戦乱中国の英雄たち

『戦乱中国の英雄たち』/amazonより引用

陳情令・魔道祖師

陳情令で中国時代劇に目覚めたら『戦乱中国の英雄たち』を読もう!

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大河ファンにも一読の価値あり

実は日本でも『コウラン伝』を他人事として笑えはしません。

2023年大河ドラマ『どうする家康』は「シン・大河だ!」などと謳われながら、いざ蓋を開けてみれば視聴率10%ぎりぎりのところで低迷。

持ち上げるメディアも減り、早くも失敗作の烙印を押すような記事も出ています。

新しい試みをして、若者を惹きつけたい――そんな制作サイドのインタビューを読むと、こう返したくなります。

「勉強のためにも、中国時代劇をご覧ください!」

中国時代劇は制作数が多い。それゆえ、時代劇における若い世代にも受け入れられるよう、斬新な試みをどんどん取り入れ、切磋琢磨しています。

その代表例が、SF要素です。

中国発SF『三体』が世界的な話題作となり、映像化も進むなど。

SF旋風巻き起こる中国では、時代劇にもその影響が波及して、今まで見たことのない要素が取り込まれたドラマが放映されるようになりました。

一例で挙げたいのが『天意 レジェンド・オブ・キングダム』でしょう。

『キングダム』ファンを取り込みたいためか。サブタイトルに「キングダム」の文字が入った本作。

モチーフは、始皇帝の後になる楚漢戦争がメインで、若干のサブタイトル詐欺感はあります。

このドラマには、現代上海からタイムスリップしたSF作家のヒロインが登場。

始皇帝が心拍数を数えるガジェットを濫用したり、張良がレーザーバズーカで始皇帝暗殺未遂を繰り広げる――なかなか無茶苦茶な作品です。

しかし冒頭に「このドラマはフィクションです」とそっけない断りを入れ、規制の緩い配信作ならではの自由度を活かしきった“怪作”となりました。

『天意』はSF設定で無茶振りをするし、低予算のため合戦シーンも相当削ってあります。

それなのに、見てみると意外と重厚なのです。

SF要素を除けば人物設定は史実を基にしていて、ベテラン役者は所作が端麗かつ重厚、セリフ回しも時代ものらしい風格がある。

戦況の説明は地図とアニメで史実に基づき、わかりやすくしている。

いわば“基礎”がシッカリしているのですね。

『天意』が楽しめる一方、なぜ『どうする家康』には拒否感があるのか?

その答えも本書にあります。

SF設定を用いてフザけまくったようにも見える『天意』は、実際のところ、歴史とは何か、それを描くとはどういうことか、そうした高度な問いかけをしてきているように思える。

私は正直なところ、『天意』は便乗ぽいサブタイトルのうえ、設定が馬鹿馬鹿しかったので、佐藤氏が勧めていなければ無視していたと思います。

しかし、見てよかった。

ただ作品として面白いだけでなく、『どうする家康』が取り入れたらもっとよくなるであろう点も見出せるのです。

 


英雄の名誉を守るのは視聴者たち

どんなに新しい取り組みだとしても、基礎工事がなければグダグダになるだけ。

大河ドラマだけを見ていると、比較対象がどうしても限られますので、中国時代劇に目を向けることは決してマイナスではないでしょう。

例えば作品におけるジェンダー観ひとつとってもそうです。

『どうせ中国なんて世界的にも最低レベルだろ』と誤解されている方もおりますが、それは思い込みだということも本書でわかります。

中国時代劇は、ジェンダー観においてもどんどん進歩しています。

確かに検閲は厳しいとされますが、あれだけ大量にあるコンテンツを政府が全てチェックできるわけではありません。

過激で下劣な性的描写は規制される――なんて最初からダメ出しがわかっているような無駄は、はなからやりません。

性的に無神経な描写があると、政府より先に視聴者が抗議する。それが中国ドラマのお約束です。

日本では性的な描写が規制されると、カウンターとして「表現の自由は守らなければならない!」と持ち出されます。

しかし、果たしてそうなのか?

実在した人物を用いて、ウケ狙いのために安易なエロ描写ばかりを描くのはよいことなのでしょうか?

中国時代劇と視聴者の反応を見ているとそう考えてしまいます。

実在する英雄の名誉を守るという点では、あまりにふざけた描写を回避する中国時代劇のような“良識”こそ必要ではないかと、本書を読んで思うのです。

『どうする家康』のように、織田信長徳川家康のBL描写は、中国時代劇ではまずないでしょう。

あったとしても、登場人物の名前を変えられるかもしれません。

異民族と漢民族の関係性についても、中国の進歩が見えます。

そのあたりは本書を読んでいただくとしまして、日本の大河ドラマにおける民族の扱いは、北海道ご当地、アイヌを主役とした作品がないことで説明がつくのではありませんか。

中国時代劇は、漢民族以外の扱いにもっと慎重であると本書の事例を見るとわかります。

比較しながら楽しむためにも、大河ドラマファンにも本書はお勧めです。

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-陳情令・魔道祖師

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