ローマ

「賽は投げられた!」ファルサルスの戦いで用いたカエサルによる戦術革命

紀元前48年8月9日、「賽は投げられた」の元ネタとなるファルサルスの戦いでユリウス・カエサルが元老院軍に勝利しました。

ローマ帝国の経緯を事細かに書くとトンデモナイ量になりますので、大幅に省略して要点だけ見て参りますと……。

カエサルはローマ帝国の貴族の生まれで、順調に行けばそのままお偉いさんになるはずでした。

が、血縁関係のドタバタで危うく処刑されかけ亡命。

疑いが晴れて中央に戻ったものの、クーデター未遂の片棒を担いだとしてまたも法廷に呼び出されるなど、お坊ちゃんの割にはてんやわんやの前半生でした。

その苦労が報われてか。
三頭政治(三人のお偉いさんが主導する政治)の一角・民衆派として絶大な支持を得るに至ります。

しかし、ガリア(現在のフランスとその周辺)へ遠征に行くと、あまりにも戦果が大きかったため「アイツやっぱり国を乗っ取るつもりなんじゃね?」と国元のお偉いさん達にまた疑われることになってしまいます。ったく、心がやましいのはどっちだか。

 


「賽は投げられた」

そんなタイミングで、三頭政治エントリーNo.2のクラッススが別の戦争で死亡してしまい、パワーバランスが崩れてあら大変。

ここで元からカエサルのことが嫌いだった三頭政治No.3のポンペイウス、元老院(議会)と結託して「カエサル、ブッコロ!!」の兵を挙げます。

ガリア方面から帰ってきたカエサルは、この知らせを聞いて「もうアイツら人の話聞く気がないわけね」と理解し、「よろしい、ならば戦争だ!!」……ではなく、「賽は投げられた」という有名な発言をします。

これはルビコン川というローマとの国境になっていた川を渡ったときの言葉とされていますが、現代ではどこの川を指していたのかわからなくなってしまったとか。

まあ、イタリアもローマ帝国崩壊以後、ずっとスッタモンダが続いてたので仕方がない。

19世紀までバラバラな国だった「イタリア統一運動」の流れをスッキリ解説!

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日本でさえ「春の小川」の小川が渋谷区にあった川だというのが忘れられているくらいですし、2000年以上も年月が経てば、そりゃあわからなくなるのは当然ですよね。

 


槍を投げずに騎兵を直接刺せ

こうして【カエサルvsポンペイウス】の間で、後に「ローマ内戦」と呼ばれることになる一連の戦いが起きます。

この内戦は大ざっぱに前半と後半に分けることができ、ファルサルスの戦いは前半のクライマックスにあたり、ここでカエサルが勝ったためポンペイウスは逃亡→暗殺されています。

後半戦はプトレマイオス朝エジプトが相手ですが、そちらのお話はまたそのうち。
ちなみにこの王朝、アレクサンドロスの部下だったプトレマイオスという人が初代だったりします。こういうとこで繋がるのが歴史のロマンですね。

結果を先にお話してしまいましたので、カエサルがなぜここで勝利を収めることができたのかという点に絞っていきましょう。

当時の戦術として「投槍」というものがありました。
文字通り投げて使う槍のことで、ローマには専用の兵隊も組織されており、メジャーな存在でした。

が、敵兵(特に騎兵)から見れば「あいつらの槍を避けちまえばなんてことないぜ!こっちのほうが早いし楽勝wwww」というのが常識。
カエサルは、この常識を打ち破ったのです。

どうしたのか?というと、投槍兵に「槍を投げずに騎兵を直接刺せ」と命じた――たったこれだけのことでした。

単純な話、投げてしまったら後は逃げるしかないですが、直接刺せば効果的に敵兵を減らすことができますよね。
もしかしたら馬を奪うことも考えていたかもしれません。

中国風に言えば「将を射んと欲すればまず馬を射よ」ですかね。

余談ですが、英語で似たような意味のことわざに「娘を欲しいと思うならまず母親を」というものがあるそうです。「母親を説得して周囲から固めろ」ってことなんでしょうね。

また、馬は前方に何らかの障害物があると足を止めるという性質があります。
カエサルは投槍兵の集団を「障害物」に見立てて、馬の進軍速度を落とさせた上で騎兵を狙ったのでした。

ごくごく単純な作戦ながら、動物と騎兵両方の性質を同時に打ち破る奇策はまさに”英雄”ですね。

 


砂漠地帯では馬の代わりにラクダ しかも現役

もう少し軍事と動物のお話をしておきましょう。

まず馬。
紀元前の時点で上記の通りですから、馬は各国で最も長く軍用に使われた動物といえます。

当初は戦車や物資を引いていた=後方支援的な役割のほうが強かったのですが、そのうち騎兵が登場して陣頭に立つようになりました。

生身の人間よりずっと早く移動できること、乗り手の疲労が減ることなどメリットが大きく、乗用兵器が発達するまで何千年も使われています。
歴史上、騎馬軍の錬度が高い国が有利となり、騎馬民族の元(モンゴル)が覇権を得たのはこのためです。

ちなみに砂漠地帯では、馬の代わりにラクダが使われていました。
ラクダは元々乾燥した地域で生きていけるように進化した生き物ですから、水の補給が危ういときでも使えるというのが大きなメリット。馬よりバランスを取るのが難しそうですが、やっぱり勝手は違うんですかね。

現在ではほとんどの国で儀礼用の騎兵として残るのみですが、自動車やバイクが走れないような地形の国では現役だそうですよ。

 

4000年前から家畜化を試みていたゾ~

また、武器といえば大きく重いものほど威力が高いものです。
というわけで、地上最大の動物・象も軍事利用されていたことがありました。

象は4000年前ぐらいから家畜化の試みがされていて、その後、軍用にも転化していきました。

紀元前12世紀ごろには「戦う象さんカッコイイ!」(超訳)という記録があるので、それなりに実用的とされていたようです。

が、当然のことながら目立ちまくる上、火計や銃火器を使われると手も足も出なくなるため意外に早く廃れました。
大きくて重いものは扱いが難しいということでしょうか。

現在各地の象が激減しているのは、主に象牙目的の乱獲・密漁が原因ですけども、もし軍事利用が続いていたら今頃は絶滅してしまっていたのかもしれません。
廃れてよかった〜。

 


ソ連→犬に爆弾を背負わせ戦車の下へ

象と同様、他の動物兵器も兵器の発達と入れ替わるように姿を消していきました。

が、20世紀には別の目的で動物の軍事利用を試みた国もあります。

ソ連軍が考えた”対戦車犬”がその一つです。

「爆弾を背負った犬を敵の戦車に向かって走らせ、戦車の下に潜り込んだところで爆弾のレバーが倒れて爆発する」という、外道にも程がある兵器。

訓練に手間取る上、他の犬が爆死するのを見て恐慌状態に陥る→自陣に戻ってから爆発するというような事故が多発したとか。

犬に限らず、動物が火や大きな音を恐れるというのは世界共通の常識だと思うのですが、ソ連では誰も動物を飼ったことがなかったんでしょうか。

 

猫は足音をたてないから尾行に向いてるよね!by CIA

一方、笑い話にもならないシュールなエピソードを生んだのが”アコースティック・キティー”です。

アメリカ・CIA考案のスパイ用猫のことで、詳細について公開されていないのですが、「体に発信機やマイクをしかけた猫を用意し、ターゲットを尾行させる」というものだったようです。

確かに猫はほとんど足音を立てませんが、目標のすぐ近くまで猫を連れて行かなければならないため、結局実用性はほぼゼロ。
猫を抱えた状態でターゲットに見つからないように尾行するくらいなら、最初から人間がやったほうが早いですしおすし。

このうち犬だけは訓練がしやすく実用性も高いため、今でも多くの国で軍事や警察に使われています。災害救助犬の活躍もよく知られていますね。

自衛隊の場合は階級があったり、アメリカ軍では戦死した軍用犬の葬儀を営んだりと、正式に組織の一員として扱われているとのことです。専用の保険とかあるんですかね?

いずれにせよ、人間も動物も命がむやみに失われることのないよう、ドンパチはやめていただきたいものです。

長月 七紀・記

【参考】
ファルサルスの戦い/Wikipedia
動物兵器/Wikipedia
アコースティック・キティ/Wikipedia


 



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