ずっと首都であり続けたところ。
保養地として富裕層を中心に愛されてきたところ。
芸術や学問あるいは商業の町としてさまざまな人が集まったところなど。
特定のカラーを保っている都市は今も観光客で賑わっていますよね。今回はその一つ、数百年間の歴史の中で三つの役割を担ったある都市のお話です。
1991年(平成三年)9月6日、ソ連崩壊に伴ってレニングラードが旧称サンクトペテルブルクに再度改名しました。
ややこしい言い方になってしまいましてスミマセン。
元々サンクトペテルブルクという名前だったのを、ソ連時代にレニングラードに変えていたので、ソ連崩壊後は戻したということです。
……やっぱりややこしいな(´・ω・`)
名前の意味を探るとちょっと理解しやすいかもしれません
サンクトペテルブルク
→聖ペテロ(キリストの一番弟子で初代ローマ教皇)の町
レニングラード
→レーニンの町
”ブルク”(ドイツ語)も”グラード”(ロシア語)も都市を意味する言葉で、ドイツの影響を嫌う場合は「ペトログラード」と呼ぶ場合もあるようです。
交通の要所だったサンクトペテルブルク
この町は当初、ロシア帝国の首都として18世紀に建設されました。
ときの皇帝はピョートル大帝。
2メートルの長身、自らヨーロッパ中心部を巡って新しい技術を学びに行くフットワークの軽さなど、いろいろな意味でスケールのデカイ人物です。
この人が当時一面沼地だった場所に大量の人と資材を投入し、作らせたのがサンクトペテルブルクの始まりでした。
なんでそんな工事のしにくいところを選んだのかというと、ここがネヴァ川という大河の河口にあたり、外海にも内陸にも交通の便が良かったからです。……でも、通過するのとそこに住むのとじゃ便利の基準が違うと思うんですけどゲフンゲフン。
ちなみに、”ピョートル”というのはペトロのロシア語形ですので、聖人の名にかこつけて「聖なる俺様の町!!」と名付けたことにもなります。
この人あんまり信仰心強くなかったみたいですし。
元が湿地ですから当然作業は難航しました。
が、完成後は貴族・商人・職人が(強制)移住したので、少しずつ人口も増え、首都らしくなっていきます。
そしてロシア帝国が存続している間は、ずっと首都でありつづけました。
現在サンクトペテルブルクの観光名所になっている建物の多くは、このロシア帝国時代に作られたものです。
地球上最大規模の戦死者
しかしロシア帝国が革命によって斃されると、レニングラードへの改名と共に役割を大きく変えました。
海、ひいてはヨーロッパに近すぎて、対外戦争をしたとき真っ先に戦場になると考えられたからです。
その予想は不幸にも見事に命中し、第二次世界大戦ではフィンランドとドイツによって900日(=三年弱)にも渡って包囲された「レニングラード包囲戦」の舞台となってしまいました。
正確な犠牲者の数はわかっていませんが、一説によると100万人以上の”市民”が亡くなったといわれています。
これ以外に軍人の死傷者もいますから、合計したらどれほどの人数になるのか見当もつきません。
おそらく、地球上の一ヶ所における戦闘では一・二を争う被害です。ちなみにもう一つも同じくソ連の「スターリングラード攻防戦」だったりします。
大陸国同士=人口も兵数も多い=激戦に伴って死傷者が増える、ということなのでしょう。
当然のことながら、生き残った人々は暗澹(あんたん)な気持ちで都市の復興を進めることになりますが、これだけの被害を出しながらも耐え抜いたことに対し、徐々に誇りが上回るようになっていきます。
歴史上苦戦を強いられた都市になぞらえて「トロイも陥ち、ローマも陥ちたが、レニングラードは陥ちなかった」という文句もあるようです。戦後、その偉業を称えてスターリンから「英雄都市」という称号が与えられましたが、人々にとってどれだけの価値があったものか……。
世界遺産も多く ロシアきっての観光都市に
それでも歴史と誇りあるこの町を、人々は根気よく復興させました。
モスクワに次ぐ第二の都市として、政治的な意味が大きかったのもあるでしょうけども。
そしてソ連崩壊に伴い、忌まわしい包囲戦の記憶を遠ざけるように旧称に復帰し、今ではロシアきっての観光都市になりました。世界遺産に認定された建築物も多く、さらにその縁で各国のさまざまな文化都市と姉妹都市になっています。
最近ではモスクワから憲法裁判所が移転したり、各種国際会議の会場に選ばれたりと、再び政治的な役割も大きくなっているようです。
なにせ世界最強の大統領がここの出身ですし、尊敬しているのもピョートル大帝とエカチェリーナ2世だそうですから、そりゃサンクトペテルブルクを大事にするわけで。
歴史の話というと、人物や事件を中心に語られることが多いですが、こうして都市に着目してみるのも面白いですね。
長月 七紀・記
【参考】
サンクトペテルブルク/Wikipedia
やっぴらんど