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【北条氏綱】
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関東管領と鶴岡八幡宮で格式も手にする
関東最大の大名に成長した北条氏。
その実力に呼応する形で権威を獲得していきます。
まず、小弓公方足利氏を滅ぼしたことで古河公方の後ろ盾となっていた北条氏綱は、晴氏より最高級の名誉職と化していた「関東管領」に任命されました。
この時点で関東管領は山内上杉氏の上杉憲政が務めていたので、「二人の関東管領が存在する」という先例のない事態を迎えます。
常識からしてありえない。
しかし、関東管領という地位は公認されていき、北条氏は代々「管領家」を名乗ります。
さらに氏綱は、娘を晴氏の正室とすることで古河公方足利氏と外戚関係も築き、北条氏はなんと
【足利将軍家の御一家】
という地位まで獲得するのです。
これは関東足利氏の中でも最も格式高い身分に相当し、古河公方足利氏に次ぐものと考えられました。
相模入国直後は「いけ好かないよそ者」として蔑まれていた伊勢氏。
彼らが「北条」の姓を名乗った頃には「お前らが北条氏?冗談もほどほどにしてくれよ…」と笑われていたことでしょう。
しかし、実力をもってそうした声をかき消していった北条氏綱が関東管領に就任するころになると、もはやこれを妨害できる勢力は存在しなくなっていました。
ここまで見てきた氏綱の権力は、天文9年(1540年)の鶴岡八幡宮修造事業をもって対外的に示されることになります。
源頼朝以来「東国のシンボル」として知られていたこの寺をほぼ独力で造営し、彼らこそが相模の支配者――ひいては東国を代表する勢力である!と象徴されたのです。
支城制の導入や積極的な人材登用
後北条氏と言えば、従来は、北条氏康にスポットが当てられがちでした。
というのも氏康は、河越城の戦い(河越夜戦)で数倍の大軍に撃ち勝ち、武田信玄や今川義元とは【甲相駿三国同盟】を成立。

今川義元(左)と武田信玄/wikipediaより引用
さらには上杉謙信ともバチバチにやりあい、戦国ファンの心を熱くさせてきました。
しかし、こうして見ていると、氏綱の時代に関東覇権の基礎ができたことがご理解いただけるでしょう。
北条氏綱は【支城制の採用】という強固なシステムも確立させたのです。
関東の大半を手中に収めていた北条氏は、その急速な発展に伴う領国支配のあり方を抜本から見直さなければなりませんでした。
そこで氏綱は、郡や領という単位で支配の拠点となる城を設け、ここを「支城」と呼称して、担当者にその地域の支配や軍事動員を行わせました。
支城を任された人物は一門や重臣クラスの家臣たちであり、若手を含めて積極的な人事登用を図ることで一族全体を強化したのです。
特に玉縄城を任された玉縄北条氏の活躍は目まぐるしく、領国支配の要として成長しました。
「勝って兜の緒を締めよ」
かように軍事面・内政面での支配を固めていく北条氏綱でしたが、天文10年(1541年)頃から体調を崩すようになります。
この頃にはまだ頼りない次期君主と見なされていた氏康に対し「五箇条の覚書」を与えました。

北条氏康/wikipediaより引用
内容を要約してまとめますと……。
一、義理を重んじること
二、家臣から百姓までに気を遣い、適材適所で用いること
三、家臣はおごらずへつらわず、分相応の振る舞いをしているのがよい
四、倹約を心がけること
五、勝って兜の緒を締めよ
今も名言として知られる
「勝って兜の緒を締めよ」
は氏綱の言葉だったんですね。
上記の覚書を残してから数か月後。
北条氏綱は55歳の生涯を終えました。
父の宗瑞や息子の氏康に比べて地味な存在かと思われがちですが、血生臭い戦場を生き抜いた「理想的な二代目」は、後北条氏を誰もが認める「北条家」へと確立させたのです。
以下に関東での覇権を確立した息子・北条氏康の人物伝がございますので、よろしければ併せてご覧ください。
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文:とーじん
【参考文献】
『国史大辞典』
黒田基樹『戦国北条家一族事典(戎光祥出版)』(→amazon)
黒田基樹『戦国北条五代(星海社)』(→amazon)