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【実写版映画『ゴールデンカムイ』レビュー】
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玉木鶴見、舘土方という奇跡
若い頃はキラキラした美形だった。微笑むだけで観客が入る。
そんな役者は言うまでもなく素敵です。
それが歳をとり、不惑を過ぎたところで、癖のある役を演じる。
キラキラ時代からは想像もつかないほど癖の強い悪党を楽しそうに演じる。こんな瞬間を見ることも、至福のときです。
キラキラ感では、もう若手に勝てない。そのぶん積み重ねてきた演技力や表現で、新しい魅力を切り開くのですから。
この映画でそこに挑んでいるのが玉木宏さんです。
あの額当てをつけ、火傷のあとがあるのに、ふっとその下から優しく甘い顔が見える。そんな鶴見を、これ以上はないと思えるほど演じています。
しかも鶴見に欠かせない、ゲームを遊んでいるような軽快さや不穏さも出ている。
彼のファンであればこの覚醒を見逃すことはできないのではないか。そう思える熱演です。
この演技で、彼はキャリアをまた一歩大きく踏み出したのだと思うと、実に素晴らしいことだと思えます。
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生き延びて年老いた土方を演じられるのは、もう舘ひろしさんしかそもそもいなかったのではないか?
そう思えるほど、土方も素晴らしい。この土方は白い髭と皺の下から、バラガキと呼ばれた頃のやんちゃな顔がチラリと時々のぞきます。
若い頃、ワイルドでやんちゃであった彼だからこそ、説得力があります。
銀行強盗をして、馬に乗っていく場面は心の底から、なんて素晴らしいのかと感動が湧き上がってきました。
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この作品は基本的に全員適役であり、ミスキャストはおりません。
それでも演技力やキャリアによって、原作にあえてひとつまみ加えることで実写化する意義がさらに増すと思えます。
原作を再現するだけでも十分だけども、あえて上を目指すものがあればさらによくなるのでしょう。
気になる点がないわけでもないが
この作品は、前半よりも後半が盛り上がっていく印象でした。それは役者の演技によるものがあるかと思います。
杉元とアシㇼパは、丁寧で誠実で、固くなっているようにすら思えます。
前半は、原作にあったセリフのクセや、ちょっと古いと思える雑味がありました。
説明台詞が多いわりに、説明不足で原作未読者がついてこられるのか? そこが気になってしまうのも、本作の宿命的な欠点といえます。
そして、映画版を見て、改めて痛感させられました。
この作品は情報量が多い。近代史知識必須であると。さらに北海道独自の歴史や事情も加わるため、厳しいものはあるかもしれません。
だからこそ、ともかく見て感じて面白いように、さまざまな工夫をこらし、盛り上げていく工夫がある。引き込む工夫がある。それも静と動の両方があります。
静謐なコタンで料理を食べる場面のあたたかさ。馬車の上で激しく戦う動。どちらも魅力があります。
先ほど本作にミスキャストはいないと書きましたが、アシㇼパは年齢が少し高すぎると思えました。
山田杏奈さんは素晴らしいですし、幼く見える顔立ちです。それでもアシㇼパは子どもだということが重要ですので、そこは気になりました。
アイヌルーツの出演者が、秋山デボさんしかいない点は惜しまれます。
マイノリティを扱う作品では、オーディションをして、ルーツの一致する新人を起用することが近年世界標準となりつつあります。
本作が十年前ならば気にならなかったことかもしれませんが、現在ですとどうしてもそこがひっかかってしまいます。
私としては、チカパシやエノノカにアイヌルーツの子役が起用されたらよいのではないかと思います。
そして原作が長いこと。
映画をどこまで続けるのか。ドラマ化するのか。長い原作だけに、完結するのかどうかは気になります。
本作の脚本はうまくまとまっています。
原作を換骨奪胎しながら基本的な要素を失わないという点で、ドラマ10『大奥』に次ぐ出来だと私は思います。
完結した話でもあるため、伏線の張り方はむしろ工夫できるはずです。
最終盤が若干駆け足気味の原作を上方修正することも期待できます。
実写版が完結して『ゴールデンカムイ』は完成する――そんな未来を夢見たくなるほど、この映画版は素晴らしいものでした。
漫画作品の映画化として、邦画ではひとつの頂点に立ったと思えます。
そんな天下をとった作品だからこそ、私を含め、要望し、苦言を呈するものは出てきます。
それをケチつけられたとファンダムでギスギスするのではなく、天下人の務めだと前向きに捉えていただければと思います。
期待が大きいものは、それだけ責任も伴う。
だからこそ、本作はよりよい邦画として、二歩先、三歩先を期待されてしまうのでしょう。
もちろん私も期待しています。
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◆関連記事リスト→ゴールデンカムイ
著:武者震之助
【参考】
映画『ゴールデンカムイ』公式サイト(→link)