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【産業革命の闇】
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それでも救貧院へ行くよりはマシだ
ロンドンで一番早く起きるのは、長時間労働をしなければならない貧しい労働者でした。
朝の光の中、貧しい労働者たちがぞろぞろと職場へ。
市中には、物乞い、ゴミ拾い、ドブさらい、煙草の吸い殻拾いをして暮らす人々が数多くいました。馬糞、人糞、犬の糞は肥料として売ることができるため、こうしたものを拾う人も……。
干潮時のテムズ川には「どぶさらい」の子供たちが集まります。川底からまだ使えそうなものを拾い売りさばくのです。
溺死体があればラッキー。ポケットの中身をあさることもできますし、遺体発見の謝礼をもらうことができました。
さらに、溺れていたので助けようとしたと主張すれば、報奨金も請求できます。
ロンドンの貧困家庭に生まれた子供たちは、今でいう小学生くらいになれば弟妹に押し出されるかたちで、働きに出なければ食いつなぐことができませんでした。
十歳にでもなれば一人前の労働者。どぶさらいやゴミ拾いはこうした子供にとっては貴重な収入源だったのです。
シャーロック・ホームズシリーズに登場するストリートチルドレンの一団「ベイカー街遊撃隊」は、こうした子供たちを構成員としています。
彼らがうろついていても誰も気に掛ける人はおりませんし、子供たちにとってみれば情報だけでまとまった金をもらえるのですから、どぶさらいよりはるかに魅力的な仕事であったことでしょう。
こうした最低限の暮らしすら維持できない人々は、名前を聞くだけでもぞっとする救貧院送りになりました。
ヴィクトリア朝の人々にとっては病院も救貧院も監獄もさして変わらない、まがまがしい施設でした。
「救貧院に入るくらいならどぶさらいや糞拾いをした方がまし!」
当時の人はそう考えておりました(詳細は以下の記事にございます)。
人がゴミのようだ!った英国「救貧法」地獄のブラック労働とは?
続きを見る
現代的な都市問題が集中していた
世界初の産業革命を成し遂げた国の首都・ロンドン。
そこは現代社会が直面する「都市問題」が最初に起きた場所でもありました。
産業発展にともなう公害。
地方から都市に人口が流出し集中する過密化。
犯罪の温床となる貧民街。
貧困。
交通量増加による事故の発生。
労働者が直面する長時間労働。
人々の格差。
ロンドンは確かに人を喰らう獣でした。
ヴィクトリア女王の華麗な宮廷生活を見ていると、なかなか想像できないような一面がロンドンにはありました。
綺麗なドレスにうっとりするのも楽しいものですが、ドラマでアルバートが指摘したような厳しい現実があったことも、忘れないでいたいものです。
なお、以下の記事は、悲惨な暮らしを送っていたロンドン庶民たちを「アルコール面」から考察した記事です。よろしければ併せてご覧ください。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
マイケル・パターソン/山本史郎監訳『図説ディケンズのロンドン案内」』(→amazon)
アレックス・ワーナー/トニー・ウィリアムズ/ロンドン博物館/松尾恭子『写真で見る ヴィクトリア朝ロンドンの都市と生活』(→amazon)