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【槍で左胸を突かれて会話できる?】
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全身に血液を送る左心室が左下にやや突出
死刑執行役のモブ兵士から直虎が槍を奪い取ると、左胸にズブリ!
これで心臓一突きだから即死だろう! 話すヒマなんてなかろう――と、ヒネくれ者の担当編集サンは思ったワケです。
しかし!
ドラマで直虎と政次が会話できたのは、チャンチャラおかしい設定でもないのです。
実を申しますと、心臓は左胸にあるわけではありません。
胸腔のほぼ真ん中に位置し、全身に血液を送る左心室が左下にやや突出している形となります。
直虎が政次を刺すシーンを見ると、左胸を外側に向けて突いております。
私の推測ですが、
「心臓を突いてはいない!」
のでは?
仮に、槍が左心室へジャストミートした場合、おそらくショックで血圧が低下し、意識もスグに飛んでしまうでしょう。
では、直虎は一体どこを刺したのでしょうか?
ヒントは口から「喀血」しているところです。
あの部分を槍で刺され、消化管から出血しての吐血は考えにくいです。
なので、おそらくは肺を損傷して気管支に血が入り、それが咳反射でゴボッと出てきたのではないでしょうか。
死因は、肺からの出血による窒息か、あるいは『外傷による気胸』+肺損傷かなぁ、と。
喋る(呼吸する)に従い、どんどん弱っていく
胸腔というのは通常の状態で陰圧に保たれております。
ここにどこかから空気が入り込むと肺がぎゅぎゅっと押されて縮こまります。
これが「気胸」です。
こうなると肺が虚脱してしまい、呼吸困難に陥ります。
槍で刺されることが原因で胸壁が破れ、開放性気胸を起こしたとすると、その症状は呼吸運動により強まる胸の痛み、息切れ、呼吸困難などを引き起こします。
開放性気胸の中で、外からの空気は入りますが、胸郭の外へ空気が出行かない状態(チェックバルブ様)になってしまうんですね。
こうなると外側の空気に押されて肺がどんどんしぼみ、心臓を圧迫、更に進むと血圧低下やショック症状を起こします。
喋る(呼吸する)に従い、どんどん弱っていく政次の姿と一致しませんか?
唇が紫色になっているのも呼吸がうまくできずに、動脈血の酸素飽和度が低下し、チアノーゼを起こしているからだと考えます。
以上をまとめますと、槍が突いたのは心臓ではなく肺。
だから喀血。
その際に胸郭に穴も開くので開放性気胸を発症。
経過が重篤なことから、創部はチェックバルブ様になり重篤な気胸(緊張性気胸)を発症していることでしょう。
かなり専門的な解説になって申し訳ありません。
最終的にドラマの小野政次は、緊張性気胸による心臓の圧迫が原因でショックを起こし、加えて肺損傷や出血も伴って死亡した可能性が考えられます。
これならば多少しゃべる時間があっても矛盾はないかと思います。
とまぁ、色々と理屈をコネさせていただきましたが、このドラマ、要は面白い――それでいいのではないでしょうか。
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文/馬渕まり(忍者とメガネをこよなく愛する歴女医)
本人のamebloはコチラ♪
◆拙著『戦後国診察室2』を皆様、何卒よろしくお願いします!
【参考】
日本救急医学会(→link)
胸腔/wikipedia
Yahoo!ヘルスケア(→link)
恩賜財団済生会(→link)