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【シャルロッテ】
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メキシコ皇后に、私はなる!!
1864年。
そんな夫婦に、うまい話がころがりこみます。
「マクシミリアンくん、きみ、ちょっとメキシコ皇帝になってみんかね?」
革命を経て独立しようとしている中南米のメキシコ。
ここに介入し、傀儡政権を樹立しようと、ナポレオン3世がたくらんだのです。
メキシコ皇帝・マクシミリアーノ1世は名君候補? では、なぜ処刑された?
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そのために適当な王はいないだろうか。
そういえば王冠を欲しがっている王族がいたっけ。ということで白羽の矢がマクシミリアンに立ったわけです。
マクシミリアンはためらい、その尻を熱心に叩いたのがシャルロッテでした。
「こんなチャンスは二度とありませんよ。ハプスブルク家に生まれた一員として、ここで話を断ってどうするんですか?」
シャルロッテの脳裏には、バイエルンの王家出身でありながら皇后となったエリーザベト、スペイン貴族出身でありながらフランス皇后になったナポレオン3世妃のウジェニーらの姿がチラついていたことでしょう。
「あんな格下の女でも皇后なのに、ここでくすぶるわけにはいかない……!」
聡明な彼女でありながら、なぜ王冠の危うさに気づかなかったのか。
わかっていて敢えて無視したのか。
「かわいそうに、死にに行くようなものよ」
憐れむように首を振り、そう忠告する人もいました。
さらにフランツ=ヨーゼフは弟に要求をつきつけました。
「メキシコ皇帝になるのであれば、オーストリアの皇位継承権を剥奪するが、よいのか?」
それでもシャルロッテはひるみません。
「これは近代史の中でも素晴らしい1ページになるわ。メキシコこそ、この世界でも有数の美しい国よ」
マクシミリアンが逡巡し、ウツ状態寸前まで陥るも、シャルロッテは意気軒昂でした。
そこはリアル『北斗の拳』の世界だった
1864年5月。
メキシコ皇帝夫妻は、メキシコ・ベラルクスに上陸を果たします。
しかしそこは、リアル『北斗の拳』&『マッドマックス』のような世界でした。
歓迎の群衆はまばらで、歓迎パーティは襲撃され、銃声が響き渡ります。
王宮はズタボロで、眠れば虫にたかられる始末。
栄光とはほど遠い、蒸し暑い、「死者の街」。
マクシミリアンはそれでも統治しようと頑張るも、努力は空回りするばかりです。それもそのはず、そもそも皇帝なんて歓迎されていないのですから。
それでもシャルロッテはあきらめません。
夫が不在の際は摂政を引き受け、各地を歩いて周り、なんとか治世を軌道に乗せようと努力を続けます。
しかし、全ては虚しい努力……。
1866年、ナポレオン3世はメキシコ統治に見切りをつけました。
マクシミリアンが未熟というだけではなく、南北戦争を終えたアメリカが独立派を支持するようになっていたのです。
フランス国内でもメキシコ介入に反対する声が高まり、もはや限界でした。
ナポレオン3世は駐留するフランス兵を引き揚げると告げ、マクシミリアンに退位を促しました。
もはや彼もその意向に逆らおうとは思いません。潮時だったのです。
しかし、シャルロッテは違います。
「ここで神聖なる統治権を放棄するなんてとんでもない!」
優柔不断なマクシミリアンは妻に押し切られ、彼女は決意を固めます。
「私がフランスでナポレオン3世にかけあって、メキシコへの支援継続を頼むわ!」
「こんなものを飲むくらいなら死んだ方がマシよ!」
シャルロッテはフランスへ乗り込み、ナポレオン3世に直談判を試みました。
しかしナポレオン3世は仮病を使い、彼女との会見を避けます。
代わって対面したのは、皇后ウジェニー。彼女から差しだされた飲み物を、シャルロッテは顔をしかめて飲み干しました。
それから、突然こう語り始めたのです。
「私が馬鹿だったわ! ブルボン家の血が流れているこの私が、ボナパルト家の連中と交渉しようとすることそのものが間違いだったのよ!」
せっかくの相談相手に、いきなりこんなことを言ってしまったシャルロッテ。
何かが彼女の中で、壊れ始めていました。
「誰かが命を狙っている。食事も、飲み物にも、すべて毒が入っている。眠りに落ちれば喉を切り裂かれてしまう!」
そんな妄想に取り憑かれたのです。
ヴァチカンの法王庁では、さらに症状が悪化します。
教皇ピウス9世から勧められた飲み物を前に、シャルロッテは錯乱してしまったのです。
「毒が仕込まれているッ、こんなものを飲むくらいなら死んだ方がマシよ!」
どう考えても精神に異常をきたします。
なだめられ、やっと落ち着いたシャロッテは、メキシコの窮状を訴え続けました。
ピウス9世もウンザリしてしまい、その場からそっと退出。
それでも彼女は法王庁に居座り続け、ついには法王庁内の図書室に一泊することになってしまいます。
「法王庁に女性が宿泊するなんて、風紀が乱れたボルジア家時代以来のスキャンダルだ……」
法王庁はシャルロッテの嘆願を聞くどころか、スキャンダルに頭を抱えてしまいました。彼女の嘆願は逆効果にしかならなかったのです。
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