個性って難しいですよね。
単に奇抜なファッションをすれば良いというものではなく、そこには何らかの主張というか生き様というか、その人なりのオリジナリティがあってしかるべきです。
が、世の中には「わが道を行くにも程があるだろ」という方もおりまして、近現代でその代表だと思われるのがこの御方。
1904年(日本では明治三十七年)5月11日、スペインの芸術家として有名なサルバドール・ダリが誕生しました。
例えば、アートや絵に興味のない方でも、一瞬で心を奪われてしまいがちなのが、次の作品でしょうか。

Lobster Telephone/photo by Nasch92 wikipediaより引用
見たまんま『ロブスターテレフォン』と言います。
絵で言えば『記憶の固執(柔らかい時計)』という一枚がよく知られておりますかね。
この2作品だけで【常人とは違った感覚】であることがご理解いただけると思いますが、彼の一生を見ていくと、もはや理解の範疇を超え過ぎていてわけがわかりません。
できるだけ深く考えず、ダリの生涯を追ってみましょう。
シュルレアリスムに傾倒して
ダリが生まれたのはスペイン北東部のフィゲラスという町。
幼少の頃に際立ったエピソードはなく、18歳のときマドリードの美術学校に入り、画家だけでなく詩人や映画監督など、多方面の芸術家たちと知り合いました。
21歳の時には初めて個展を開き、早くから一般にも認められていたようです。
この頃の作品の一つが日本の「池田20世紀美術館」というところにある『ヴィーナスと水兵』です。一般にも割と一受け入れられやすそうな感じの絵です(→link)。
その後何がどうなって『記憶の固執』のような絵になっていったのか?
キッカケは【シュルレアリスム】という概念、そしてそれに該当する芸術家たちとの交流からでした。
シュルレアリスムはフランス語読みで、日本では英語の発音と混ざって「シュールレアリズム」と呼ばれていることが多いですね。
「シュール」とついている通り、悪く言えば常人には理解しがたいような非現実的に見える描写、良く言えば幻想的な表現をする芸術のことをさします。
有名どころではゴヤやピカソなどもシュルレアリスムの画家として知られていますね。
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こう書くと何だかスペインのお家芸のようですが、ドイツやアメリカにもこうした芸術家はいます。
スペイン人に多いのも間違いないですが。
チュッパチャプスのロゴも発案
ダリの作品は写実的・具体的でありながらもどこか不気味さを感じさせる――。
そんな夢の中のような幻想的な部分があるためか、シュルレアリスムに分類される芸術家の中でも人気が高い人です。
他にも香水(中身・ボトル両方)やタロットカードなどのデザインも手がけているので、他の芸術家と比べて一般の人の手に直接触れるものが多いからかもしれません。
もう少し身近な例でいうと、キャンディの「チュッパチャプス」のロゴの原案はダリが描いたのだとか。
どうでもいいですが、チュッパチャ”ッ”プスではなくチュッパチャプスなんですね。
小さい「ッ」が入らない、へぇへぇへぇ。

チュッパチャプス/photo by kruder396 wikipediaより引用
とにかく。
そのセンスは芸術だけでなく日常生活にも現れておりまして。
『茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)』という作品を後々になってから「スペイン内戦の予言だ」と自画自賛したこともあります。
作品タイトルからして、何がどうしてそうなった(´・ω・`)
潜水服着用で講演して死にかける
こうなると「俺様は天才だ!他の芸術家はクソだ!」みたいな天上天下唯我独尊になりそうですよね。
それがそうでもなく、例えばフェルメールなんかを高く評価していました。
『真珠の耳飾りの少女』で有名な人ですね。

フェルメール『真珠の耳飾りの少女』
また、ロンドンで講演会をしたときには「潜水服を着て登壇する」というのっけから注目度MAXな姿で現れたこともあります。
そして、途中で酸欠になり、死にかけるという伝説も残しました。気付けYO!
ちなみにこの二つ、同じ年(1936年)のことだったりします。濃すぎるとしか表現できない。
25歳で結婚した妻に先立たれ……
そんな感じで作品もエピソードも奇抜なれば私生活も全て奇抜!というワケでもなく、性格的には優しい一面も持っていたと思われます。
25歳のときに知り合ったガラ・エリュアールという女性と結婚したのですが、彼女に先立たれたときには「人生の舵を失った」とまでいうほど落ち込み、翌年5月を最後に創作活動をやめてしまったほどでした。
それ以降、フランスとの国境付近にあるジローナという町に城を買ってそこに引きこもってしまったといわれています。
なぜかその2年後(※80歳)のときに寝室で大やけどをしているのですが……寝タバコですかね?
ボヤの原因になりやすいので画面の前の皆さんもやめてくださいね。

強烈なヒゲで見落としがちかもしれませんが、イケメンです/wikipediaより引用
基本的には妻亡き後引きこもり生活だったようですが、たまには外出していたようで、亡くなったのは故郷の町・フィゲラス滞在中のことでした。
85歳という長寿でした。
最後の作品『時間のプロフィール』は……
また、オセロットという種類の大型山猫を飼っていて、旅行にも連れて行っていたとか。
どうやって運んだのかは謎ですが、一緒に写った写真もいくつか残っています。

ペットのオセロット「Babou」との一枚もよく知られてますね/wikipediaより引用
このオセロットは「Babou」という名前で、残念ながら性別や読み方がわかりませんでした(´・ω・`)
もしご存知の方いらしたら教えてくださいませ。
そういった優しい面があることを知った上で、最後の作品である『時間のプロフィール』という彫刻を見ると、何となくこの歪んだ時計がダリの涙のように思えてきます。

時間のプロフィール(1984)/wikipediaより引用
作品のセンスにしろ妻やオセロットへの愛情にしろ。他人からは奇抜に思えても、ダリ本人にとっては至極当然のことだったのでしょう。
皆さんも機会があれば本物を見に行かれるとよろしいかもしれません。
長月 七紀・記
【参考】
サルバドール・ダリ/wikipedia
池田美術館
パルファン
Artpedia