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【コンゴ自由国】
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そんな時、ある司令官はこう言います。
「手首だと、女子供のものが混ざっていてもわからないだろう」
その後、司令官の元には男性の生殖器がびっしりと詰まった籠が届いたとか……。
さすがにキツい。効率を求めるあまり非効率になると言いますか、言葉を失うような所業です。
レオポルド二世は「あんまり酷いことするなよ」と一応は言っていたようです。
しかし、自分の無茶ぶりと貪欲さが刃となって、現地民を苦しめていることは無視を決め込んだわけです。
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「闇の奥」の実態がついに明かされた
1902年、ジョゼフ・コンラッドは『闇の奥』という小説を発表しました。
コンゴで船員として働いた作者の体験を反映したものです。
しかし、当時の人々は「想像力が素晴らしいねえ」と思うだけで、まさか現実が反映されているとは考えもしませんでした。
コンゴの悲惨な実態を探ろうとする者はいましたが、周囲は「大げさだなあ」と誰に相手にしない状態が続きます。
現実は、人々の想像力を軽く上回っていたのでした。
これとほぼ同時の1903年、エドマンド・モレルがある新聞を創設しました。
アフリカ貿易をしていた経験から、コンゴ貿易の不自然さに気づき、それを告発しようとしたのです。
中央アフリカのイギリス領事ロジャー・ケースメントもコンゴの実態を調査し、残虐行為は事実だと確信します。
「恥を知れ、懺悔しろ! けしからん制度だ!」
ケースメントは怒りをこめて、コンゴの残虐行為を記録しました。
そして1904年、ことの発端だったスタンリーが死去。
「レオポルド二世も、さすがにそこまで無茶苦茶はしていないだろう」と思い込んでいた世論がにわかに揺らぎ始めます。
この同年、モレルとケースメントは「コンゴ改革協会」を設立しました。そ
して二人の告発によりコンゴでの残酷行為を知ったジャーナリストや作家たちが、非難の声を上げ始めるのです。
アーサー・コナン・ドイル、マーク・トウェインもその中にいました。
レオポルド二世はこれに反論し、ジャーナリズムに対して露骨な圧力をかけ初めます。
記者たちのプライベートスキャンダルを見つけ出しては「コンゴについて書くなら、お前の秘密をバラすぞ」と脅しをかけたのです。
さらにレオポルド二世はロビー活動のために弁護士を雇うのですが、気に入らず解雇しようとします。
と、これがついに虎の尾となりました。
レオポルド二世の画策を知った弁護士側は怒り、彼からの手紙を新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストに売却したのです。
かくしてベルギー国王の恥ずべき残虐行為は世界中に知れ渡り、大炎上したのでした。
棺に唾……国民に憎まれた最低最悪の王
1908年、レオポルド二世はついにコンゴ自由国を手放し、ベルギー議会に高額で売却。
翌年、彼はそのまま崩御しますが、最低最悪の国王として国民に憎まれ、棺には唾が吐きかけられました。
ベルギーにとってもコンゴの維持管理は難題を抱えたものであり、長く禍根を残すことになります。
しかし、ベルギーよりもコンゴの人々にとっての方が、レオポルド二世のもたらした悪影響が大きかったことは言うまでもありません。
外から持ち込まれた天然痘は、過酷な労働で飢えて体力が低下した人々の命を容赦なく奪いました。残酷過ぎる虐待の結果、衰弱死する人もいました。
かくして「コンゴ自由国」の建国前と比べ、その人口は2千万から1千万に半減していたのです。その間、わずか20年。
コンゴ自由国のあまりに悲惨な実態を見ていると、失敗の本質が見えてくる気がします。
これはレオポルド二世個人の邪悪さではなく、複合的要因が絡んでいます。
利益を出すためならば、現地民やそこで働く人をいくらでも搾取して構わないという発想が悲劇を生みました。
アフリカ大陸から植民地は消え去っても、資源を搾取しようとする企業はまだまだあります。
ダイヤモンド、チョコレート、象牙……。
そうした資源収奪への国際的非難は、現在も続いています。
さらに核兵器が開発されると、新たなコンゴ産資源もこの中に加わりました。
ウランです。
1945年8月――広島と長崎に投下した原子爆弾の減量として、コンゴ産のウランが用いられました。
植民地支配による資源の収奪が、世界大戦の犠牲者を膨大なものとし、植民地の民衆のみならず、地球の裏側にまで惨禍をもたらしたのです。
レオポルド二世の旺盛な商魂に、幕臣として欧州を訪れていた渋沢栄一も感銘を受けました。
しかし、それも歯止めがなければ危険です。
世界大戦の背景には、資源の収奪もあったと指摘されています。
際限なき資本主義が加熱する限り、レオポルド二世の亡霊は彷徨い続けるのかもしれません。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
マシューホワイト/住友進『殺戮の世界史: 人類が犯した100の大罪』(→amazon)