胡蝶しのぶ

『鬼滅の刃』6巻/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

胡蝶しのぶと蝶屋敷はシスターフッドの世界なり『鬼滅の刃』蟲柱

2月24日は『鬼滅の刃』の蟲柱・胡蝶しのぶが生まれた日です。

言うまでもなく物語での話ですが、そうだとしても彼女が現実社会に与えた影響は決して小さくないと感じます。

女性像のアップデートが画期的だったからです。

若い世代だけでなく、今まで違和感を抱いていた層にも支持されたゆえに、社会現象にもなったと思われるほど……と、まどろっこしいことはさておき、具体的に見て参りましょう!

【TOP画像】『鬼滅の刃』6巻(→amazon

 


毒殺する大正淑女・胡蝶しのぶ

『鬼滅の刃』の舞台となる大正時代は、婦人の権利にも注目が集まり始めた時代でした。

エンタメとは、作品の時代設定のみならず、連載期間の人物像や世界観も反映されます。

かつてミステリ小説の定番設定として【毒殺する女】がおりました。

当初は依頼人だったけれども、そのうち、殺す側に女が回る――。

とはいえ、腕力では男に勝てない。

その反面、台所に立つことは多い。

ならば毒殺だ!

と、こうなるわけです。

現代社会においては、女性の家事能力をバカにして、からかいのタネにする男性もおりますが、おそらく古典的ミステリとは縁がないでしょう。読んでいたら……ちょっと怖くなりますよ。

胡蝶しのぶは、大正の女性らしく、髪の毛を夜会巻き(※鹿鳴館時代に流行した束髪)にしております。

当時のドレスは、アップにした髪型が映えました。その姿で髪の毛を垂らすと、現代の夜のお店のようになりますので、これは重要です。

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髪型以外にも、しのぶは大正時代らしさも取り入れています。

「こんな女に何ができるっていうんだ」

そう思う敵を華麗に毒殺するのは、効率的なのです。

恋柱の甘露寺蜜璃は、狙って外しているキャラクターに見えます。

けれども、しのぶは一見、大正らしいヒロインに思えます。

その華麗な動きは、まるで鹿鳴館で踊っていた淑女のよう。女性でも学べる時代に、知的な彼女はピッタリ。おまけに髪型は夜会巻きだなんてステキ!

そう蜜璃のようにうっとりと褒めたいところですが、それだけでもありません。

 


女の学問、その可能性を超えて

作中屈指の知能の持ち主であるしのぶは、オーバースペック気味ではあります。

珠世もしのぶも、女性が知性のトップクラスであることが本作の特徴。

大正時代でありながら、彼女らの言葉や実験成果を受け入れるあの世界観は、先進的であります。

平成や令和の少年漫画でありながら、そんな設定にすることそのものが、やはり先進的ということです。

明治維新以降、政府はこれからは女子教育だと張り切りました。

けれども当時の西洋ですらこういう考え方が蔓延していたものです。

「淑女たるもの、良妻賢母になるために教育を受けねばならない」

女性本人が限界に挑み、可能性に挑戦することではない。

あくまで妻として夫を癒やし、母として我が子を導くために、その範囲内で学ぶべきだ。

江戸時代まで、日本の教育は男女別でした。

『礼記』の「男女七歳にして席を同じゅうせず」という考えが根底にあったのです。

男親が男子を教育し、女親が女子を教育する。それが基本でした。

炭治郎と禰豆子をはじめとして『鬼滅の刃』の描写にもその名残があります。

それが西洋では、母親が男女ともに育児をしている。父の指導よりも母の愛を重視する、マザコン社会が出来上がってゆきます。

男性の二世芸能人が犯罪を犯すと、母親が謝罪しますね。あの状況が戦国時代ならば、男性の傅役が切腹して謝罪するのが筋です。

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おしゃべりをしたら返事が知的、良妻賢母、西洋諸国にアピールができる。

その程度の半端な知性を求められた明治以降の女性たち。

アメリカ留学しながら、ダンス要員にされた大山捨松は、教育の道を閉ざさて失望の日々を送ります。

そんな捨松の学友たる津田梅子は、女子教育実現を目指して奮闘を重ねました。

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しのぶは、そんな津田梅子タイプの女子教育を突き進んできたように思えます。

医者としても大成できる可能性を感じさせる彼女は、現代においても先進性のあるヒロイン。

姉ともども、鬼に襲撃される前は女子教育に理解があり、医学に関わる家の御令嬢として育ってきたのでしょう。

珠世のように、女医として歩めたかもしれない。

その夢が絶たれたからこそ、『キメツ学園!』で学ぶ姉妹の姿がまぶしく思えます。

 


心を開きたいカナヲ

胡蝶姉妹に救われ、継子となったカナヲ――。

そんな彼女は、ニヒル、ミステリアスであるとされます。

アルカイックスマイルを浮かべ、自分の意見をはっきり言わない。コイントスで決めてしまう。確かに個性があります。

辛い幼少期のトラウマ由来なのか?

それとも生まれつきなのか?

カナヲの言動を見ていると、本人も好きでそうしているわけではなく、どうしたらよいのかわからない戸惑いを感じます。

ずば抜けて性格がキラキラしていて、時にまぶしいほどの炭治郎だから、そんな彼女の心をすくいとれました。

カナヲを漫画やアニメで見ているぶんには、魅力的かもしれません。

けれども、学校や職場で彼女のような誰かと出会ったとき、拒絶していなかったか、そこを考えて欲しいとも思います。

ニコニコしているけれど、雑談をできそうな気がしない。何を考えているのかよくわからない。嫌なことがあっても何も言ってくれないような……。

自分の考えを出せない。意図的に我慢しているというより、出し方すらわからない。

心を開けたのは、前述の通り、炭治郎あってのこと。

「なんかあの子、感じ悪いよね」

「つまんなーい」

そう言わずに、彼女のような誰かの意見に耳を傾けて欲しいと思います。話してみれば、良い人かもしれないのだから。

『鬼滅の刃』には特徴があります。

周囲にいたらめんどくさそうだな……このひと友達少なそうだな……ぼっちゴハン食べてそう……(義勇は実際にそうでしたっけ)。

そういう人だって、偏見を捨てて心を開けば、友達になれるかもしれない。

そう促すのだから、本作は優秀で考えさせられます。

カナヲの対比としては、アオイがいると思います。

アオイはビシビシと指摘してくる、正反対の性格です。善逸ですらちょっと苦手、そんな仕切り屋。

どちらがよいか、それは人それぞれ。個性もいろいろあります。

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