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【実写版映画『ゴールデンカムイ』レビュー】
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実写映画にする意味はあるのか?
こんな風に肯定していると、かえって疑念を持つ方もおられるかもしれません。
だったら原作あるいはアニメで十分じゃないの?
と、その答えも、本作は用意しています。
私が個人的にがっかりさせられる近代ものの点として、衣装の再現度があります。
特に軍服となると難しく、まずウールの質感の時点でがっかりさせられることも少なくありません。
しかし本作は、むしろ再現度が高すぎるかもしれない。原作そのままのアクションをすると、ウールの軍服であの動きができるだろうかと心配になってしまうほどでした。
銃器や刀剣の質感も重々しく、これで刺して切ったら死傷するとわかるところが素晴らしい。
鶴見が銃を構えている時点で、映画館に来ただけのことはあったと満足できました。
拳銃にしては殺傷力と命中率が高いうえに、片手で構えている割には命中率が高すぎますが、それは原作準拠ですから。
武器といえば、アイヌ毒矢の実写が見られたことも眼福の極みでした。
あの毒の丸薬が、鏃に詰められている様が、アップになってじっくりとみられるのです。本当に素晴らしいことです。
『ゴールデンカムイ』アシㇼパさんはなぜアイヌの弓矢にこだわるのか
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質感といえば、アイヌの刺繍を実写で見るだけの意味があります。
絵やアニメだと、あの立体感はどうしても伝わりにくいが映画ならばわかる。改めてアイヌの刺繍は美しいと思えました。
博物館などで現物を見たことはあります。
それでも、実際に身につけた姿は格別です。
アイヌのコタンで人びとが暮らす場面は、見ていると胸が熱くなるような感慨がありました。
エンドロールを見ると、アイヌ工芸を手掛ける多くの方の名前が見られます。本物の持つ魅力がスクリーンに広がる理由も納得できたものです。
『ゴールデンカムイ』関連グッズは、アイヌ紋様がプリントであることがほとんどでした。
仕方ないとはいえ、あの緻密な美しさとは何かが違う。そんな不満点が解消される大きな一歩と思えました。
そして北海道の大自然です。
雪国の景色は、やはり冬が最も厳しく美しいもの。その雄大な自然を背景にしているからこそできる場面ばかりでした。
ただし、そのせいでリアリティラインが上がってしまい、この状況ではさすがに凍死するのではないか?と思える場面が多くなってしまったのは、仕方のないことではあるのでしょう。
漫画を実写化することで吹き込まれる命はあります。
映画『ゴールデンカムイ』には、確かにそんな命のきらめきが随所にありました。
ミスキャストが一人もいない
本作は原作単行本4巻あたりまでとなります。
第七師団は鶴見以外、顔見せ程度と考えておきましょう。
杉元とアシㇼパの出会いと金塊探しに旅立つまでが描かれ、この二人のキャストと演技は、問題がないと思えます。
原作通りに丁寧にこなしていくからこそ、こうも漫画原作主演が多いとわかる山崎賢人さん。
難役を丁寧に挑んでいく山田杏奈さん。とても誠意をこめて丁寧に演じていると思えるのですが、良くも悪くもそこまでともいえる。
それが変わって滑らかに動き出すには、後半に出てくる白石が重要な役割を果たします。
この映画については、不満点がないとはいえない。
しかし、白石のことを思い出すと、どうでもよくなってしまう。
白石を見るだけでも、映画館に行く価値があるともいえる。矢本悠馬さんは外すことのないバイプレイヤーだとは以前から思っておりましたが、その実力がこれほどまでとは思いませんでした。
原作通りのようでちょっとはみ出す。
明治末落伍者が持つ嫌なリアリティがある。
見ながら自然とこう思ってしまいました。
「『仁義なき戦い』のリメイクを作るなら、川谷拓三さんの役は矢本悠馬さんしかいないな」
これは私のあくまで趣味なのですが、傑出した役者を見ると『仁義なき戦い』リメイク版に指名したくなります。
川谷拓三さんというのは、二枚目でもなく、ちょっと抜けていて、それでいて素晴らしい味がある。
そして見ているだけで微笑みたくなるような、見るものから心の暖かさを引き出すような名優です。
こう説明すると人情派のようで、ヤクザ映画では大抵酷い死に方をする役回りをつとめます。そんな往年の名脇役を思い出しました。
この1970年代感覚を醸し出す俳優が、もう一人おります。
尾形役の眞栄田郷敦さんです。
尾形は原作通り、初登場時に杉元と戦い、敗北して川に転落します。
その戦闘シーンは、なんて卑劣な尾形なのかと思いました。
何が卑劣かというと、狙撃手という遠距離では無双の戦力を誇るキャラクターでありながら、実写になると接近戦でも異常に強いオーラがヒリヒリするほど放たれていたのです。只者ではありません。
見ながら思わず「どうしてこれで杉元が勝てるんだよ!」と言いたくなりました。
いや、山崎さんのせいではありません。眞栄田郷敦さんが強すぎるんですね。
そしてこれは既視感があると、川に転げ落ちた尾形を見て思いました。
70年代の香港映画には、倉田保昭さんという名優がおりました。
顔もいい、アクションもできる。けれども当時の香港映画は、日本人には悪役を演じさせたいもの。そのため彼はずっと倒され続けました。
主役より強そうなのに、どうして彼が負けるんだろう。只者ではないオーラがあるのに……そう、この感覚です!
この尾形からは、倉田保昭さんが扮した悪役に通じるオーラを感じました。
ちなみに倉田保昭さんは、眞栄田郷敦さんの父である千葉真一さんとライバルとされ、しばしば共演し、対決してきました。
そんな血筋だけでは到達できない。彼が磨き上げたオーラで、往年の邦画を連想させてしまう。これはただ事ではないと思いました。
エンドロールには、そんな倉田さんが率いる倉田プロモーションがアクション担当に並んでおりました。
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この映画に漂う往年の邦画らしさの謎が解けた気がします。
この作品はちょっと古いと思える箇所があるのですが、もっとこなれていけば、かえって昭和レトロの味わいとしてうまくマッチするのではないかと思えます。
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