Amazonの海外ドラマランキングで首位に輝いた『陳情令』。
同じ原作のアニメであり、これまた大人気の『魔道祖師』も
“#魔道祖師しんどい”
というハッシュタグが上位に上がるほどの大反響となりました。
兎にも角にも意表をついてくる展開がシンドイ……と、日本ではなりますが、本場の中国では「ああ、これは王道」となっているかもしれません。
というのも武侠ファンからすれば「ああ、あれがモチーフか」となることが実に多いのです。
では、何がどうモチーフなのか?
本稿では、王道となる元のキャラクター像と比較してみたいと思います。
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同工異曲
まず最初に押さえておきたいのは、各キャラについて「パクリ」と即断しないことです。
「同工異曲」という言葉があります。
似たような手順で作っているのに、別のものが出来上がる――見事なアレンジだね!
と、原典である韓愈(かんゆ)『進学解』では、褒めるニュアンスで使われています。
この同工異曲という言葉、現在では「パクリ」と揶揄するような意味合いも感じられますが、本来はそうではなかったのです。
そして『陳情令』&『魔道祖師』こそ、同工異曲、匠の技が詰まった作品と言えます。
『魔道祖師』の公式サイトには「世界が熱狂する中国BLファンタジー小説」とあり、日本向けのキャッチコピーとしては無難ですが、どうしたって抜け落ちてしまう要素がある。
それが武侠です。
武侠から同工異曲を探りましょう!
※なお本稿は性質上、各作品のネタバレを含みますことをご了承ください
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魏無羨――羨むことを知らぬ好漢
この作品は、名前に意味が隠されています。
まずは魏無羨から。
名の「嬰」は、名詞としては「おむつのとれない赤子」という意味があります。無邪気なイメージですね。
字の「無羨」は、羨むことがないということ。赤ん坊のように無邪気で、何も欲しがらない。そんな印象があります。
しかし周囲からは「夷陵老祖」――術を極めた畏敬の念を込めて呼ばれてしまう。名前の時点で運命があります。
この魏無羨は、金庸『笑傲江湖』の令狐冲がモチーフとわかる要素がいくつもあります。
令狐冲の「冲」はからっぽ。無邪気という意味もある。無欲でカラッとしている彼には合っている名前です。
この二人の共通点とは?
酒の飲み方が豪快だ! しかもこぼす……
魏無羨は酒が大好き!「天子笑」という酒を飲みたくてたまらない。そんな場面が印象的です。
しかも飲み方が豪快です。
酒器を口につけて飲めばいいのに、なぜか離して飲む。うれしそうに真昼間からグイグイ飲む。その仕草がいかにも「うーん、やはりこれだ! かっこいいと思わない?」と演出されている。
これって不思議ではありませんか?
日本や海外のドラマで、おっさんならさておき、若い美青年が酒をグイグイ飲み、それがかっこいいとされる。
これは令狐冲の大きな特徴です。
金曜の小説でも、令狐冲は若干年齢層が上。かつ酒好きで「俺に酒よこせ! 酒だ、酒だ!」とやたらと言い出す。酒を持ち歩き、よく飲む。しかも無駄にアクロバティックな飲み方をします。
酒入り瓢箪や瓶を投げる。その瓢箪が地面に落ちぬうちに敵を倒し、落ちる前に受け止めて飲む。
かっこいい。でも意味がわからないし、もっと落ち着いて飲もうよ。
半分以上こぼれてない?
そうツッコミたくなりますが、それが「あの令狐冲のかっこいい仕草!」扱いなのでもう仕方ありません。
ファンアートでも、コスプレでも、令狐冲は酒がセットです。
愛する相手と音楽を共に奏でるのさ〜
『笑傲江湖』は楽曲の名前です。この作品は、正派と邪派の対立が描かれています。
令狐冲は正派に属するものの、邪派の気のいい人物を目の当たりにし「こんな対立意味がないんじゃないかな?」と思ってしまう。
すると正派からけしからん奴だと突き上げをくらい、酷い目に遭います。
それでも対立を乗り越え、邪派の任盈盈(じんえいえい)と心を通わせ「笑傲江湖」を合奏する。そんな楽器の演奏と敬愛をからめた話が『笑傲江湖』です。
これってそのまんま、まさしく、魏無羨と藍忘機ではありませんか!
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