歴史上の有名な人物たちは一体何を食べていたのか?
2023年に『À Table!~歴史のレシピを作ってたべる~』というドラマが放映されました。
レオナルド・ダ・ヴィンチやマリー・アントワネットたちが普段何を食べていたのか? という内容で、歴史料理研究家・遠藤雅司氏(音食紀行)のレシピ本『歴メシ! 決定版(→amazon)』が原案。
歴史好きにはたまらない企画で、もともとは2017年に発売された『歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる(→amazon)』がパワーアップして決定版とされたもので、いずれも色褪せない内容の名著と言えるでしょう。
では実際に彼らはどんな料理を食していたか?
早速、偉人たちの好物を確認して参りましょう!
日本の家庭でも比較的作りやすい
古代メソポタミアからビスマルクまで。
ドコかで一度は聞いたなぁという世界史ビッグネームの時代から、当時の料理を現代に蘇らせてみようという一冊。
本書の魅力はいろいろありますが、最大の特長は「日本の家庭でも比較的作りやすい」点ではないでしょうか。
実は、歴史的なレシピ集というのは、海外でもわりと出ていまして、
等の邦訳もあります。
ただし、こうしたものを日常の延長で作ろうとすると、高確率で詰みます。というのも……
・材料が入手できない!
・いちいち分量が多い! まず卵を1ダース割ってください、とか……
・描写ザックリでよくわからない!
・写真がなくて完成状態が想像できない!
・宮廷料理人の技なんて再現できない! レベル高っ!
ご覧のとおり、ハードル高し。
藤原シシン氏のように気合いの入った方でないと、なかなか再現できません→参照。
考えてみれば、信長が家康にふるまったレシピを再現した、宝善亭の「信長御膳」も相当大変だったと言います。
以下のリポートにもありますように、
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信長御膳の豪華な中身|信長が安土城で家康に振る舞った究極のグルメとは?
続きを見る
プロでも大変なものを、素人が真似しようと思ってもどだい無理な話。
その点、本書の内容は、レシピにもよりますが日本の台所事情でも再現できるようになっており、大変貴重な一冊と言えるのではないでしょうか。
昔の食べ物=マズイって思ってない?
昔の食べ物なんてマズイ――そう思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、要は、どの階層が食べていたかにもよるはず。
本書は基本的に、現代人が食べても結構イケるものを中心にセレクトしているため、安心できます。
通常版のラインアップはこの通りでした。
第1章 ギルガメシュ王の計らい
第2章 ソクラテスの腹ごしらえ
第3章 カエサルの祝宴
第4章 リチャード3世の愉しみ
第5章 レオナルド・ダ・ヴィンチの饗宴
第6章 マリー・アントワネットの晩餐会
第7章 ヴィクトル・ユーゴーのごちそう会
第8章 ビスマルクの遺言

マリー・アントワネット/wikipediaより引用
それが決定版では、以下の通り嬉しい大増量です!
第1章 ギルガメシュ王の計らい:古代メソポタミア
第2章 ソクラテスの腹ごしらえ:古代ギリシア
第3章 アレクサンドロス大王のもてなし(新):古代マケドニア
第4章 クレオパトラの歓待(新):古代エジプト
第5章 カエサルの祝宴:古代ローマ
第6章 マルコ・ポーロの帰還(新):中世・各国
第7章 リチャード3世の愉しみ:中世イングランド
第8章 レオナルド・ダ・ヴィンチの饗宴:ルネサンス期イタリア
第9章 マリー・アントワネットの日常:フランス・ブルボン朝
第10章 ユーゴーのごちそう:フランス・ナポレオン時代
第11章 ベートーヴェンの晩餐(新):神聖ローマ帝国&オーストリア帝国(18〜19世紀)
第12章 ビスマルクの遺言:プロイセン王国&ドイツ帝国(19世紀後半)

絨毯の中からカエサルの前に現れるクレオパトラ/wikipediaより引用
実に、第4章も追加されるばかりか、地域も大きく広がっていて、まさしく決定版。
こんなビッグネームの時代・文化でどんな味を召し上がっていたのか。
時代が降るにつれて食べる人の身分が低くなっているのも、歴史の潮流が顕れていて興味深いです。
第6章まではほとんどが王侯貴族用のレシピですが、第7章は市民がお客さんのレストランレシピ。
そして第8章には労働者が愛するレシピまで入り込んできます。
再現レシピが誤解と偏見を解消する!
本書で誤解と偏見が解消されることもあります。
「第4章リチャード三世」の愉しみです。
◆リチャード3世はワイン好きの美食家 遺骨から判明(→link)
発掘された遺骨調査から、ワイン好きの美食家であることが判明したリチャード3世。

リチャード3世/wikipediaより引用
イギリス料理というと質素で味にはこだわらない、要はマズイというイメージですが、シェイクスピアの時代あたりまで彼の国は美食家で有名だったそうです。
それがなぜマズくなっていったか?
・粗食をよしとするプロテスタントの普及
・産業革命以降庶民の労働時間が増加し、調理時間が激減
・寄宿学校の食事が粗末すぎて上流階級子弟の味覚がおかしくなる
・第二次大戦期の粗食レシピがそのまま残った
と、諸説ありますが、ともかく時代がくだるにつれて味が変化したのは間違いないようです。
この4章は、見た目もカラフルで滋養にあふれ、美味しそうなレシピでいっぱいです。
「いい意味で裏切られた」という感想も多いとか。
ルネサンスと「ベルばら」時代はレベルがちがーう!
本書でグッとレベルが上がるのが、第5章から。
「第5章のレオナルド・ダ・ヴィンチの饗宴」
「第6章 マリー・アントワネットの晩餐会」
と、まぁ、いかにも再現が難しそうで、そのぶんとにかく豪華です。
特に第6章は作りながら、オスカル気分も味わえるはず。
塩だけ入れた湯に野菜の切れ端を浮かべたものと比較して、食事とロザリーの出してくれた粗末なスープを前に「これだけ……!?」と動揺するオスカルごっこもできます。
これぞ食べるコスプレって感じですね。
味は歴史とともに変わる
「第7章 ヴィクトル・ユーゴーのごちそう会」と「第8章 ビスマルクの遺言」まで進むと、現代人の食べているものにかなり近づいてくることがわかります。
第7章ではフランス革命がもたらした食文化の変化についても解説されており、歴史と味の関係がよくわかります。
味は歴史とともに変化してきました。
香辛料。
新大陸からもたらされた新たな野菜。
今ではありふれている胡椒やジャガイモも、かつては高価な珍味であったと、改めて理解できます。
本書の素晴らしいところは、レシピの再現だけではなく、なぜこうしたレシピが当時存在したか、どのような歴史を経てそうなったか、きちんと解説してくれるところです。
美味しそうだなぁ……と思うだけというのも勿体無い。
そこに至る過程まで脳内で味わえます。
歴史を知り、味わう。
そんな贅沢な経験がこのお値段で叶えられるって、本って本当に素晴らしいですね。
皆様もご自宅のキッチンを是非タイムスリップさせてみてください!
それでは追加の章を見ていきましょう。
大王のデザートは運動部員にもきっと合う
それでは追加の章でもみていきましょう。
まずはアレクサンドロス大王から。大王というイメージから、思わず酒池肉林を想像しておりましたが、素朴です。
特に可愛らしいというか、微笑ましいのは「煮込みりんごのハチミツ漬け」です。
これがシンプルで、りんご煮込んで、ハチミツに漬け、ミントを飾る……って、そのまんまですね。失礼しました、
このデザート以外も改めてみてみると、なかなかシンプルです。ただし思い出してみますと、甘い味というのは実によいもの。かつ貴重です。
このアレクサンドロス大王のデザートは、運動部員がタッパーに入れて食べていてもおかしくないと思えます。レモンのはちみつ漬け系統のデザートです。
遠征の合間に食べるには、これがむしろよいのかも。そう思ったらなんだか大王に親近感を覚えました。
クレオパトラの美貌を保ったのはきっとモロヘイヤだ!
クレオパトラといえば、真珠をワインビネガーに入れて溶かして飲み干したという伝説があります。
要するに金持ちアピールともいえるわけですが、そんな伝説でなく、もっと実践的な美貌を保つレシピが知りたい。
そんな要望の答えが、この本にはあります。
それがモロヘイヤスープ。栄養たっぷり、ねばりがあって満足感もある。シンプルながら、これを毎日飲んでいたら美貌も保てそうに思えます。
歴史ものの美容に貢献しそうなレシピなり、化粧は、ハードルが高い! むしろ健康を害する事例もあるので洒落になっておりません。
ウグイスの糞化粧品はちょっとハードルが高い。
鉛や水銀の白粉は中毒になるし。
ディアーヌ・ド・ポワチエの黄金エリクサーだの。西太后の人乳は、無理無理無理!
その点、この楊貴妃のライチと、クレオパトラのモロヘイヤスープはバッチリ!
歴史に思いを馳せつつ、気軽に食べられるなんて素敵です。
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マルコ・ポーロが食べたフビライの宴はなんだかカワイイ
『歴メシ!』に不満があるとすれば、アジア料理が少ないことでした。それを補うフビライの宴が追加されています。
それは「馬乞(マーチ)」。
ラム肉のスープに「猫耳麺」が入ったものです。
猫耳麺って、なにそれ?
これは中国で猫耳朶(マオアールダォ)と呼ばれる麺の一種です。猫の耳のようにクルンとしたかたち。丸めてだいたいあの大きさに潰すのです。
中華麺を作るのは大変です。広いところで潰して伸ばして切るのは一苦労。その点、猫耳朵は割と簡単にできます。猫耳朵は加熱するとクルンとしてとても可愛らしいのです。
このレシピは元朝の鉄膳大医が書き記したものです。モンゴルから来て、中国のメニューを吸収していった。まさに元朝らしいメニューといえます。
他にも東から西へ旅するマルコ・ポーロの足跡を追っていて、素敵な章です。
ベートーヴェンの晩餐――ドイツ人ならジャガイモだ!
新章としてドイツが追加されました。ここに「アルンシュタイニシャー・シール」があります。
スズキとジャガイモのオーブン焼きです。
ドイツ料理ならば、やはりジャガイモだ! そう納得できる一品です。
ドイツはプロテスタント国らしく、食事は質実剛健なイメージがあります。そういうドイツらしさを感じるメニューです。
なぜドイツといえばジャガイモか?
フリードリヒ2世はその素晴らしさに目をつけたものの、なかなか広まりません。ちなみにドイツは気候的にサツマイモよりもジャガイモが適しております。
ジャガイモは見た目が悪い。
「悪魔の食べ物だっていうぜ……」
「ヤバいな。馬か犬の餌にならしてもいいけどよ」
「どっちにせよ人間の食い物じゃないね」
そう民衆は不安を感じ、手を出さない。そこでフリードリヒ2世は考えました。
ジャガイモ畑を作り、仰々しくこう宣言したのです。
「これは皇帝のみが食べる神聖なものである。勝手に食べるな!」
こうなると、かえって民衆は好奇心が湧いてきます。
「マジか……生きているうちに食ってみてえ!」
「こっそり盗んでみるか」
「そ、そんな、いいのか?」
「みんなでやっちまえばいいんだよ!」
かくして民衆はむしろジャガイモを盗みます。ジャガイモって味があまりないので、そこまでおいしいと思われません。
日本の江戸時代の場合、甘みのあるサツマイモ中心に普及し、ジャガイモは寒冷地のみでやむなく栽培されていたのでした。
とはいえ、リスクとともに盗んでおいて、「やっぱりマズいわ」となったらつまらない。
そこでドイツの民がジャガイモ料理に本気を出した結果が、現在に至るまで残されているのです。
ちなみにフランスの場合、ルイ16世は妻であるマリー・アントワネットの髪にジャガイモの花をつけて、パーティに出席させました。
ドイツ人がジャガイモを頬張るとき、フリードリヒ大王の機転を思い出す。一方でフランスは、ちょっと苦い歴史の味があるのかもしれませんね。
そんな歴史に思いを馳せつつ、ベートーヴェンが好んだ料理を作る。一皿にびっしりとドイツの歴史が詰まっていますね。
新章追加で、ドイツのジャガイモ料理が加わったなんて実に素晴らしい。これぞまさしく「決定版」です。
実際に作ってみた!
「第4章リチャード三世の愉しみ」よりマーメニー(黄金色のビーフシチュー)
びっくりするくらい簡単。素朴で優しい味わいです。
牛乳を大量消費するため、牛乳が余った時にもオススメ。パンにも白米にもあいそうな味わいです。
「第8章ビスマルクの遺言」よりフランケン風焼きソーセージ
これもかなり簡単です。リンゴとソーセージってそんな組み合わせ、本当にありなのかとドキドキしながら食べてみました。
ほのかな甘さと酸味がソーセージにマッチ!
これはありです。冬の食卓にぴったりですよ!
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