あけましておめでとうございます。昨年の『真田丸』をひきずって、ロス状態の方も多いとは思います。
しかしまた新たな大河が始まるのです。そこで毎年恒例の予想をしてみたいと思います。
結論から申しますと、
「吉凶混合運」
です。不安はあるけど、今年も期待していますよ!
意外と思った方もいるかもしれません。
公式サイトや予告を見ると、たしかに嫌な予感もします。
『天地人』でもうやめろと言った記憶のある前髪がかかった男性の髪型(ダサい)、『花燃ゆ』でげんなりした女子推し企画の「女子会」動画を見ていると、いっそ『真田丸』を再放送しないかな、と思えてくるほどではありますが、それでも期待しているのです。
大河のロスを癒やせるのは、新たな大河だけ!
本作の期待できるポイント、『真田丸』とも重なる要素を、五つのキーワードから探ってみたいと思います。
【TOP画像】
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キーワード1「女人」
本作のメインビジュアルは、尼削ぎ(あまそぎ)の井伊直虎が座り、まっすぐ力強い目でこちらを見ています。
この画像を見たときはまあまあ無難だと感じました。
少なくとも突っ込みどころしかなく、ヒロインから意志力が全く感じられなかった一昨年より、ずっとマシです。
そして、ある点に気がつき『これは期待できるのではないか』と思い直しました。
直虎は胡座で座っています。
実は女性が必ず正座で座るようになったのは江戸時代以降で、戦国時代の女性は肖像画を見ても正座ではありません。
ただしそこを再現すると「行儀が悪い」というクレームがつくため、なかなかできることではありません。
それを本作では、敢えて採用しています。
直虎だけが男性扱いなので特別かもしれませんが、これはなかなか好印象です。
恋だのおにぎりだのスイーツを作る、癒やし系マネージャーヒロインとは違います。
むしろ大胆で型破りな女性が登場するのではないかと期待がふくらみます。
綺麗な着物に頼るわけではありません。
なんせ直虎は華やかさとは無縁の僧衣を着ている期間が長いのです。甘い恋愛よりも、暗い陰謀の方が彼女の人生にはつきまといます。
「どうせ女大河でしょ」と小馬鹿にするのはやめましょう。女性といってもいろいろいるのですから。
直虎は生涯独身で、子供も産みません。
一昨年は子供のいない女、運命の人と結ばれない女はいかに不幸でつまらない人生か、登場人物が口にしていました。
そんなくだらない常識は、昨年のきりが吹き飛ばしました。
結婚や出産だけが女の人生ではない、思うように生きて信念を貫くのもまた大いにありだと視聴者に示したのです。
さらに登場人物欄を見てみましょう。
寿桂尼からただ者ではないラスボス感が漂っています。
これはどう見ても息子や孫より強い。
登場人物欄では一見まともそうな瀬名/築山殿も宣伝動画を見ると恐ろしい目つきでこちらを睨んできます。
男性はホイホイと宴会に呼び出されてその場で殺されそうな、室賀正武(「黙れ小童!」の人)をさらに能天気にしたような顔ばかりですが、女性はどこか癖のある顔ばかりです。
女性大河といえばつきものの絢爛豪華な衣装なほぼ出てこないでしょう。
ヒロインの直虎すら、墨染めの僧衣を着ている期間が長いのですから。
女性大河といえばこれまた名物であるイケメンも、僧形(=スキンヘッド)か謀殺されるのが大半というハードボイルドぶり。
久坂玄瑞の頭を剃らなかった一昨年とは違うんですよ!
これもまた昨年からの個性が強い女性キャラクターの流れに沿っていると言えます。
阿茶局は巧みな弁舌だけで真田丸を破壊しました。
女性といえど、平和を願い優等生的なことを言うだけではないと示したわけです。
タフでなければ生きていけない戦国の女人たちの熱き生き様を、昨年同様今年も期待しましょう!
キーワード2「謀略」
先ほど、癖の強い女性に比べて男性は能天気でホイホイ殺されそうな顔ばかりと書きました。
井伊家男子が次から次へと死んでゆくことを考えると、ある意味納得ができます。
「女性でありながら当主に!」というと颯爽としているようですが、その実態は「次から次へと男子が死ぬからピンチヒッターに担ぎ出される」ということです。
番宣動画が後半不穏なのもそのせいでしょう。
昨年の真田一族、特に昌幸は謀略を仕掛ける側でした。
今年は謀略にはまって死ぬ側が主人公一族です。ホイホイと死んでゆく悲運の男たちを通して、戦国の謀略の恐ろしさを痛感しましょう。
そして改めて謀略を駆使する真田昌幸を憎み、室賀正武や春日信達を追悼しましょう。
最終回直前に出てきた室賀正武の子が、どれほどの苦労をしたか、思いを馳せましょう。
余談ですが、巷にある「戦国武将の生き方に学ぶ」系の本はあてにならないと思っています。
戦国武将は「敵対者(あるいは潜在的敵対者)を宴会に呼び寄せ謀殺する」という選択肢がありうる人々です。
今そんなことをしたら監獄まっしぐらです。
そんな人たちの生き方など現代人には何の参考にもならないでしょう。
キーワード3「国衆」
室賀正武の名が出たところで、彼やライバルの真田昌幸が何であったかを思い出しましょう。
彼らは「小県の国衆」でした。
偶然なのか、それとも必然なのか。二年連続で国衆一族、しかも大名にまでのし上がった希有な成功例を大河の主役としています。
戦国大河といえば、注目が集まるのは三傑でした。
時には主役以上にキャスティングが注目されます。主人公がどれだけ三傑に近いのか、それを描くことで主人公の強みを描写するのもありがちなパターンです。
ところが『真田丸』は違いました。
「国衆」としての抗争を描き、さらにはよほどの戦国マニア、郷土史家、あるいは子孫でなければ知らないような、敵対国衆にまで光を当てることで、物語に深みを与えました。
マイナーな「地元の殿様」である「国衆」の生き死にに光を当てることは、リスクだけではなく利点もあるのです。
あまりにマイナー過ぎて、いわばネタバレなしで物語を楽しむことができるのですから。
波間の小舟のように翻弄される井伊一族の姿を通して、地元国衆の歴史を調べる楽しみもきっと見いだせるはずです。
キーワード4「乱世」
『真田丸』における真田昌幸らの嘆きは、乱世が終わり戦う場を失うことでした。
直虎にはその心配はありません。乱世の終わりが訪れるのは、彼女が亡くなったずっと後なのです。
彼女の生きている乱世の、そう遠くない場所では、まだ若い真田昌幸が生き生きと戦いに明け暮れていたことでしょう。
しかしそんな世は直虎たちにとってよいものだったのでしょうか?
もしも乱世でなければ彼女はもっと幸せになれていたかもしれない。しかし、それでは彼女の生き様は埋もれていたかもしれない。そんなことを想像するのもまた一興です。
『真田丸』における農民同士の諍いや「鉄火起請」のように、乱世では常識でも現代人から見たらおそろしい慣習がどこまで再現されるのか、そこも楽しみにしています。
ある意味彼女はリアル『北斗の拳』や『マッドマックス』の世界を生きているわけですから。
キーワード5「家康」
前作と本作で共通して登場する唯一の戦国三傑は、徳川家康一人です。
前作の家康は、まさに大大名から天下人、大御所として主人公に立ちふさがるまでのレベルアップ街道後半戦でした。
武田遺領争奪レースである「天正壬午の乱」において最大の受益者となり、天下を掌握しつつあった豊臣秀吉が一目を置くほどの実力者となり、そこからしたたかに関ヶ原で勝利、大坂の陣では分厚く高い壁となって立ちふさがりました。
彼の言動の端々から苦労人としての横顔もちらちらと見えましたが、その中身に迫るのが今年です。
まだ若く、幼い頃から辛酸をなめつくした苦労人(竹千代時代)としての家康像。
前作が強大な宿敵であれば、本作の家康は井伊一族を守り抜く優しく力強い大樹です。
家康の存在は二作をつなぎ、かつ乱れた「中世」と戦が収まった「近世」を切り替える鍵です。
昨年と今年と、二作の大河をじっくりと味わうことで、さらに時代や歴史への愛着は深まることでしょう。
今年の目標水準
『軍師官兵衛』以上『真田丸』未満というのが、本作の視聴率的な落としどころかと思います。
題材の知名度からして今年は昨年に劣るので、昨年を下回っても仕方のないところです。
昨年からは本放送だけではなく、BS先行、録画率の数値も出るようになりました。BS+本放送で何度か20パーセントを超えたらば上出来ではないかと思います。
最近は、視聴率というのはそこまで重要視されなくなっています。
スポーツイベントも重なりやすい大河は、朝ドラと違って数字が伸びにくいのも事実。
録画率、SNSでの盛り上がり、大河ドラマ館への入場者数などの観光への影響も、人気のバロメータとして判断材料にされるようになりました。
視聴率では劣っても、大河ドラマ館入場数では『篤姫』すら越えて100万人も狙えたという『真田丸』のニュースは視聴率だけでは人気がはかれないという実例でしょう。
そうした数値面ではなく、ドラマの出来としてはそれこそ高ければ高いほど良いのは間違いありません。
それだけではなく、私が昨年の『真田丸』総評であげた「2010年代大河の要素」を満たしていただければと思います。
◆新たな学説を積極的に取り入れる。そのためには意欲的な考証担当者をつける
→来年は戦国大河定番の小和田哲男氏が考証担当です。井伊家の歴史は新たな学説を取り入れるというよりも、相当マイナーなところを掘り返さなければ描けないでしょうから、ここは注目点です
◆勝者や歴史の中心にいた人物だけではなく、敗者や地方の人物も取り上げる
→これは英雄三傑のうち一人しか出せず、かつ途中まで負けっぱなしで逆境を乗り越える井伊家が主役の時点で大丈夫です
◆実写のみにこだわらず、VFXを多用してゆく
→正直、これについてはあまり期待できません
◆SNS等で視聴者が盛り上げる工夫がある
→「女子会」プロモはこの点不安しか掻き立てていないので、今からでも再考を求めます。寿桂尼は専用ハッシュタグも作られるほど話題になる予感。脚本家の手腕にも期待できます
◆NHK総合本放送視聴率だけではなくBS先行や録画、SNSでの盛り上がり等総合的に判断し、一喜一憂しない
→これは見る側、報道する側の意識ですね。大河恒例序盤の中身のないバッシングからどれだけ耐えきれるか。夏まで持ちこたえれば報道側も息切れします
来年は期待薄、再来年はオリンピックテーマで変則的ということで、実質的に昨年と今年が2010年大河の集大成になるかと思います。
今年の大河ドラマは完璧である必要はありません。世界で最高の日本史をテーマにしたドラマを作ることができるのは、日本の大河チームです。
海外に出して評価されることを目指しつつ、2010年代の歴史ドラマとして、今年も最善と尽くしていただけばと思います。
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)