1852年(日本では幕末・嘉永五年)11月4日は、カミッロ・カヴールがサルデーニャ王国首相に就任しました。
イタリア統一における立役者の一角であり、
「神がイタリア統一のために遣わした男」
とまで呼ばれる人です。
統一のお話は以下の記事に
19世紀までバラバラな国だった「イタリア統一運動」の流れをスッキリ解説!
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譲るとしまして、今回はイタリアになくてはならない特産品と、カヴールの功績について見ていきましょう。
世界一・二を争うほどのワイン王国
「イタリア」と聞いて、皆さまが頭に思い浮かべるのは何でしょう?
・ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチをはじめとしたルネサンス期の芸術家たち
・カトリックの総本山バチカン市国を含む、ローマの町並み
・「ここを見てから死ね」と呼ばれるほどの眺望と、ベスヴィオ火山という脅威を併せ持つナポリ
・今世紀中には水底に沈むともされながら、多くの魅力を持つヴェネツィア
はたまた、パスタやピッツァなどの日本人に馴染み深い料理の数々……なども挙げられるでしょう。そしてそれらと同じくらい、イタリア全土で親しまれ、生活の一部となっているものがあります。
ワインです。
最近はチリやアメリカなど。
いわゆる「ニューワールド」と呼ばれる地域のものも増えてきましたが、日本ではワイン=フランスのイメージが強いですよね。
でも実は、イタリアもフランスと世界一・二を争うほどワインを作っています。
フランス人学者を招いてネッビオーロの徹底研究
カヴールの出身地・ピエモンテでも、もちろんワインを作っていました。
しかし、当時の技術では劣化が早く、地元の人しか真の美味しさを味わうことができなかったのです。
これは他の地域でも同じでした。
そこでカヴールは、フランス人の学者を招いて、この地の土着品種であるネッビオーロというぶどうを徹底研究。
結果「これまでピエモンテで作っていた甘いワインよりも、辛口でどっしりしたワインのほうがこのぶどうに合うだろう」ということが判明しました。
カヴールは早速これを村の人々に伝え、より美味しいワインを作るように命じます。
そして今日「バローロ」と呼ばれる、イタリアワイン屈指の格を持つワインが生まれたのです。
最近は日本のスーパーでも見かけるようになりましたので、飲んだことがあるという方も多いのではないでしょうか。
子供の頃から飲む生活必需品だけに
さて、もうちょっと深いところまで見てみましょう。
なぜカヴールは、イタリア統一というクッソ忙しいときに、ワインのことを考える余裕があったのでしょう?
実はイタリアという国にとってワインは、主食に勝るとも劣らない存在だからです。
日本人はお酒=嗜好品と考える人が多いですが、イタリア人にとってワインは子供の頃から飲むもの。
生活必需品の一つです。
加えて、イタリアではローマ帝国の時代から、各地の名物とされるワインが作られていました。
各国の王侯貴族とのお付き合いでも重宝しています。
……となれば、統一までにかかった莫大な戦費を補うのに、うってつけの存在ですよね。大昔から作っているのですから、一から始めるものよりずっと手間が省けます。
とはいえ、上記の通り、そのままでは少々質に難があるものも存在しました。
味の個性が尖りすぎていて、
「地元のワインしか受け付けられない」
という人も多かったのです。
それを改良して味と保存性を高め、より高く売れるようになれば、カヴールにとっては「計画通り」。
地元の人だって、自分たちの作るものに自信が持てて精が出ますし、何より毎日の食卓と心と懐が潤います。
なんて完璧な連鎖でしょうか。
これだけ日本食が海外でも人気になってきているのですから、外国でも売れるような日本酒を作ればいいと思うのですけれども。
戦後は粗悪品と思われていたときもあったが
まあ、ワインの保存性がほぼ完璧になったのは、ごく最近の話です。
数十年前までは「ちょっと離れたところのワインを買って帰ってきたら、味が変わっててがっかりした」ということも珍しくなかったようですし。
それでも、ミラノやローマなどの大きな都市では20世紀の始めあたりから、国内の離れた地域のワインを味わうことができたそうです。
カヴールたちがワインの質向上に努めた頃から半世紀ちょっと、と考えると、驚異的な速度といってもいいでしょう。
第二次世界大戦後には、工業化の名の下に人工香料を加えたワインが出回るなどして「イタリアワインは粗悪品だ」と思われている時代もありました。
今日ではそういったものは排除され、昔ながらの方法でワインを作ったり、新しい方法を試したりといった違いはあれど、質の良いワインが出回っています。
戦争は苦手といわれるイタリアの人々ですが、やはり「味」が絡むと力を発揮するものなんですかね。
長月 七紀・記
【参考】
『イタリアワイン秘ファイル 日本人が飲むべき100本 (文春新書 944)』ファブリツィオ・グラッセッリ (著)(→amazon)
カミッロ・カヴール/wikipedia
イタリアワインの歴史
バローロ/wikipedia