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イングランドの下剋上
勉強になるといえば、主役がトマス・クロムウェルである点も注目したいところです。
貧しい鍛冶屋の息子として生まれ、フランスに渡り、兵士や様々な職業を経て、知識を身につけたクロムウェル。血筋ではなく、その才能と知識によって、国王の寵臣となっていく。
その様は、まさしくイングランドの下剋上といった趣きがあります。
劇中では、鍛冶屋時代はちょっと回想シーンが挟まるだけ、あとはセリフで処理されております。
彼自身が自重的に語る場面もあるにせよ、大半は貴族や名門出身者がバカにするように語る。
クロムウェルは賢く、謙虚で、悪人には見えません。それなのに、あやしげて、成り上がって、よくわからない狡猾な男として、常に冷たい目にさらされているように描かれています。
これが彼を主役としたおもしろさであると思えます。
16世紀、日本ならば戦国時代です。
日本でもこの頃には、油売りの息子である斎藤道三が成り上がったり、これまた出自が怪しい松永久秀が知識とセンスを見せつけていたりして、下剋上を体現していたわけです。
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中国でも、商人の息子だろうが知識と頭の回転があれば科挙合格を狙えた時代でした。
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そういう時代を変えるような人物が、どれだけ偏見や差別にさらされたのか?
日本のものであれば大河ドラマ。イングランドならば本作。重ねて見るとおもしろいものが見えてきます。
クロムウェルは、斎藤道三や松永久秀ほど悪い扱いをされていない?
それはどうでしょう。ヘンリー8世ものですと、腹黒く悪どい奴として描写されがちです。
同じトマスでも、トマス・モアとは正反対。
※1966年『わが命つきるとも』はトマス・モアを描いた映画
ウルジー枢機卿よりもなお、悪どい。
その理由とは?
本作のクロムウェルは、家庭ではよき夫であり父であり、蹴落とした政敵に同情心を見せる、良識ある人物に思えます。
それでも、彼が推し進めたアン・ブーリンを王妃にすることと、その失墜は悪い。確かにそうですが、彼があくまで国王の懐刀として意に沿っただけとも言えます。
トマス・モアやウルジー枢機卿と違い、クロムウェルは時代を変え、宗教改革の原動力となった。
偏見を跳ね除け、下剋上を果たし、時代を変える。そういう人物が足をすくわれ、悪党とされることは、東西同じかもしれない。そんな苦い感慨が湧いてきます。
とはいえ、それにしては中途半端であるのです。
転落までは描かれていない
本作の欠点は、シーズン1だけでは中途半端なところでして。
ブーリン姉妹を描いた『ブーリン家の姉妹』ならば、本作とほぼ同じ時点での終結でも問題はない。
『TUDORS』は、6人目の王妃まで描いている。
ところが、本作はクロムウェルが主役であるのに、彼の人生における転落までは描かれていないのです。
シーズン1ではなく、2以降もあるのだろうとは思われます。原作も続きがあり、BBC側もそう発表しております。
第73回ゴールデン・グローブ賞作品賞ミニシリーズ・テレビ映画部門を受賞し、評価は高い。
とはいえ、ちょっと空きすぎている感覚はある。
どうなっているのか?
調べているところ、一応、続きはあるとされているものの、製作は開始されておりません。
2020年の世相変化を踏まえるとどうなるのか――はっきり断言できないところがあります。
完結済みの『TUDORS』の方がスッキリさっぱりできるんじゃないの?
そういうモヤモヤ感はある。
本作は勉強になることは確かだけれども、その分難易度が高く、地味で、派手さはあまりないかもしれない。
こうした要素のため、勧めにくいシリーズではあります。
それでも、このテーマでこの出来はトップクラスであることは確か。世界史の勉強のためにも、ぜひご覧いただければと思います。
先が気になるようであれば、原作を読むことをお勧めします。こちらも傑作です。
映画も書籍もamazonからご利用いただけます。
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)