1864年11月24日は、画家のアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックが誕生した日です。
誰もが一度は名前を聞いたことのある画家の一人ですが、意外にもその一生は暗く寂しく、そして短い……と、一体なぜそんな悲しい展開となってしまうのか。
ロートレックの生涯を振り返ってみましょう。
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父親に疎まれ、絵に打ち込む
ロートレックは、9世紀から血筋が続く由緒正しい貴族の家に生まれました。
しかし、10代前半で両足の大腿骨を立て続けに骨折し、それをきっかけに足の成長が止まってしまったことから、彼の人生に影がさします。
父親は息子を疎むようになり、生涯ロートレックの絵を認めませんでした。
一番身近な同性に認めてもらえなかったロートレックは、絵に打ち込むことで自分の存在意義を作ろうとします。
なんだかこの時点でかなり切ない話ですが……父からの良い影響も皆無というわけではなく、ロートレック家は貴族の家柄であり、幼い頃から馬に親しむ機会が多々ありました。
その最初の師匠が父の友人だったルネ・プランストーという人で、馬や動物の絵を数多く描いていました。
ロートレック本人は脚が不自由で乗馬は出来なかったですが、馬という動物は彼の心の支えとなり、モデルにもなったのです。
現代でもアニマルセラピーで馬が使われることがありますから、ロートレックも知らずしらずのうちに癒しを求めていたのかもしれません。
ムーラン・ルージュのポスターで脚光を浴び
その後ロートレックは、パリやモンマルトルの画塾に通い、ゴッホやシュザンヌ・ヴァラドンなど同時代の画家や芸術家と知り合いながら、社交の幅を広げていきました。
彼は芸術家には珍しく(?)、明るく人懐こい性格だったそうなので、ムードメーカー的な面も持っていたのでしょう。
1884年にはモンマルトルにアトリエを構えました。
ほぼ同時期にロートレックはアリスティード・ブリュアンという男性歌手と知り合い、彼の職場でもあった酒場に通うようになります。
「貴族のお坊ちゃまに夜遊びを教えた」なんて言うと不健全な香りがしますが、これがロートレックに大きな画題を与えます。
彼の芸術的感性を刺激したのが、ダンスホール「ムーラン・ルージュ」です。
ロートレックはこの店を気に入り、たちまち常連になっていきました。
そして店主から「ウチを宣伝する絵を描いてくれ」と頼まれて描いたポスター『ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ』が多くの人の注目を集めたことで、ロートレックの名は画家として華々しく世に出ることになったのです。
彼が斬新だったのは、線をシンプルにしつつもモデルの特徴を際立たせて描いたことや、文字までもデザインの一部として画面に入れたことでしょう。
負けじと他のポスター作家たちも工夫をこらし、パリはさまざまなポスターに彩られ、「芸術の都」らしい姿に成長していきます。
この店の様子を描いた絵も多々手掛けており、中には華やかな女性たちだけではなく、テーブルで飲み物や会話を楽しむ男女の姿も残されています。
特に彼が興味を惹かれたのが、酒場周辺で生活している市井の花売りや洗濯女でした。
貴族出身の彼にとって、庶民の暮らしはそれだけで物珍しく映ったのかもしれません。
ロートレックは単なる好奇心だけではなく、発展しつつあったパリの裏側に強く惹かれ、その姿を絵に残そうと決めました。
ありのままの生活を描く、というスタイルは当時斬新なものであり、ロートレックの描いた女性の肖像画では、無表情な女性や二日酔いで不機嫌そうな女性が描かれています。
男性モデルでは、ゴッホの肖像画を描いたこともありました。
ゴッホもなかなか芽が出ず悩み多き人でしたので、ロートレックとどこか通じ合うところがあったのかもしれません。
ロートレックによるゴッホの肖像画は淡い色彩で、どこか幻想的な雰囲気があります。
「日本へ行ってみたい」とも
ロートレックは26歳頃にシュザンヌ・ヴァラドンと激しい恋をします。
しかし、彼女が自殺未遂をしたことで恋愛とは距離を保つようになっていました。
それにより、かえってモデルに対して余計な感場を抱かずに済んだのか、足を上げた大胆なポーズの女性ダンサーも多く描いています。
他にも女優や芸人など、彼はモンマルトルに出入りするさまざまなパフォーマーを描きました。
一方この頃、ヨーロッパで流行していたのが日本の芸術などを好む「ジャポニズム」です。
ロートレックも日本美術の展覧会に足繁く通い、「日本へ行ってみたい」とも思っていたようです。
それが高じてか、狩衣らしきものを着て扇を右手に、日本人形を左手に抱えたロートレックの写真が残されています。
日本旅行は実現しませんでしたが「ロートレックの作品における人物がシンプルな線で描かれているのは、日本の美人画にヒントを得たからだ」という見方もあるようです。
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