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【ポーリーヌ】
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「悪疫の地」サン=ドマングで夫を失う
熱帯の地に着いたルクレールは、厳しい態度で反乱軍に挑みます。
一方でルスを守るポーリーヌは、淫らな行為にふけっていたという噂が流れます。
同性愛、夫の部下との情事、比べるために白人と黒人の愛人両方を試す、乱交パーティ等など。ナポレオンも心配して「夫にやきもちを焼かせるようなことをしてはいけないよ」と手紙で諫めています。
ただしこうした噂は誇張されていると思われます。
イギリスの反フランス・ナポレオン一族キャンペーンの一環とも考えられるからです。当時、熱帯の気候は人を淫らにするとも考えられていましたので、それもあるでしょう。
ただしポーリーヌが熱帯での暮らしを楽しんでいたのは確かなようです。
現地住民と開いたダンスパーティは大好評でした。
程なくして、ルクレールは反乱軍を鎮圧します。
しかし、待っていたのは反乱軍の将・トゥーサンよりも恐ろしい脅威でした。
黄熱病です。
日本人にとっては野口英世の命を奪ったものとして知られる、この恐ろしい病が、フランス軍とその家族を襲撃。ポーリーヌとディミルドまでも一時罹患するも、無事回復しました。
しかし大半の人々は病に倒れると命まで奪われてしまうのです。
結果、この疫病の大流行でフランス軍は壊滅的な打撃を受けました。
そして最愛の夫ルクレールもこの病に斃れ、僅か30という若さで帰らぬ人となったのです。
ポーリーヌは栗色の豊かな髪を切り、黒い喪服に身を包みました。
「永遠にあなたを愛し続けます……」
彼女はそう亡き夫に誓いました。
そして残された我が子と防腐処理を施された夫の遺体とともに、母国仏フランスに戻ることになるのでした。
黒いヴェールに包まれたフランス一の美女
黒いヴェールに包まれたフランス一の美女――。
まだ22才にして未亡人となったポーリーヌを人々はそう噂しました。
そんなポーリーヌの周囲には、夫を支えた勇敢な女性という声もあれば、南の国で乱交に耽った淫らな美女という声も。ナポレオンはそんな妹を、ゴシップと誘惑から守らねばならない、と考えます。
が、まだ22才で、しかも遊び好き。
美貌を賞賛されていなければ気が済まない、そんな彼女がいつまでも喪に服しているわけもありません。
ルクレールへの永遠の愛とは何だったのか……。まぁ、仕方のないことでしょう。
ナポレオンはイタリア貴族からポーリーヌの再婚相手を物色しました。
とりあえず問題がなさそうだと白羽の矢が立ったのが、28才のカミッロ・ボルゲーゼ大公でした。
地中海風の美貌を誇り、壮麗な馬車を駆るカミッロは女性にとって憧れの的でした。
当時の馬車は維持費が高く、金持ちのステータスシンボルです。
現在で言うところのフェラーリやランボルギーニのような、いやそれ以上の価値がありました。フェラーリに乗るイケメンセレブですね。
ボナパルト家の面々が見守る中、ポーリーヌとカミッロの出会いは演出されました。
しかしナポレオンはカミッロの欠点に気づいていました。
彼の父は教養ある人物であり、弟も賢かったのですが、彼本人は頭の出来がよろしくない、と言われていたのです。
「ボルゲーゼ公はイケメンだけど、操れるのは馬車くらいだろ。まともな会話すら操れないさ」
そう噂される残念なイケメンだったのです。
しかしポーリーヌは、ナポレオンが「もうちょっとちゃんと服喪しろよ」と苦い顔をするほど前向きに再婚へ向けて突っ走ります。
「あんなアホが相手じゃあ、お前すぐに飽きるんじゃないか」
ナポレオンはそうあきれながらも、再婚を認めざるを得ない……。
その予感は的中することになります。
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