英国ドラマ『ウルフ・ホール』レビュー

英国ドラマ『ウルフ・ホール』/amazonより引用

歴史ドラマ映画レビュー

世界史の勉強にも役立つBBC作品|英国ドラマ『ウルフ・ホール』レビュー

2021/05/05

イギリス史上、最も人気のある国王は誰なのか?

そう問われたら、なかなか難しいものがあります。

大英帝国全盛期を築き上げたヴィクトリア女王なのか?

ヴィクトリア女王
大英帝国全盛期の象徴・ヴィクトリア女王 どんな女性でどんな功績が?

続きを見る

それともエリザベス2世なのか?

 

あるいは同じエリザベスでも1世の方っていうチョイスも?

 

人それぞれ基準はありましょう。

ただ、これが「ネタとして出てくる王様といえば誰?」と問われたら、やはりあの方。

ヘンリー8世でしょう。

ヘンリー8世
ヘンリー8世の離婚再婚離婚再婚でグダグダ|イングランドの宗教改革500年

続きを見る

結婚のためにかなんだか知らんけど、結果的に宗教改革をして、6人の王妃がいた。

そのうち2人を斬首している。

あまりにひどい!

と、人間的には無茶苦茶ですが、ネタとしては最高なんですね。

そんなわけでやたらと映像化されており、今回はその一つ海外ドラマの傑作『ウルフ・ホール』をプッシュしてみたいと思います。

※アマゾンプライムで無料(→link

基本DATAinfo
タイトル『ウルフ・ホール -愛と陰謀のイングランド』
原題Wolf Hall
原作ヒラリー・マンテル
『ウルフ・ホール』(→amazon
『罪人を召し出せ』(→amazon
放送話数シーズン1、エピソード4(エピソード数は編集によって異なる)
制作年2015年
制作国イギリス(BBC)
舞台イギリス、ロンドン
時代1530年代(16世紀)
主な出演者マーク・ライアンス、ダミアン・ルイス、クレア・フォイ、マーク・ゲイティス、トム・ホランド、ハリー・ロイド
史実再現度最新の研究に基づいて、かなり真面目に作っています
特徴教材に使えるくらい上出来です。流石BBC
amazon視聴アマゾンプライムで無料(→link

 


勉強に使えるくらい真面目です

人気があるだけに作品も多いヘンリー8世。

そんな中でも最新にして、一番真面目な出来であるのが『ウルフ・ホール』です。

BBC制作ですので、うっかりミスをしようものなら「公共放送が何をしているのか!」とガンガンにクレームが入りまくる。

この時点で、極めて真面目に作ることが想定でき、さらにはキャストも似ていて面白い。

実は、ヘンリー8世の時点で、キャスティングがかなり難しいのです。

肖像画だとわかりにくいのですが、史実の彼は、祖父のイケメンプレイボーイ・エドワード4世を彷彿とさせる赤毛の美少年でした

アレクサンドル国王とドラガ王妃
銃撃の上にメッタ刺し|なぜ美しきシンデレラ「ドラガ」は虐殺された?

続きを見る

それが中年以降、ふくよかになり……なんかゲスっぽい容貌になっていく。

難しいんですね。

彼を描くとなれば、繰り返されるロマンス、結婚、悲惨な破局は欠かせない。

ならばイケメンにするか?

というと徐々に史実からかけ離れてしまい、一体どこに着地すべきなの?という葛藤があった。

過去には、ウケ狙いでイケメンにしちゃえ……という流れはありました。

『TUDORS』(2007-2010年、ジョナサン・リース=マイヤーズ)

 

『ブーリン家の姉妹』(2008年、エリック・バナ)

 

そして本作『ウルフ・ホール』でヘンリー8世を演じるのはダミアン・ルイス。

これがかなりいい線をいっていて、史実に近いキャスティングを探ったのがわかります。この一点だけでも素晴らしいものがある。

アン・ブーリンも、これまた難しかった。

妖婦風か?

賢い美女か?

彼女も当時の文献に「あんなイケてない女にメロメロになるもんかな?」と書かれているような史実があり、これまた難しいものでした。

それが本作のクレア・フォイは、肖像画に近いのです。

『TUDORS』のナタリー・ドーマーは名演でしたが、肖像画により近いのはこちらのクレア・フォイ。

そういう歴史系要素を抜きにして、キャストだけ眺めるにしても価値アリ。

マーベルユニバースでおなじみのトム・ホランド、『SHERLOCK』のマーク・ゲイティス、『ゲーム・オブ・スローンズ』のハリー・ロイドが見られるのです贅沢です。

 


教材として抜群の完成度

本作は、息抜きしながら歴史の勉強をしたい――そんな学生にもお勧めできる作品です。

ヘンリー8世ものの難点は、ロマンス重視だと漏れなく18禁になる点でした。

歴史を題材にしたソープオペラに吹っ切った『TUDORS』は、そのあたりが顕著。衣装も時代考証より見栄え重視で、ちょっと派手なものが多かったのです。

その点、本作は際どい台詞はあり、姦通だのなんだのモヤモヤした場面はあるものの、エロという点では安心です。グロという点でも、若干の流血と斬首はあるものの、そこまででもありません。

世界史の授業で先生が流しても、まずクレームはつかない。それどころか、細かいところでも勉強になりまして。

例えば衣装やヘアメイクもそうですね。

本作の上流婦人たちは、髪の毛をおろしたスタイルにしていません。まとめてベールを被せてあります。

長い髪の毛はまとめる国と地域がむしろ多数であったものですが、見栄えのためにおろすことが多い。その点、本作は真面目です。

食事の場面にしても、ナイフとフォークはなく、手掴みで食べています。

こう書くと「どういうことなのか……」と驚いてしまうかもしれませんが、見てくださいとしか言いようがありません。これはこれで、理にかなっていてマナーがある食べ方です。

当時は、イギリス料理がまずいと言われる前の時代です。ヨーロッパの大半の国がこんなものでした。

イギリス料理はマズイ
イギリス料理はマズイと小馬鹿にするとブーメラン|大英帝国の食文化

続きを見る

イタリアの豊かな料理が婚姻関係を通してフランスに伝わり、宗教改革でカトリックとプロテスタントに分かれて、格差が生じるのはこの先のこと。

食事の場面一つとっても、実に興味深く、勉強になるのです。

 

イングランドの下剋上

勉強になるといえば、主役がトマス・クロムウェルである点も注目したいところです。

貧しい鍛冶屋の息子として生まれ、フランスに渡り、兵士や様々な職業を経て、知識を身につけたクロムウェル。血筋ではなく、その才能と知識によって、国王の寵臣となっていく。

その様は、まさしくイングランドの下剋上といった趣きがあります。

劇中では、鍛冶屋時代はちょっと回想シーンが挟まるだけ、あとはセリフで処理されております。

彼自身が自重的に語る場面もあるにせよ、大半は貴族や名門出身者がバカにするように語る。

クロムウェルは賢く、謙虚で、悪人には見えません。それなのに、あやしげて、成り上がって、よくわからない狡猾な男として、常に冷たい目にさらされているように描かれています。

これが彼を主役としたおもしろさであると思えます。

16世紀、日本ならば戦国時代です。

日本でもこの頃には、油売りの息子である斎藤道三が成り上がったり、これまた出自が怪しい松永久秀が知識とセンスを見せつけていたりして、下剋上を体現していたわけです。

斎藤道三の肖像画
斎藤道三の生涯|二代に渡る下剋上で国盗りを果たした美濃のマムシ63年の軌跡

続きを見る

松永久秀像(高槻市立しろあと歴史館蔵)
信長を2度も裏切った松永久秀は梟雄というより智将である 爆死もしていない

続きを見る

中国でも、商人の息子だろうが知識と頭の回転があれば科挙合格を狙えた時代でした。

文徴明&唐寅
文徴明と唐寅は科挙に落ちても人生エンジョイ!中国蘇州の人気者だった

続きを見る

そういう時代を変えるような人物が、どれだけ偏見や差別にさらされたのか?

日本のものであれば大河ドラマ。イングランドならば本作。重ねて見るとおもしろいものが見えてきます。

クロムウェルは、斎藤道三や松永久秀ほど悪い扱いをされていない?

それはどうでしょう。ヘンリー8世ものですと、腹黒く悪どい奴として描写されがちです。

同じトマスでも、トマス・モアとは正反対。

※1966年『わが命つきるとも』はトマス・モアを描いた映画

ウルジー枢機卿よりもなお、悪どい。

その理由とは?

本作のクロムウェルは、家庭ではよき夫であり父であり、蹴落とした政敵に同情心を見せる、良識ある人物に思えます。

それでも、彼が推し進めたアン・ブーリンを王妃にすることと、その失墜は悪い。確かにそうですが、彼があくまで国王の懐刀として意に沿っただけとも言えます。

トマス・モアやウルジー枢機卿と違い、クロムウェルは時代を変え、宗教改革の原動力となった。

偏見を跳ね除け、下剋上を果たし、時代を変える。そういう人物が足をすくわれ、悪党とされることは、東西同じかもしれない。そんな苦い感慨が湧いてきます。

とはいえ、それにしては中途半端であるのです。

 


転落までは描かれていない

本作の欠点は、シーズン1だけでは中途半端なところでして。

ブーリン姉妹を描いた『ブーリン家の姉妹』ならば、本作とほぼ同じ時点での終結でも問題はない。

『TUDORS』は、6人目の王妃まで描いている。

ところが、本作はクロムウェルが主役であるのに、彼の人生における転落までは描かれていないのです。

シーズン1ではなく、2以降もあるのだろうとは思われます。原作も続きがあり、BBC側もそう発表しております。

第73回ゴールデン・グローブ賞作品賞ミニシリーズ・テレビ映画部門を受賞し、評価は高い。

とはいえ、ちょっと空きすぎている感覚はある。

どうなっているのか?
調べているところ、一応、続きはあるとされているものの、製作は開始されておりません。

2020年の世相変化を踏まえるとどうなるのか――はっきり断言できないところがあります。

完結済みの『TUDORS』の方がスッキリさっぱりできるんじゃないの?

そういうモヤモヤ感はある。

本作は勉強になることは確かだけれども、その分難易度が高く、地味で、派手さはあまりないかもしれない。

こうした要素のため、勧めにくいシリーズではあります。

それでも、このテーマでこの出来はトップクラスであることは確か。世界史の勉強のためにも、ぜひご覧いただければと思います。

先が気になるようであれば、原作を読むことをお勧めします。こちらも傑作です。

映画も書籍もamazonからご利用いただけます。

【BBCドラマ】
『ウルフ・ホール』
アマゾンプライムで無料(→link

【原作】
ヒラリー・マンテル
『ウルフ・ホール』(→amazon
『罪人を召し出せ』(→amazon


あわせて読みたい関連記事

英国王のスピーチ
映画『英国王のスピーチ』ジョージ6世に娘のエリザベス女王2世は?

続きを見る

嘆きの王冠 ホロウ・クラウン
イギリス人は王室をどう思っているか?『ホロウ・クラウン』を見ればわかる

続きを見る

ヴィクトリア女王
大英帝国全盛期の象徴・ヴィクトリア女王 どんな女性でどんな功績が?

続きを見る

ヘンリー8世
ヘンリー8世の離婚再婚離婚再婚でグダグダ|イングランドの宗教改革500年

続きを見る

アレクサンドル国王とドラガ王妃
銃撃の上にメッタ刺し|なぜ美しきシンデレラ「ドラガ」は虐殺された?

続きを見る

TOPページへ


 



リンクフリー 本サイトはリンク報告不要で大歓迎です。
記事やイラストの無断転載は固くお断りいたします。
引用・転載をご希望の際は お問い合わせ よりご一報ください。
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

-歴史ドラマ映画レビュー
-

右クリックのご使用はできません
目次