英国王の興亡を描いたシェイクスピア歴史劇がBBCでドラマ化されています。
タイトルは『嘆きの王冠 ~ホロウ・クラウン~』(→amazon)。
まんま翻訳すると『空虚な王冠』です。
自国王の冠を「ハァ……、虚ろな冠だわ……」って宣言するとは何事なのか?
イギリス人は何を考えているのか。
しかしこのドラマは、紛れもなく傑作だったりするのが恐ろしい。
今回は、そんなドラマの元ネタと、イギリス人の王家に対する態度をちょっと考察してみましょう。
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BBC『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』かけたるで〜
そもそもBBCはじめイギリス人は、王家をどれだけ尊敬しているのか?
まずはこのニュース。
「EU離脱も決まったし、国歌『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』をかけろや」と愛国政治家に迫られたBBC。
「せやな。ええ、かけますよ」
と堂々と続けたのが
「セックス・ピストルズ版をな」
というセリフでした。
◆「EU離脱を記念し、イギリスを取り戻すため放送終了時に国歌を流すべき」と保守政治家に要求されたBBCの返礼が最高にパンク(→link)
この程度ならマシかもしれません。
いや、マジでそうなんです。
BBC勤務経験もあるモータージャーナリストのジェームズ・メイは、『グランド・ツアー』という番組で女王役を救出するスタントで、その女優を射殺する動きを見せました。
で、メイ曰く。
「ぼくはアンチ王室、共和主義者だ」
ハハハハ、ブリティッシュ・ジョークだね――という番組の流れでしたが、見ているこちらが冷や汗ダラダラでした。
◆The Grand Tour presenters rescue 'the Queen' from hostage situation in episode two(→link)
こうした王室への態度温度差が、日英間で問題になったこともあります。
◆サルの名前は結局「シャーロット」、批判多数も英国王室の「お許し」が決め手に(→link)
2015年、大分市の高崎山自然動物園が、誕生したばかりの赤ちゃん猿に「シャーロット」と命名。
英王室の王女にちなんだ名前だったので、日本人から「失礼な!」という声があがりました。
東洋では、皇帝や主君の諱を避けるものです(避諱)。
しかし、西洋、イギリスにはそんな風習はないわけです。
「え、むしろ日本の動物園、粋な計らいだよ」あたりが、イギリス側の妥当な反応ではないでしょうか。
イギリス王室は「サルにどんな名前をつけるのかは、動物園の自由です」とコメント。
問題は解決し、シャーロットと決まりました。
◆シャーロットちゃんのウワサ|スタッフブログ|高崎山自然動物園(→link)
無事に美女サルへと成長。
要は【王室だからって別にタブーにしない感】を炸裂させているのが『ホロウ・クラウン』なのです。
ではドラマの見せ場はどんなところなのか?
ざっと紹介しましょう。
『リチャード二世』イケメンだけど、王は弱かった
リチャード2世は、百年戦争の伝説的英雄エドワード黒太子の子です。
ただし、父譲りの強さはなく、華麗で軽薄――そういう人物でありました。
百年戦争はなぜそんな長期間も続いたのか? 英仏の複雑な関係と歴史まとめ
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「イケメンだけど迂闊な王」は、政敵になりうる従兄弟のヘリフォード公ヘンリー・ボリングブルックに理不尽な処罰をしてしまい、ヘンリーが地位回復のため王冠まで奪ってしまう。
そういうお話です。
正直なところ、このリチャード2世は迂闊です。そこは歴史通り。
ただ、圧倒的に優美で、王冠には青と赤の宝石、真珠がキラキラと輝いています。
※The Hollow Crown: Shakespeare's Richard II | Great Performances | PBS
ベン・ウィショー扮する圧倒的に美しい王。
これに対して勝負を仕掛けたヘンリーが、
「え、マジで俺、王冠簒奪しちゃうの? このイケメンから、こんなゴツい俺が?」
と戸惑う演技がみどころ。
王冠は美しく、被る王も美しすぎて、思わず引いてしまう――そんな美男のリチャード2世を、乗りに乗ったベン・ウィショーが演じているのですから、傑作に決まっています!
『ヘンリー四世第一部』うつけ王子、酔っ払いと遊ぶ
本作は、イケメンのリチャード2世から王位を奪ったヘンリー4世が主役。
生真面目な彼は、王位簒奪を未だに悩んでおります。
息子のヘンリー王子がうつけ。
遊び回ってどうしようもないのも、自分が王位を奪ったゆえの「罰」かと悩んでいるほどです。
貴族の反乱にも頭を抱えます。
※The Hollow Crown: Shakespeare's Henry IV, Part I | Great Performances | PBS
本作は、父より子のヘンリーが目立ちます。
ヘンリーは、シェイクスピア劇でも有名なコメディキャラ・フォールスタッフと飲んだくれては暴れている、うつけなのです。
※「みんな俺を馬鹿だと思っているけど、そのほうが覚醒してからスゴイんだよ」という有名なモノローグ
このうつけ王子が、反乱軍のホットスパーを撃破し、父王を感服させるまでが、本作です。
父王はジェレミー・アイアンズ。
息子王子はマーベル映画でロキを演じ、人気絶頂のトム・ヒドルストンです。
ホットスパー夫人は、『ダウントン・アビー』で人気のミシェル・ドッカリー。
うつけ王子が本気を出すプロットは、織田信長のようで日本人にもわかりやすく、受けるはず。
フォールスタッフのユニークな掛け合いも、かなり笑えます。
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