大河ドラマ『どうする家康』で、瀬名のもとに現れた謎の唐人医・滅敬。
その正体は武田家の重臣・穴山信君(穴山梅雪)でした。
穴山信君は、信玄の娘を正妻に娶るほど武田家では重んじられた一族の一人ですが、それがいったい滅敬とは何事なのか?
実在する人物を穴山信君とダブらせたのか、あるいはオリジナルキャラなのか、気になっている方も少なくないでしょう。
滅敬について考察してみましょう。
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名前も複数の説がある滅敬
大河ドラマ『どうする家康』は、実在したのかしないのか、存在のあやふやな人物を重要場面で出す特徴があります。
顕著な前例が望月千代女をモデルにした千代です。
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望月千代女は史実ではかなり怪しげな人物ですが、こうした架空のキャラクターを物語に登場させることは悪いことではありません。
過去には『三姉妹』や『獅子の時代』など、主人公が架空の人物だったこともあるほどです。
では滅敬はどんな存在なのか?
まず、この人物にはいくつかの名前があり、「けい」という発音で終わることは共通しています。
・滅敬
・減敬
・西慶
聞き間違いが当て字が複数あったのでしょう。
『どうする家康』では「滅敬」であるため、本稿はこちらで進めます。
滅敬とは何者なのか?
彼は「正体不明」です。
甲州浪人とも、唐人医(中国人医師)ともされ、よくわからない。
『どうする家康』では、武田と築山殿を結ぶ謎の人物として登場しました。
連絡役として口寄せ巫女もいたとされることから、ドラマでは滅敬と千代をコンビで登場させたのでしょう。
性的な醜聞は悪女を強調するせいか、滅敬と築山殿についていえば、この二人は密通していたという記述すらあります。
『どうする家康』では、ナレーターが講談師を真似て「神の君」と裏声で叫びます。
本来の神の君とはもっと重々しいはずで、そんな人物が正室と嫡男を殺したとなると都合が悪い。そこで、殺された側が悪いとするために色々と誇張されたとは考えられます。
隣国である中国の場合、前王朝の歴史は次の王朝が史書に記載します。
史官が何かを配慮して記載しても、注釈によって異議が唱えられることも多い。正史『三国志』は裴松之による注があってこそのものとされています。
築山殿の場合、江戸時代を通して弁護する立場の人はいません。
この話は謎の人物と密通するということがおもしろおかしく誇張され、フィクションではどぎつい扱いもされてきました。山田風太郎『信玄忍法帖』がその代表格でしょう。
そんな訂正されぬ悪女伝説に挑んだのが『どうする家康』――と言いたいところですが、果たしてそう褒められるのかどうか。
穴山梅雪は、そんな余裕があるのか?
『どうする家康』の武田家臣団は、なぜ、ああもスカスカなのか?
武田二十四将全員は無理でも、せめてもう少しどうにかならないのか?
武田ファンであれば、そんな嘆きはあるかと思います。
圧縮された武田家臣団で目立つレギュラーの位置にいるのが千代と穴山梅雪。山県昌景は【長篠の戦い】で討死を遂げました。
千代は実在したかどうかも怪しいだけでなく、忍びというポジション。
穴山梅雪は、武功がそれほど際立つわけでもありません。むしろ武田本家と近い御一門であり、家格もプライドも相当高い人物です。
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そんな彼がよりにもよって怪しい変装をして、わざわざ築山殿と密会するのでしょうか?
ただでさえ【長篠の戦い】のあと、武田家は大変な状況だというのに。
史実をたどると、ますます混乱してきます。
『どうする家康』では、築山殿と信康は織田信長の命令で誅殺されることになります。
その原因は、信康の正室である五徳が、滅敬らと密通する瀬名の言動を密告したことにあります。
いわば、滅敬=穴山梅雪が築山殿の死因となるわけです。
しかし、史実をたどりますと、徳川家康は穴山梅雪を厚遇しています。寝返ることと引き換えに、武田本家を継がせようとしていたのです。
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梅雪の実子が夭折すると、自らの五男・信吉を後継に立てようとしましたが、信吉の死により実現しませんでした。
こうして考えてくると、矛盾が起きます。
ドラマ上の設定では最愛の妻・瀬名(築山殿)の死をもたらした穴山梅雪。そんな彼を厚遇する家康――。
しかも、築山殿の死後たった悪評に対し、それを防ぐ何の対策もしていないように思えます。
『どうする家康』のみどころとして喧伝される瀬名への愛とは、いったい何なのか。そこがわからなくなってきました。
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