平忠度と藤原俊成 友情の証は『千載和歌集』詠み人知らずに託されて

 

得るものが難しい物ほど、保つのもまた然り。
しかし、困難であるからこそ保ち続けてみせた人々の行いは、大きな感動や教訓を与えてくれます。
本日はその一つ、平安末期における「男の友情」に関するお話です。

元久元年(1204年)11月30日は、藤原俊成(としなり)が亡くなった日です。
百人一首の選者・定家の父親であり、この時代に90歳までの長寿を全うした人物として有名ですが、本日はそれ以外のお話をご紹介しましょう。

藤原俊成(菊池容斎・画、明治時代)/wikipediaより引用

 

自分の和歌を後世に残したい 平忠度の願い

俊成は永久二年(1114年)年生まれ。
つまり、彼が生きていた時代は、まるまる源平の争いを挟んでいます。その中に、俊成と深く関わりを持った人がいました。

平忠度(ただのり)という、平家の中でも和歌に通じた人です。血筋で言えば、清盛の異母弟にあたります。この二人のエピソードは平家物語に入っているので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。

俊成にとって、忠度は和歌の弟子の一人でした。

が、時の流れは非情なもの。
徐々に形勢を悪くしていった平家は、再起を望めないながらに西へ逃れます。その一員として忠度も同行せねばなりません。真っ直ぐ向かうには大きな心残りがありました。

それは、自分の和歌を後世に残したいということ。

「今編纂されているという勅撰和歌集に、自分の和歌を載せてもらいたい……」

一度西へ向かったものの、そう考えた忠度は、ごくわずかな配下を連れて京へ戻り、俊成の元を訪れました。

 

「誰が詠んだかわからんけど、いい感じだから」的に掲載

忠度は、これまでに書き溜めていた和歌の巻物を俊成に託し、頼みます。

「もし、この中に勅撰和歌集へ載せるにふさわしい歌があったら、その時はよろしくお願いします」

巻物には、だいたい百首ほどの歌が書かれていたそうです。
俊成は、この時点で勅撰和歌集の編纂に携わっていたといわれていますので、どこかから忠度が聞きつけて足を運んだのでしょう。

時は流れ、平家が滅びて鎌倉幕府が興り、忠度の予測した通りに勅撰和歌集が後白河法皇の下へ献上されました。

『千載和歌集』です。

平安時代のほとんどの有名歌人から選ばれた歌集で、俊成や定家の歌も載っています。
しかしそれだけではなく、「詠み人知らず」の歌もいくつか入っています。これは万葉集の時代からお馴染みの、「誰が詠んだかわからんけど、いい感じだから載せておこう」というアレです。

俊成はこれを利用して、当時は謀反人としか思われていない忠度の歌を載せました。忠度の異母兄である経盛の歌も、同じく詠み人知らずとして入れています。

文化と政治に携わる人がほとんど同じだった時代、もし作者名を明らかにすれば、「俊成は平家と通じていて、今も何かよからぬことを企んでいる」だのなんだのといわれかねません。
それを避けた上で、かつての約束を果たすべく、俊成はこのような形をとったのでしょう。

 

さざなみや 志賀の都は 荒れにしを……

たぶん気づいていた人もたくさんいたのでしょう。

しかし、俊成の気持ちを酌んだか、この件について咎め立てはありませんでした。
元々「詠み人知らず」の歌の中には、世間への憚りから名前を出すべきではないとされた人の歌がたくさんあるからです。

芸術に政治を持ち込むべきではない、という暗黙の了解があったのかもしれません。ただ単に「前例があることをわざわざ問題にする必要はない」という話のような気もしますが、まあそれはそれで結果オーライということで。

千載和歌集に載っている忠度と経盛の歌はこんな感じです。

平 忠度
「さざなみや 志賀の都は 荒れにしを 昔ながらの 山桜かな」
(意訳)かつて都だった滋賀の地は荒れ、琵琶湖のさざなみがわびしく聞こえるが、山桜は昔のままに咲いている。

平 経盛
「いかにせむ 御垣が原に 摘む芹の ねにのみ泣けど 知る人のなき」
(意訳)御垣が原の芹を摘むとき、その根が泣いているように、私の想いも地の下で音を上げてしまいそうだ。あの人にも、誰にも知られないだろうけれど、どうしたものだろう。

例によってザックリ意訳ですので、もしも真意を深くご理解されたいという方は、あらためてお調べくださいm(_ _)m

武家の人が和歌をたしなむというだけでもなかなか味わい深い話ですが、このような粋なはからいがあったということも、なんとも言えない良さがありますよね。
これぞ正しい空気の読み方とでもいえましょうか。

今のこの時代もいずれ、歴史の一ページになるときが来るでしょうが、良い人の行いとその名だけでも伝わっていってほしいものです。

長月 七紀・記

参考:藤原俊成/wikipedia 平家物語(原文・現代語訳)

 


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