよ、なぜ企画段階で誰も止めなかったのか。不思議でなりません。
世界史中で最も早く産業革命を成し遂げ、発明分野において一歩先を歩んできたイギリス。
優れた発明だけではなく、トンデモ発明を作り出している点も、密かなチャームポイントと言えるかもしれません。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
マーティン J ドアティ/松崎豊一『図説 世界の「最悪」兵器大全』(→amazon)